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第十二章 けつれつ
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しおりを挟む私は昼餉が終わって、静かにお茶を飲んでいた。
ほうじ茶の温かさがお腹に染み込んで、満腹感を促す。
そんな私の視線は正面に座する澄彦さんに注がれている。
彼も食事が終わり、私と同様にほうじ茶をいただいている。
けれど私の様に穏やかな表情ではなく、いつになく険しい顔をしていた。
「して、息子よ。どうしてこの時間にお前がここにいるのだ?」
「昼餉をいただきに」
私の隣に座る学ラン姿の玉彦の前にはお膳ではなく、すでに空になったお弁当箱があった。
「昼を共に食べる友人がいないのか?」
「居りますが、比和子が寂しがるので」
お茶を噴き出しそうになった私は、桜柄の湯呑みをお膳に置いた。
確かに寂しいとは言ったけど!
玉彦は至って普通にお弁当箱を包む。
そして私を見るとニコリと笑った。
「午後は部屋で自習をするぞ」
「おい、待て。学校はどうした」
尤もな突っ込みを入れた澄彦さんに、笑顔とは対照的な無表情で向き直った玉彦は。
「早退しました」
「早退ぃ? 調べ物はどうするんだ」
「それはもう終わりました。音楽準備室近辺を根城にしています。以上です」
報告を受けた澄彦さんは、眉間の皺を解しながら目を閉じた。
「息子よ。先ほど、やりやがったな?」
「はい」
「なぜだ」
「調べ物の為です」
「わかっている。もっと他に方法があっただろう!?」
「一番効率的なものを選択しました」
「……」
「小まめに調べるよりも、一斉に行った方が逃げられぬので」
「お前が言う効率的とは、時間のことだな。力の大小ではなく」
「はい」
悪びれもせずに答えた息子に、どこで教育を間違ったのかと澄彦さんは頭を抱えた。
性根だけは真っ直ぐに育てたと語った澄彦さんの通りに、息子は大事な者の側に居たいという真っ直ぐな気持ちでここに居る。
取り合えず、お役目の下調べは終わらせて、午後は学校に居てもお屋敷に居ても自習をするつもりであることから、強く文句を言えない澄彦さんは腕組みをして天井を仰いだ。
「……もう、何も言うまいて。好きにしろ。ただし責任は持て。父はこれから鈴白を出る。夜半には帰る」
「はい」
「比和子ちゃん。手綱、しっかり握って」
「……すみません」
澄彦さんはお役目の前から疲れた様子で、座敷を出て行った。
すると玉彦はようやく邪魔者がいなくなったとばかりに、詰め寄ってくる。
「池で何をしていた」
「へっ?」
「多門と池に居ただろう」
本当にさっきのあれが山神様のお力の一端だったと感心しつつも、頬を膨らませる玉彦に呆れる。
この人、何の為に美山から鈴白まで範囲を広げてたんだろうって。
白いのは校内に居るって判ってるはずなのに。
「何って、話をしてただけだよ」
「肩を抱かれてか」
「それはあの、変なのがぞわぞわ来たからでしょう!?」
私が言い返すと玉彦は不機嫌そうに黙り込んで、お弁当箱を台所に下げに行く。
こういう時は放っておけばいい。
私が部屋に戻ると、廊下に体育座りする多門が待っていた。
「何してんのよ」
「待ってた。だってすることないし」
「そう、まぁ、中に入りなさいよ」
清藤の話を聞いて私はすっかり多門に対する警戒心を解いていた。
それは多門も同じらしく、初めて出会った時の不穏な雰囲気ではなく、近所の年下の男の子が遊びに来たような感じだった。
「なんつーか、女の子の部屋じゃないね」
「うん。来たばっかりだからね」
「それに、次代の痕跡があちこちにある……」
「は?」
「いや、うん。男と女だもんね」
「なっ、なに言ってんの、あんた!」
室内を珍しそうに見渡して、多門は椅子に落ち着いた。
全てを見透かされたような感じがして、私は赤くなって何も言えなくなった。
そんな状況の中で。
「入るぞ」
玉彦登場。
「何をしている、多門」
机に教科書やノートを置いて、座卓を出した玉彦は多門を一瞥した。
「惚稀人の守護」
「私が比和子と共に居る」
「当主澄彦様から任は解かれてない。次代の意には添えない」
「勝手にしろ。邪魔だけはするな。比和子、座れ。始める」
そんな状況の中、私は南天さんがそろそろと助け船を出してくれた十六時まで休憩を挟まずに玉彦のスパルタ自習に涙を飲み、多門の冷やかしに耐えながら頑張ったのだった。
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