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第十四章 せいばい
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しおりを挟む固く目を閉じてしゃがみ込んだ瞬間、私の前に黒駒が白蛇との間に滑り込んできた。
しかし白蛇は私と黒駒ごと飲み込もうとさらに顎を落として、一息に飲み込む為に身体を膨らませる。
そのほんの僅かな黒駒に対する行動のロスが、白蛇の命運を決めた。
「押し切る!」
蒼白く発光する玉彦が私と黒駒のすぐ横を抜け、太刀を下段から上へと振り上げた。
身体から切り離され空中に投げ出された白蛇の頭部は、校舎の玄関から放たれた数本の矢に射貫かれて降り積もりつつあった雪の上に落ちた。
頭部を貫通していた矢は、落下の拍子に地面に突き刺さり、図らずもそこに縫い止めていた。
のた打ち回る白蛇の身体の背中から蓄えられていた山の怪の塊を切り離した玉彦は、口元を隠さずに宣呪言を詠い、あっという間に祓ってしまうと、残された白蛇のうねる腹に太刀を突き立てた。
柄から手を離した玉彦の下に、豹馬くんと須藤くんが揃って集まる。
多門は私に駆け寄って黒駒を一撫でして消してしまった。
「立てる?」
差し出された手を頼りに立ち上がって、私と多門は玉彦たちの下へと合流する。
その脇では白蛇の胴体が突き立てられた太刀を中心に蜷局を巻いていた。
赤く毒々しい舌を覗かせている頭部を玉彦は眺めている。
宣呪言を詠うことなく、ただじっと考え込んでいた。
「上守さん、大丈夫だった?」
須藤くんは私の横に来て心配そうにしたので、頷きつつ視線は下を向いた。
「結局、私、何の役にも立たなかった。眼も発動できなかったし」
「あ、それ思った。どうしたんだ上守。スランプか?」
玉彦の隣で錫杖を持ったままの豹馬くんが不思議そうに首を捻ったので、私は溜息をついた。
眼のスランプって聞いたことないし。
「違うよ……。あの白い蛇。神様なんだと思う……」
「嘘だろ!?」
「神守の眼が通用しなかったから、多分ね……」
豹馬くんは目を見開いて、うねり続けていた白蛇へ視線を移した。
神様なのにどうしてこんな事になってしまったんだろう。
「腑に落ちた。お前たち、正門で香本と合流し、そこで控えよ」
ずっと何かを考えていた玉彦はそれだけ言うと、地面に突き刺さっていた矢ごと白蛇の頭部を持ち上げ、蜷局巻く身体の横にもう一度頭部を地面に突き刺す。
「行こう」
多門に二の腕を引かれて、私はよろめく様に一歩を踏み出す。
背を向けている玉彦から滔々と蒼い炎が揺らめいている。
あの、蒼い炎は何なんだろう。
ここへ到着してからずっと彼は纏っていた。
「玉彦」
私の呼びかけに、彼は少しだけ肩越しに振り返った。
「ゆけ。比和子」
「うん」
私の名を呼んだ口元が微かに笑っていた。
そして呼ばれた私も走りながら口角が上がった。
校門前に到着すると豹馬くんと須藤くんが、突き立てた自分たちの錫杖に凭れ掛かっていた。
私は豹馬くんの隣へ落ち着いて、小声で尋ねる。
「あのさ、ずっと玉彦から出てるあれって何なの?」
きっと豹馬くんにも視えているだろうと私は思った。
須藤くんや香本さんとは違って、彼は私と同じく視える人だから。
豹馬くんは怪訝そうに私を見てから、遠くにいる玉彦を目を細めて見た。
「何も出てないぞ」
「え?」
そんなはずはない。
今もまだずっと揺らめいているのに。
「あ、そっか……。私の目の錯覚かな? あはは……」
私は作り笑いをして、少しだけ離れた。
もしかして、これが九条さんの言っていた四の世界なんじゃないだろうか。
流れが視える。そうある、そうなるという流れ。
違うとすれば、Y軸に伸びる神守の眼の何かの力。
でも、どちらにしても私にはあの青い炎が何を示しているのか、さっぱりだった。
「始まるぞ」
豹馬くんが声を潜めて、白蛇の前で両腕を水平に広げた玉彦を凝視していた。
須藤くんも香本さんも、しゃがみ込んでいた多門でさえ立ち上がって真剣な眼差しを向ける。
私は一度だけ、玉彦のあの仕草を見たことがあった。
あの時は座っていたけれど。
ぱーん、と深々と降る雪が震えるほどの玉彦の柏手。
それから朗々と玉彦が宣呪言を詠う。
惚稀人願可の儀の祝詞の様に、長く、長く。
私はこんな時だというのに聞き惚れていた。
宣呪言の内容は全く全然解らなくて、でも何となく感じる。
空へ、天へ還れと。
この現世(うつしよ)は在るべき場所ではないと。
しばらくすると、白蛇の頭部と身体が辺りに滲み始めた。
輪郭が曖昧になって、白い靄になり、玉彦から揺らめいていた蒼い炎が雪を巻き上げ一陣の風になりそれを消し去った。
そして、玉彦は空を見上げて、もう一度最後に両腕を開き柏手を打った。
「やっぱ、すげぇ……」
多門は興奮し目をキラキラさせて、こちらへと歩いてくる玉彦に尊敬の眼差しを向けている。
そして何故か隣の須藤くんも同じだった。
「初めて見た」
「何が? だっていつも通りの祓いでしょ?」
「馬鹿か。全然違うだろ! 上守、お前もう少し勉強しような……」
豹馬くんが須藤くん越しに私を憐れむ。
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