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番外編
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しおりを挟む「今はもう次代の母屋になっているが当時は先代道彦の母屋で、池には金魚が泳いでいた。で、ある日。父が役目で不在の時にだな、僕と光一朗はその池で金魚すくいの猛特訓をしたんだ」
「猛特訓ですか……」
呆れて口にすると、澄彦さんは苦笑いする。
「夏祭りの金魚すくいでどちらが多く掬えるのか、他の奴と賭けをしてね。どうしても勝ちたかったんだ」
「どうしてですか」
「当時僕と光一朗が気に入っていた女の子の彼氏だったから。そいつが鼻持ちならない奴でさぁ。ぎゃふんと言わせてやりたかったんだよ」
あまりにも小さな理由に私と玉彦はもう何も言う気が起こらなかった。
「それで猛特訓して勝利したのは良かったんだけど、池の金魚がね、疲れ果ててしまって天国に旅立った」
……。
「そこで僕と光一朗は困ってしまってね。可愛がっていた金魚が死んでしまった父に大目玉を喰らうのは分りきっていたし、かと言って祭りが終わったあとで金魚は手に入らない。自分たちで掬った金魚はみんなに大盤振る舞いしてしまった手前、返してくれとも言えなくてね。仕方ないので僕たちは天狗の血を求めて山に入った」
「馬鹿な……」
隣で息を飲んだ玉彦は、右手で額を押さえた。
「玉彦?」
「鈴白大天狗の血には死んだ者を生き返らせることが出来ると言い伝えられている。しかし金魚ごときで……」
「まぁそう言うなよ。で、僕たちは天狗を捕まえたんだけど」
「捕まえたんですか!?」
「捕まえたよ。僕と光一朗と、南天で」
南天さん……。
毎度この二人に良いように使われている。
「でもソイツが小っちゃい天狗でさぁ。自分の血にはそんな力は無いって泣いていうんだよ。だったらお前の親の血持って来い、っておでこに札を貼り付けて解放したら、竹かごにね、金魚を入れて戻って来たんだ」
やってることはカツ上げと同じだ。
しかもおでこに御札って、戻って来なかったら払うぞと脅迫しているのと同じだ。
「それでこちらとしては金魚が手に入れば良かったし、とにかくこの金魚がすぐに死んだら困るからもし池で金魚が死んだら新しいのを放り込めって約束させて終いにしたんだよ」
「死んだら困るって……」
「だってすぐに死んだら父にばれるだろう?」
悪びれもせずに言ってのけた澄彦さんに、玉彦は首を振った。
「蓋を開ければこのような話しだったとは。爺さまは金魚に名前を付けていた。なので違う金魚が増えれば気がついていただろう」
「え、本当か!?」
「爺さまには全てお見通しだったと思われる……」
「マジかよ……」
がっくりと肩を落とした澄彦さんは呆然としていた。
澄彦さんは道彦さんにバレていないと思っていた。
けれど道彦さんは全てを知って黙っていた。叱りもせずに。
たぶん道彦さんが存命中にも天狗は現れていたはずで、事情も天狗から聞いたのかもしれない。
それでもなお気がつかないフリをし続けていた理由は何だろう。
「とにかく己で蒔いた種だ。天狗に約束の完了を告げてやるべきであろう」
「あぁそうだな……。あの時の小さい天狗が大天狗になってて、返り討ちになったら後のことは頼んだぞ」
澄彦さんはそう言って立ち上がると、明日から一週間朝の修練に参加することを宣言して座敷を出て行く。
たぶん大天狗と対峙しても渡り合えるように鈍った身体を鍛えるつもりなんだろうけれど、さっき天狗は代替わりしたって南天さんが言っていた。
どうやら澄彦さんの一週間は徒労に終わりそうだ。
代替わりの事実を告げなかった玉彦を見れば、明日から楽しみだと微かに口元に笑みを浮かべていた。
後日。
宗祐さんから天狗の件は完了したと教えられたのは私が池の金魚に餌をあげていた早朝だった。
愛おしそうに金魚を眺める宗祐さんの顔は穏やかだ。
「道彦様はこの池の金魚が増える度に、笑っておられた」
「え?」
「金魚が減れば自分が悲しむから、澄彦様がこうして天狗を使ってまで金魚を補充していると」
「それは……」
大目玉を喰らうのが嫌で天狗を脅していただけなんだけどな……。
天狗にすればいい迷惑である。
けれどそんな事実なんか知らない道彦さん付きの稀人だった宗祐さんは、言葉を続ける。
「天狗を従えることが出来るほど成長した次代の澄彦様に安心されていた」
いや、その天狗はちっこい天狗だったんだけど。
ぐっとツッコミの言葉の飲み込むのが大変だった。
知らぬが仏、とは正にこの事だった。
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