私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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番外編

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「……比和子」

 眠りを妨げる玉彦の呼びかけと、遠慮がちに重ねられた唇に私はカッと目を開けた。
 いつもならそのまま傾れ込む流れなのに私が覚醒をしたので、玉彦も目を見開いて固まる。
 半身だけ被さっていた玉彦を押し退け、私はガバッと立ち上がり電気を煌々と点けた。
 さっきまで寝ていたお布団を見下ろすと呆気に取られている玉彦が眩しそうに顔を顰めている。
 そうして私は毛布を引き剥がし、敷布団だけにしてから、寝間着の前を少しだけ肌蹴させている玉彦の前に仰向けになった。

「どうぞ!」

「……なにがだ」

「だから、どうぞ!」

「……まったく」

 ゆっくりと瞼を下ろした玉彦は溜息を吐いて胡坐を掻く。

「お前は趣きというものを理解しているのか。なにがどうぞ、だ」

「でも……どうぞ!」

 私はどこからでも掛かって来いと言うようにお布団に大の字になった。

 私は、考えたわけよ。
 いつも暗い中でしているから見えないんだって。
 しかもお布団で隠すところがあるからいけない。
 玉彦が五センチ四方のアレをどこに隠し持っているのかも気になる。

 なので次にする時には、恥ずかしいけど電気を点けて、お布団も引っ剥がしてすると決めたのだ。
 いつまで経っても動かない玉彦を見れば、彼は呆れを通り越して無表情になっていた。

「興が削がれた。寝る」

 そう言った玉彦は電気を消して、お布団を掛け直し、私に背を向けてしまった。
 こんな事は初めてだったので、私はすぐに玉彦の肩を掴んでこちらを向かせる。

「玉彦? しないの?」

「……どうぞと言われてする馬鹿がどこにいる」

「据え膳食わぬは男の恥っていうじゃないの」

「……どこの世界にどうぞと大の字になる女に欲情する男がいるというのだ」

「欲情、しないの?」

「せぬ!」

「だって玉彦だって明るくしてしたがる時があるじゃん。全力で拒否してるけど」

「それは恥じらう姿を見て愛でたいのであって、開き直って恥じらいの無い姿を見たいわけではない」

「面倒臭いわね」

「ともかく。今日は寝る」

「……わかった。でも次もその次もずーっと。私はこうするからね」

 とにかく一度見定めるまでは、妥協する訳にはいかない。
 私の確固たる意思を感じ取った玉彦は、眉根を寄せる。

「何がどうしてそのような考えに到ったのだ」

「え?」

「大方、鰉辺りにでも何か吹き込まれたか」

「那奈は関係ないよ。ただ……」

「ただ?」

「ちょっと疑問があって……」

「疑問?」

 段々と問い詰められた私は視線を泳がせた。
 玉彦に頭をガシッと掴まれて観念した私は、率直に聞いてみた。
 いつ付けてるの?って。
 そうすると玉彦は時が止ったかのように動きを止めて、私を凝視する。

「いつ、とは」

「だから、そのまま言葉の通りよ」

 玉彦は私の頭から手を離し、横向きのまま腕組みをする。

「何故気になる」

「大事なことでしょ。そもそもきちんと避妊してる?」

「してる。が……」

「が?」

「してる」

「じゃあいつ?」

「好(よ)きときに。流れを止めぬように気を付けて」

「じゃあさ、じゃあさ。それはどこから持ってくるの?」

「どこから?」

「玉彦が買ってくるの?」

 ここ、大事。
 かなり、大事。

「秘密だ」

「えええええぇぇっ!」

「そのような物事は女性に語ってはならぬというしきたりだ」

「はぁ? そんなしきたりある訳ないじゃん!」

 思わず両手で玉彦の胸元を掴み上げる。
 何でもかんでもしきたりで事が収められると思わないでよ?
 私が睨み付けても怯まない玉彦だったけど、観念したように肩を竦めた。

「まったく……。これまでは父上の母屋にしか訪れなかった薬問屋が、比和子がこちらへ落ち着くと決まってから顔を出す様になったであろう?」

 所謂置き薬屋さんだ。
 毎月使った分のお薬だけを補充して行ってくれる。
 そしてこの薬問屋さんはご夫婦でやって来るので、私は奥さんの方に毎月の生理に使うナプキンや片頭痛のお薬を頼んでいた。
 ということは……。

「察したか」

「……うん」

「何も恥ずかしいことではない。薬問屋は五村外の者ゆえ、心配するな」

「……はい」

 段々と小さくなる私に玉彦が苦笑する。

「そのようなことは全て俺が弁えていると前にも言ったであろう。……しかし」

 玉彦が口籠ったので、胸元を弛めると、彼は上目遣いに私を見る。
 何か、良からぬことを考えている。

「偶にはそのままを所望したい」

 衝撃的なお願いに私は再び首を絞め上げた。



 結局玉彦がどこに隠し持っているのか聞きそびれてしまったけれど、粗方私の疑問は解決されたのだった。
 そして亜由美ちゃんと豹馬くんの問題は、それからしばらくして解決した。
 これは秘密だけど、偶々夜のお役目で正武家のお屋敷に来ていた豹馬くんと須藤くんを晩酌の御供にしていた澄彦さんが一役買ったようである。

 呑んだくれた三人を残して母屋に戻って来た玉彦が、下らない下ネタ話には付き合い切れぬとぼやいていたから、まず間違いない。
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