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Episode 2
守りたいもの、守るべきもの 3
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帰り道。
オンライン通学のため私服の映奈と、一般的な普通科の高校に通う制服姿の紬が並んで歩く。紬は通学手段として自転車を使っており、ブランドは『カグラ・ファルラート(Farrat=自転車の意味)』が販売するありふれたスポーツタイプの自転車だった。
「そうだ、紬ちゃん。紬ちゃんって原付の免許取ってる?」
「えっ、ううん、ないけど」
「だったら今度取りに行かない? 免許取ったらうちのお父さんかお母さんのスクーター借りてちょっと遠出とか楽しみたいな。それか、アイドルとしての稼ぎを下ろして今話題のスーパーカブかビーノを買おうと思う!」
「ああ、山梨県が舞台のアニメの。見たよ、いいアニメだよね」
「でしょー。それにもうひとつ紬ちゃんをバイク仲間に誘いたい理由があって。わたし実は紬ちゃんと違って機械には弱いから、何かトラブったら紬ちゃんに頼めそうなんて下心もちょっとは、ね?」
「えへへ。推しのアイドルに頼ってもらえるなら何でもしちゃうよ」
「まったくこいつは、いいように使われようとしてんだから少しは嫌がりなよ~……って、おりょ?」
映奈は進む先にいる少年たちの存在に気付いた。
「何してんだろ。自転車泥棒?」
「それはまずいね。百十番しようか」
「少し様子を見てからにしよう」
だがその少年たちは自転車泥棒などではなかった。
どうやら自分の手を汚して修理しようとしている。だが工具類は何も持っていない。
紬はわずかに顔をしかめたが、胸の前で拳を握って恐る恐る少年たちに声をかけた。
「どっ、どうしたのかな? 自転車が壊れちゃったのかな?」
「えっ? ああ、まあその、チェーンが外れちゃって。はめようとしてもはまらないんです」
三人組の少年たちのうちスポーツをやっていそうな吊り目の少年の自転車だが、チェーンが六速ギア(最高速度を出せる小さなギア)の外側に脱線している。何度も直そうとして、少年たちの手は黒い油にまみれ、チェーンはギア周辺でよじれている。
「私に貸して。ギアは三から四速に合わせて」
「あっ、うん」
紬は少年からギア調整を受けた自転車を預かる。
まず、ペダル側のギアの上部にチェーンを引っかけ、ペダルを手で持って半分回す。その際、スタンドは下ろして後輪が空転するようにしておく(たとえギアにかかっていなくても、チェーンがギアを巻き込んでタイヤを回す恐れがある)。半回転すると、ペダル側のギアにきちんとチェーンがかかった。
次に、六連ギアのどこにかけるかを調節する小さなギア部『ディレイラー』にチェーンをかけ、ディレイラーを倒しながら六連ギアの外側にある六速ギアに引っかかるようにチェーンをかける。そして再びペダルを手で回せば、チェーンはディレイラーにいざなわれてギアにチェーンがかかり、四速ギアに噛んで安定して回る。
「ふぅ。できた」
「すっ、すげえよねえちゃん! こんなに簡単に直しちまうなんて!」
自転車の持ち主は紬を絶賛するが、紬はありがとうと返して少年に言った。
「でもチェーンが外れるなんてことが起こったんだから、ギア回りに不具合があるのかもしれない。今は最速にしないで四速までで走るようにして、不安なら自転車屋さんに持って行って見てもらってね。私もプロじゃないからこのくらいの応急処置しかできないから」
「充分だよ。ありがとな、ねーちゃん! 気を付けて乗るよ!」
少年は汚れた手をズボンで拭いて自転車で駆けてゆく。友達のふたりもありがとうございましたと丁寧に言ってスポーツ少年を追いかける。
しかし見てみれば、紬の手もまた油まみれだった。
そんな紬に映奈は言う。
「すごいじゃん、紬ちゃん! 自転車のチェーンもあっという間に直しちゃった!」
「あっ、あのくらい、落ち着いて構造を観察すれば誰だって理解できるよ。でも、悪い気はしないかな?」
「いや全く分からん。わたし自転車なんて乗れればいい程度の人間だから」
「そっか、確かに私もスマホは使えてもスマホがどういう仕組みで動くかなんて分からないもんね」
「……レベチ」
「え?」
「ううん何でもない。このド三流、格の違いってやつを見せられたぜ。ところでその手、どうするの?」
「普通に石鹸で落ちるし大丈夫だよ。バイトも本屋で、指紋付着防止と手指保護のために手袋してるからね。今からでもバイト先のトイレのを貸してもらえればいいんじゃないかな」
「え? バイト? してたの?」
「うん。よかったらどう?」
そして紬は、立てていた自転車のハンドルを薬指と小指で握って押してアルバイト先に映奈を案内した。
オンライン通学のため私服の映奈と、一般的な普通科の高校に通う制服姿の紬が並んで歩く。紬は通学手段として自転車を使っており、ブランドは『カグラ・ファルラート(Farrat=自転車の意味)』が販売するありふれたスポーツタイプの自転車だった。
「そうだ、紬ちゃん。紬ちゃんって原付の免許取ってる?」
「えっ、ううん、ないけど」
「だったら今度取りに行かない? 免許取ったらうちのお父さんかお母さんのスクーター借りてちょっと遠出とか楽しみたいな。それか、アイドルとしての稼ぎを下ろして今話題のスーパーカブかビーノを買おうと思う!」
「ああ、山梨県が舞台のアニメの。見たよ、いいアニメだよね」
「でしょー。それにもうひとつ紬ちゃんをバイク仲間に誘いたい理由があって。わたし実は紬ちゃんと違って機械には弱いから、何かトラブったら紬ちゃんに頼めそうなんて下心もちょっとは、ね?」
「えへへ。推しのアイドルに頼ってもらえるなら何でもしちゃうよ」
「まったくこいつは、いいように使われようとしてんだから少しは嫌がりなよ~……って、おりょ?」
映奈は進む先にいる少年たちの存在に気付いた。
「何してんだろ。自転車泥棒?」
「それはまずいね。百十番しようか」
「少し様子を見てからにしよう」
だがその少年たちは自転車泥棒などではなかった。
どうやら自分の手を汚して修理しようとしている。だが工具類は何も持っていない。
紬はわずかに顔をしかめたが、胸の前で拳を握って恐る恐る少年たちに声をかけた。
「どっ、どうしたのかな? 自転車が壊れちゃったのかな?」
「えっ? ああ、まあその、チェーンが外れちゃって。はめようとしてもはまらないんです」
三人組の少年たちのうちスポーツをやっていそうな吊り目の少年の自転車だが、チェーンが六速ギア(最高速度を出せる小さなギア)の外側に脱線している。何度も直そうとして、少年たちの手は黒い油にまみれ、チェーンはギア周辺でよじれている。
「私に貸して。ギアは三から四速に合わせて」
「あっ、うん」
紬は少年からギア調整を受けた自転車を預かる。
まず、ペダル側のギアの上部にチェーンを引っかけ、ペダルを手で持って半分回す。その際、スタンドは下ろして後輪が空転するようにしておく(たとえギアにかかっていなくても、チェーンがギアを巻き込んでタイヤを回す恐れがある)。半回転すると、ペダル側のギアにきちんとチェーンがかかった。
次に、六連ギアのどこにかけるかを調節する小さなギア部『ディレイラー』にチェーンをかけ、ディレイラーを倒しながら六連ギアの外側にある六速ギアに引っかかるようにチェーンをかける。そして再びペダルを手で回せば、チェーンはディレイラーにいざなわれてギアにチェーンがかかり、四速ギアに噛んで安定して回る。
「ふぅ。できた」
「すっ、すげえよねえちゃん! こんなに簡単に直しちまうなんて!」
自転車の持ち主は紬を絶賛するが、紬はありがとうと返して少年に言った。
「でもチェーンが外れるなんてことが起こったんだから、ギア回りに不具合があるのかもしれない。今は最速にしないで四速までで走るようにして、不安なら自転車屋さんに持って行って見てもらってね。私もプロじゃないからこのくらいの応急処置しかできないから」
「充分だよ。ありがとな、ねーちゃん! 気を付けて乗るよ!」
少年は汚れた手をズボンで拭いて自転車で駆けてゆく。友達のふたりもありがとうございましたと丁寧に言ってスポーツ少年を追いかける。
しかし見てみれば、紬の手もまた油まみれだった。
そんな紬に映奈は言う。
「すごいじゃん、紬ちゃん! 自転車のチェーンもあっという間に直しちゃった!」
「あっ、あのくらい、落ち着いて構造を観察すれば誰だって理解できるよ。でも、悪い気はしないかな?」
「いや全く分からん。わたし自転車なんて乗れればいい程度の人間だから」
「そっか、確かに私もスマホは使えてもスマホがどういう仕組みで動くかなんて分からないもんね」
「……レベチ」
「え?」
「ううん何でもない。このド三流、格の違いってやつを見せられたぜ。ところでその手、どうするの?」
「普通に石鹸で落ちるし大丈夫だよ。バイトも本屋で、指紋付着防止と手指保護のために手袋してるからね。今からでもバイト先のトイレのを貸してもらえればいいんじゃないかな」
「え? バイト? してたの?」
「うん。よかったらどう?」
そして紬は、立てていた自転車のハンドルを薬指と小指で握って押してアルバイト先に映奈を案内した。
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