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Episode 2
守りたいもの、守るべきもの 9
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「……甘いって評判の睡眠薬。全部飲んだら、楽に死ねるかな……?」
購入履歴に、睡眠導入剤があった。
「な……!? ちょっと何考えてるの!? ホントに何があったの? もうこれ自殺の準備でしょ。そこまでさせるものは何なの? ねえ教えて! 何も言ってくれなきゃ力にもなれない!」
「ダメだよ……。そんなことしたら映奈ちゃんを巻き込んじゃう。これは私の問題なの。だから、映奈ちゃんには関係」
「ある! だって友達じゃん! 友達が苦しんでるのに何も知らなかったなんて嫌だ!」
「映奈ちゃんはアイドルで、私はただのファンで! そんな私が映奈ちゃんにここまでよくしてもらってるのは何かの間違いだよ! そうじゃなきゃこんなことにならなかった!」
「こんなことってどんなことさ!?」
「映奈ちゃんと仲良くしてるからって調子に乗るなって言われて突き飛ばされた!」
紬は叫ぶ。
そんな紬の白状に、映奈は愕然となった。
「頭打ったし、足ひねったし、私の知らないところで陰口叩かれたし、まるで私が映奈ちゃんと仲良くしてることで調子に乗ったやつだって思われてたみたいだし。仲良くしてくれた子もその子にうなずくしかなくて、結局はその子だって、名前も知らないしろくに話したこともないのに、それなのに私のことをそこまで言うなんて……」
「どうして、そんなことに……?」
「気に入らなかったんだよ、アイドルとファンごときが一緒にいるのが。そうじゃなくても普段の私は陰キャで根暗で揶揄の的で、助けを求めたって誰も助けてくれない、先生に相談したって知らない扱い。お父さんは仕事で忙しいし、こんな時にお母さんくらいいてくれたらいいのにって思うけどもう頼ることもできない。じゃあ誰に頼ればいいの。もう誰も思い浮かばない。もう学校にも行きたくない、でも行かなかったら行かなかったで学校が通報するとかして絶対にお父さんに迷惑がかかる。だったらいっそ、眠れないことを理由に睡眠薬を間違った量飲んでずっと眠り続けたほうが楽だなって。だから」
「泣いて」
「え?」
「泣いて」
映奈は紬のスマートフォンを自分のコートにねじ込み、紬を抱き寄せて自分の胸にうずめた。
「ひぅ!?」
「頼れる人はここにいる。見失ったら振り向かせる。友達が困っている時には頼らせて。もうわたしたちはアイドルとファンじゃない、互いに唯一無二の友達なんだから。もし紬ちゃんにそれが信じられなくても、わたしだけは強く信じるから」
「…………、えーな、ちゃ……」
そして。
「うぅ、うあぁ……!」
紬は慟哭した。
声を上げて泣き叫んだ。
映奈にしがみついて離れなかった。
小さな子供のように泣きじゃくった。
滝のように流れる涙が映奈のコートとセーターを濡らす。それでも映奈は黙って紬の頭を撫で、紬が泣き止むまで背中を抱き寄せた。
そして映奈は、自らの胸の中で泣きじゃくる紬の背中を見つめて思った。
――そっか。紬ちゃんは泣き虫なんかじゃない。頼る人もいないから、わたしに会うまで泣くに泣けなかっただけ。だから問題を抱え込んで感情を押し殺すことしかできなかった。いつの間にか紬ちゃん自身もそれでよしと自分を無理に納得させるようになって、結果それは負のスパイラルとなった。
――やっぱり問題は紬ちゃんにあるんじゃない、必死に助けを求めた紬ちゃんのシグナルを無視し続けてきた、紬ちゃんを取り巻く環境そのものにある。だったら、わたしにできることはひとつ。たとえ世界中の誰も頼りにならなくても、わたしが紬ちゃんの味方であり続ける。
――目の前のファンひとり笑顔にできなくて何がアイドルだ。せっかくできた友達を守れなくて何が友達だ。これはわたしの決意だ。自己満足とも言えるかもしれない。それでもわたしは、友達の心と自分の矜持を『守らなければいけない』。それはまた『守るべき』ものだ。
そしてそれからしばらく、紬は映奈の胸で泣き続けた。
その泣き声が、枯れ果てるまで。
購入履歴に、睡眠導入剤があった。
「な……!? ちょっと何考えてるの!? ホントに何があったの? もうこれ自殺の準備でしょ。そこまでさせるものは何なの? ねえ教えて! 何も言ってくれなきゃ力にもなれない!」
「ダメだよ……。そんなことしたら映奈ちゃんを巻き込んじゃう。これは私の問題なの。だから、映奈ちゃんには関係」
「ある! だって友達じゃん! 友達が苦しんでるのに何も知らなかったなんて嫌だ!」
「映奈ちゃんはアイドルで、私はただのファンで! そんな私が映奈ちゃんにここまでよくしてもらってるのは何かの間違いだよ! そうじゃなきゃこんなことにならなかった!」
「こんなことってどんなことさ!?」
「映奈ちゃんと仲良くしてるからって調子に乗るなって言われて突き飛ばされた!」
紬は叫ぶ。
そんな紬の白状に、映奈は愕然となった。
「頭打ったし、足ひねったし、私の知らないところで陰口叩かれたし、まるで私が映奈ちゃんと仲良くしてることで調子に乗ったやつだって思われてたみたいだし。仲良くしてくれた子もその子にうなずくしかなくて、結局はその子だって、名前も知らないしろくに話したこともないのに、それなのに私のことをそこまで言うなんて……」
「どうして、そんなことに……?」
「気に入らなかったんだよ、アイドルとファンごときが一緒にいるのが。そうじゃなくても普段の私は陰キャで根暗で揶揄の的で、助けを求めたって誰も助けてくれない、先生に相談したって知らない扱い。お父さんは仕事で忙しいし、こんな時にお母さんくらいいてくれたらいいのにって思うけどもう頼ることもできない。じゃあ誰に頼ればいいの。もう誰も思い浮かばない。もう学校にも行きたくない、でも行かなかったら行かなかったで学校が通報するとかして絶対にお父さんに迷惑がかかる。だったらいっそ、眠れないことを理由に睡眠薬を間違った量飲んでずっと眠り続けたほうが楽だなって。だから」
「泣いて」
「え?」
「泣いて」
映奈は紬のスマートフォンを自分のコートにねじ込み、紬を抱き寄せて自分の胸にうずめた。
「ひぅ!?」
「頼れる人はここにいる。見失ったら振り向かせる。友達が困っている時には頼らせて。もうわたしたちはアイドルとファンじゃない、互いに唯一無二の友達なんだから。もし紬ちゃんにそれが信じられなくても、わたしだけは強く信じるから」
「…………、えーな、ちゃ……」
そして。
「うぅ、うあぁ……!」
紬は慟哭した。
声を上げて泣き叫んだ。
映奈にしがみついて離れなかった。
小さな子供のように泣きじゃくった。
滝のように流れる涙が映奈のコートとセーターを濡らす。それでも映奈は黙って紬の頭を撫で、紬が泣き止むまで背中を抱き寄せた。
そして映奈は、自らの胸の中で泣きじゃくる紬の背中を見つめて思った。
――そっか。紬ちゃんは泣き虫なんかじゃない。頼る人もいないから、わたしに会うまで泣くに泣けなかっただけ。だから問題を抱え込んで感情を押し殺すことしかできなかった。いつの間にか紬ちゃん自身もそれでよしと自分を無理に納得させるようになって、結果それは負のスパイラルとなった。
――やっぱり問題は紬ちゃんにあるんじゃない、必死に助けを求めた紬ちゃんのシグナルを無視し続けてきた、紬ちゃんを取り巻く環境そのものにある。だったら、わたしにできることはひとつ。たとえ世界中の誰も頼りにならなくても、わたしが紬ちゃんの味方であり続ける。
――目の前のファンひとり笑顔にできなくて何がアイドルだ。せっかくできた友達を守れなくて何が友達だ。これはわたしの決意だ。自己満足とも言えるかもしれない。それでもわたしは、友達の心と自分の矜持を『守らなければいけない』。それはまた『守るべき』ものだ。
そしてそれからしばらく、紬は映奈の胸で泣き続けた。
その泣き声が、枯れ果てるまで。
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