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Episode 3
弱さは柔軟さ、強さは脆さ 4
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最後の買い物として、モートルラート・ハギワラの前にあるレトロな自動販売機でファストフードを購入。映奈はスープにこだわったラーメン、紬はオーソドックスなハンバーガーだった。
「今日はどうだった? 少しは気分もすっきりしたかな」
「そう、だね。うん、とてもよかった。何て言うか、昼間は目がくらんで何も見えなかったのに、映奈ちゃんと一緒に出掛けたツーリングは全部がキラキラ輝いて見えた。私がいつもいる町にこんなに素敵な景色があったんだなって思った。もったいないなあ、どうして今まで知らなかったんだろ」
旅の出発点にして終着点でもあるレインボーロードを見つめながら、紬はハンバーガーをついばむ。そんな紬に、映奈は答えた。
「前に話したよね。ステラプロの面接って、選考基準がおかしいって」
「選考基準? 映奈ちゃんが変人だって言う理由でアイドルになったって話?」
「そう、それに加えて長所と短所を逆にしてみなさいって問題。あの時は、プロデューサーは一体何を言ってるんだって思ったよ。でも今になっていくつか分かったことがある。そのうちのひとつが、『弱さにも強さにも長所と短所がある』ってこと」
「弱さと強さに、長所と短所?」
「うん。弱さとはつまり力の働きかけや頑丈さに勝てないと言うこと。強さとはつまりすべてを力でねじ伏せられるほど頑丈であるということ。でもそれは言い換えれば、弱さとは屈する代わりに柔軟に対応でき、逃げようと思えば逃げられ、弱さを柔軟さと言い換えれば存在を維持することができるということ。強さとはその頑丈さ故に他者の痛みを分かりにくく力ですべてを解決しようとしがちで、力を使い続けて蓄積された磨り減りやダメージに気付きにくく、一度亀裂が入ればそこから脆くなりついには瓦解してしまうということ」
「じゃあどうすればいいの? 弱いままでもいいってことなの?」
「ううん。強くても弱くても、また何を以って強さや弱さと言うのだとしても、その性質を生かしきれる環境が最適であるということ。わたしの見立てではだけど、紬ちゃんは自分の弱点を克服しようとする意志と自分から一歩引いて周囲を見渡し他者に配慮する優しさはあるけれど、それは弱いまま実行すればいつか自分を壊し、自分を見失ってしまう。きみは心の弱さと人間関係の不器用さを自覚し周囲にも自分にもおびえているし、自分を卑屈なまでに過小評価してるけど、それは自分を脅かそうとする者から逃れ生きようとする意志でもあるということ。でも、紬ちゃんには誰にも壊すことのできない絶対的な強さがひとつだけある。それは誇っていいことだと思うよ」
「私の、絶対的な強さ……?」
「うん。それは『勇気』」
「勇、気……?」
「人はどこかで必ず意地を張る。紬ちゃんもまた優しさから来る意地を張ることだってあった。でも、人に助けを求める勇気がある。人に助けを求めるということは甘えだとか弱さそのものだとか言う人がいるけど、そうじゃない。それは自分の無力さを認めた上で結果や力を求める意思のある者だけが口にできる言葉だって思う。だから助けを求めることは恥じることでも何でもない。常に前を向く勇気そのものだと思う。『勇敢なだけが勇気なんじゃない』よ。それだけは忘れないで」
そして映奈は、紬の肩をつかんで抱き寄せた。
「紬ちゃん。わたしはきみが助けを求めるなら、喜んで紬ちゃんの力にならせてほしいんだ。これはわたしの願いでもあり、わたしのことを今なおアイドルだって言ってくれたお礼でもあるんだから」
「……うん。また私が何も見えなくなった時、今日みたいにどこかに連れ出してくれると嬉しいな。今日のツーリング、最高の冒険の旅だった」
弱さは柔軟さ、強さは脆さ。
弱さは短所であり、柔軟さは長所である。強さは長所であり、脆さは短所である。
その夜、紬はベッドに寝転がって考えていた。
「何事にも長所と短所があるって言うなら、ずっといじめられたりからかわれたりした私にも、手先の器用さと映奈ちゃんが認めてくれた助けを求める勇気以外にも何かあるのかな。考えれば考えるほど、それでも私には短所しか見えないよ」
その時、解錠と玄関ドアの開く音が聞こえた。
「お父さん? そうだ、たまにはお父さんとお話ししようかな」
二階の寝室から階下に降りる。
だが、紬の父はスーツとネクタイをソファーにかけて脱衣所のドアを閉めたところだった。テーブルの上には五百ミリリットル入りのビールの六缶入りケース。しかもすでにそのうちの一缶がない。
「……そうだよね、こんな時間だもんね。いつもお疲れ様」
紬が寝た頃に彼女の父も風呂を上がり、フリースの寝巻に着替えてソファーの上で丸まって眠ってしまう。
「今日はどうだった? 少しは気分もすっきりしたかな」
「そう、だね。うん、とてもよかった。何て言うか、昼間は目がくらんで何も見えなかったのに、映奈ちゃんと一緒に出掛けたツーリングは全部がキラキラ輝いて見えた。私がいつもいる町にこんなに素敵な景色があったんだなって思った。もったいないなあ、どうして今まで知らなかったんだろ」
旅の出発点にして終着点でもあるレインボーロードを見つめながら、紬はハンバーガーをついばむ。そんな紬に、映奈は答えた。
「前に話したよね。ステラプロの面接って、選考基準がおかしいって」
「選考基準? 映奈ちゃんが変人だって言う理由でアイドルになったって話?」
「そう、それに加えて長所と短所を逆にしてみなさいって問題。あの時は、プロデューサーは一体何を言ってるんだって思ったよ。でも今になっていくつか分かったことがある。そのうちのひとつが、『弱さにも強さにも長所と短所がある』ってこと」
「弱さと強さに、長所と短所?」
「うん。弱さとはつまり力の働きかけや頑丈さに勝てないと言うこと。強さとはつまりすべてを力でねじ伏せられるほど頑丈であるということ。でもそれは言い換えれば、弱さとは屈する代わりに柔軟に対応でき、逃げようと思えば逃げられ、弱さを柔軟さと言い換えれば存在を維持することができるということ。強さとはその頑丈さ故に他者の痛みを分かりにくく力ですべてを解決しようとしがちで、力を使い続けて蓄積された磨り減りやダメージに気付きにくく、一度亀裂が入ればそこから脆くなりついには瓦解してしまうということ」
「じゃあどうすればいいの? 弱いままでもいいってことなの?」
「ううん。強くても弱くても、また何を以って強さや弱さと言うのだとしても、その性質を生かしきれる環境が最適であるということ。わたしの見立てではだけど、紬ちゃんは自分の弱点を克服しようとする意志と自分から一歩引いて周囲を見渡し他者に配慮する優しさはあるけれど、それは弱いまま実行すればいつか自分を壊し、自分を見失ってしまう。きみは心の弱さと人間関係の不器用さを自覚し周囲にも自分にもおびえているし、自分を卑屈なまでに過小評価してるけど、それは自分を脅かそうとする者から逃れ生きようとする意志でもあるということ。でも、紬ちゃんには誰にも壊すことのできない絶対的な強さがひとつだけある。それは誇っていいことだと思うよ」
「私の、絶対的な強さ……?」
「うん。それは『勇気』」
「勇、気……?」
「人はどこかで必ず意地を張る。紬ちゃんもまた優しさから来る意地を張ることだってあった。でも、人に助けを求める勇気がある。人に助けを求めるということは甘えだとか弱さそのものだとか言う人がいるけど、そうじゃない。それは自分の無力さを認めた上で結果や力を求める意思のある者だけが口にできる言葉だって思う。だから助けを求めることは恥じることでも何でもない。常に前を向く勇気そのものだと思う。『勇敢なだけが勇気なんじゃない』よ。それだけは忘れないで」
そして映奈は、紬の肩をつかんで抱き寄せた。
「紬ちゃん。わたしはきみが助けを求めるなら、喜んで紬ちゃんの力にならせてほしいんだ。これはわたしの願いでもあり、わたしのことを今なおアイドルだって言ってくれたお礼でもあるんだから」
「……うん。また私が何も見えなくなった時、今日みたいにどこかに連れ出してくれると嬉しいな。今日のツーリング、最高の冒険の旅だった」
弱さは柔軟さ、強さは脆さ。
弱さは短所であり、柔軟さは長所である。強さは長所であり、脆さは短所である。
その夜、紬はベッドに寝転がって考えていた。
「何事にも長所と短所があるって言うなら、ずっといじめられたりからかわれたりした私にも、手先の器用さと映奈ちゃんが認めてくれた助けを求める勇気以外にも何かあるのかな。考えれば考えるほど、それでも私には短所しか見えないよ」
その時、解錠と玄関ドアの開く音が聞こえた。
「お父さん? そうだ、たまにはお父さんとお話ししようかな」
二階の寝室から階下に降りる。
だが、紬の父はスーツとネクタイをソファーにかけて脱衣所のドアを閉めたところだった。テーブルの上には五百ミリリットル入りのビールの六缶入りケース。しかもすでにそのうちの一缶がない。
「……そうだよね、こんな時間だもんね。いつもお疲れ様」
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