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Episode 4
はじまりはきっかけ 3
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⚓
翌日。
映奈は閉店した模型屋の前でストリートライブを開き、買い物客に歌を届けていた。昨晩の配信や朝のニュースを見た人々からタロット占いをしてくれと頼まれることもあり、ワンオラクル占いを披露した。
「やった! 世界制覇できそう!」
「あ、それ逆位置だね」
「逆位置?」
「『世界』のカードは完全無欠、完成形、理想、達成を意味するカードだけど、逆位置はあと一歩、惜しい失敗を意味する状態だね。例えば学校のテストだと答えられるものはすべて答えたと思っても、今一度見直しをすると間違った回答に気付けるかもしれない。最後まで気を抜かないことが大切だよ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
すると、紬がやって来た。
「あっ、紬ちゃん。こんにちは!」
「映奈ちゃん、こんにちは。今日はストリートライブなんだね」
「うん。紬ちゃんは、今日はバイト?」
「うん、夕方から店じまいまで。今朝のニュース見たよ、タロット始めたんだって?」
そして紬やほかの買い物客たちとの話を楽しみ、たまにタロット占いをし、ストリートライブを続ける。その後は紬のアルバイト先である本屋で本と雑貨を物色し、ほんの少しの会話を楽しんで帰宅する。
八神家、リビング。
映奈の両親は、サラリーマンである尚道、パートもしている主婦の法子。ペットとしてキジトラの和猫『フライハイト』。三人は食事をしながらでも時たま他愛もない会話を交わす程度の、騒々しいわけでも冷め切ったわけでもない、ごくごく普通の関係性であった。しかしそれが。
――なんかつまんないなー。特に趣味が合うわけでもないし共通の話題があるわけでもないし。何て言うか、仕事と主婦業と学業の報告会って感じ? 夫婦はいいよねー、今度どこに旅行しようとか話が進むもん。アイドルとして家を離れていた期間があるのもあるけど、せっかく帰って来たんだしわたしに話を振ってくれてもいいよねー?
そんな人間の家族の有り様を、餌を食べつくした猫のフライハイトはただ静かに眺めていた。
夜、十時半ごろ。
紬が自転車に乗って帰路に就いたところ、映奈から電話がかかってきた。
「えっ? スパセン? って、何?」
「スーパー銭湯。リゾートみたいなでっかい感じのお風呂屋さん。ねえ、今度行かない?」
「いっ、いいけど、水着要らないやつ? 要るやつだよね?」
「要らないやつ」
「うぅ、それ恥ずかしくない……? だって裸見られるんだよ?」
「そこはまあ女同士だし」
「いやだからって……。せめて温水プールにしない?」
「あ、その手があったか。じゃあそうしよう。水着は?」
「中学生の頃のスクール水着、入るかなあ」
「よし買いに行こう!」
「お小遣いが!」
「わたしに課金してくれてた分を考えれば水着なんて安い安い!」
「確かにそうかもだけどぉ~」
「そう言えば、今度服を選んであげるって約束もまだだったよね。服は余裕がある時で、まずはスポーツ用品店に行ってみようか」
「どうしてスポーツ用品店?」
「今、海で泳ぐシーズンでもないからね。掘り出し物とかあるかもよ?」
「確かに……?」
「と言うわけで明日の昼過ぎ、ショッピングモールのアルクスまで集合ね」
「うっ、うん、分かったぁ~……」
「じゃあおやすみ!」
「おやすみなさ~い」
こうして、季節外れの水着選びが決定してしまった。
「水着ぃ~……? やっぱり話自体を断るんだったよおぉ……」
翌日。
アルクス、スポーツ用品店。
やはりシーズンオフだからか水着のコーナーは縮小されており、売られていてもファッショナブルやカジュアルなものは少ない。男児用・女児用スクール水着かスポーツ用水着程度しかない。しかし昨シーズンの売れ残り特売コーナーがあり、安い価格のものがそろっている。
「お宝ざっくざくだよ、紬ちゃん! 試しに着てみよう!」
「うっ、うん……」
特売品のほとんどが、地味な色合いのセパレート。つまり丈の長いスパッツとスポーツブラもしくはノースリーブシャツタイプのもの。ヤシの木柄の赤いビキニもあったが、露出度が高いため紬は赤面して気絶しかけた。
「恥ずか死ぬ……」
結局紬が選んだのは、黒地にピンク色のラインのある無難なセパレートだった。ゴム製水泳帽も、水着に合わせて黒にした。
「それじゃあどうする? これから泳ぎに行く?」
「うん、そ、そうだね。せっかく買ったんだし、このまま帰ったらもったいないね」
そしてふたりが訪れたのは、七橋駅から数駅離れた場所にある巨大スポーツジム、『臼井健康センター』。三階建ての施設であり、一階は温水プール、二階はサウナにトレーニングジム、三階はフローリングと人工畳の道場(プールが屋上まで吹き抜けになっているため二階と三階は一階エントランス上に設置されている)、屋上が芝生のコートとなっている。
「それじゃあ着替えようか」
「う、うん……」
そして紬は、個室の更衣室で買ったばかりのセパレートに着替えるのだが。
「準備できた?」
「ひゃめえ!」
女同士とあって、映奈は平然とカーテンの隙間から首を突っ込んでくる。
翌日。
映奈は閉店した模型屋の前でストリートライブを開き、買い物客に歌を届けていた。昨晩の配信や朝のニュースを見た人々からタロット占いをしてくれと頼まれることもあり、ワンオラクル占いを披露した。
「やった! 世界制覇できそう!」
「あ、それ逆位置だね」
「逆位置?」
「『世界』のカードは完全無欠、完成形、理想、達成を意味するカードだけど、逆位置はあと一歩、惜しい失敗を意味する状態だね。例えば学校のテストだと答えられるものはすべて答えたと思っても、今一度見直しをすると間違った回答に気付けるかもしれない。最後まで気を抜かないことが大切だよ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
すると、紬がやって来た。
「あっ、紬ちゃん。こんにちは!」
「映奈ちゃん、こんにちは。今日はストリートライブなんだね」
「うん。紬ちゃんは、今日はバイト?」
「うん、夕方から店じまいまで。今朝のニュース見たよ、タロット始めたんだって?」
そして紬やほかの買い物客たちとの話を楽しみ、たまにタロット占いをし、ストリートライブを続ける。その後は紬のアルバイト先である本屋で本と雑貨を物色し、ほんの少しの会話を楽しんで帰宅する。
八神家、リビング。
映奈の両親は、サラリーマンである尚道、パートもしている主婦の法子。ペットとしてキジトラの和猫『フライハイト』。三人は食事をしながらでも時たま他愛もない会話を交わす程度の、騒々しいわけでも冷め切ったわけでもない、ごくごく普通の関係性であった。しかしそれが。
――なんかつまんないなー。特に趣味が合うわけでもないし共通の話題があるわけでもないし。何て言うか、仕事と主婦業と学業の報告会って感じ? 夫婦はいいよねー、今度どこに旅行しようとか話が進むもん。アイドルとして家を離れていた期間があるのもあるけど、せっかく帰って来たんだしわたしに話を振ってくれてもいいよねー?
そんな人間の家族の有り様を、餌を食べつくした猫のフライハイトはただ静かに眺めていた。
夜、十時半ごろ。
紬が自転車に乗って帰路に就いたところ、映奈から電話がかかってきた。
「えっ? スパセン? って、何?」
「スーパー銭湯。リゾートみたいなでっかい感じのお風呂屋さん。ねえ、今度行かない?」
「いっ、いいけど、水着要らないやつ? 要るやつだよね?」
「要らないやつ」
「うぅ、それ恥ずかしくない……? だって裸見られるんだよ?」
「そこはまあ女同士だし」
「いやだからって……。せめて温水プールにしない?」
「あ、その手があったか。じゃあそうしよう。水着は?」
「中学生の頃のスクール水着、入るかなあ」
「よし買いに行こう!」
「お小遣いが!」
「わたしに課金してくれてた分を考えれば水着なんて安い安い!」
「確かにそうかもだけどぉ~」
「そう言えば、今度服を選んであげるって約束もまだだったよね。服は余裕がある時で、まずはスポーツ用品店に行ってみようか」
「どうしてスポーツ用品店?」
「今、海で泳ぐシーズンでもないからね。掘り出し物とかあるかもよ?」
「確かに……?」
「と言うわけで明日の昼過ぎ、ショッピングモールのアルクスまで集合ね」
「うっ、うん、分かったぁ~……」
「じゃあおやすみ!」
「おやすみなさ~い」
こうして、季節外れの水着選びが決定してしまった。
「水着ぃ~……? やっぱり話自体を断るんだったよおぉ……」
翌日。
アルクス、スポーツ用品店。
やはりシーズンオフだからか水着のコーナーは縮小されており、売られていてもファッショナブルやカジュアルなものは少ない。男児用・女児用スクール水着かスポーツ用水着程度しかない。しかし昨シーズンの売れ残り特売コーナーがあり、安い価格のものがそろっている。
「お宝ざっくざくだよ、紬ちゃん! 試しに着てみよう!」
「うっ、うん……」
特売品のほとんどが、地味な色合いのセパレート。つまり丈の長いスパッツとスポーツブラもしくはノースリーブシャツタイプのもの。ヤシの木柄の赤いビキニもあったが、露出度が高いため紬は赤面して気絶しかけた。
「恥ずか死ぬ……」
結局紬が選んだのは、黒地にピンク色のラインのある無難なセパレートだった。ゴム製水泳帽も、水着に合わせて黒にした。
「それじゃあどうする? これから泳ぎに行く?」
「うん、そ、そうだね。せっかく買ったんだし、このまま帰ったらもったいないね」
そしてふたりが訪れたのは、七橋駅から数駅離れた場所にある巨大スポーツジム、『臼井健康センター』。三階建ての施設であり、一階は温水プール、二階はサウナにトレーニングジム、三階はフローリングと人工畳の道場(プールが屋上まで吹き抜けになっているため二階と三階は一階エントランス上に設置されている)、屋上が芝生のコートとなっている。
「それじゃあ着替えようか」
「う、うん……」
そして紬は、個室の更衣室で買ったばかりのセパレートに着替えるのだが。
「準備できた?」
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女同士とあって、映奈は平然とカーテンの隙間から首を突っ込んでくる。
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