大魔法使いのリーリと

木龍がみね

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1 創世の魔法使い(1)

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 王都の大結界を管理しているお爺ちゃんが、腰痛で動けなくなった。
 その翌日、近いうちに現役を退くと発表した。
 高齢でも今まで頑張ってきたけど、これを機に身を引くことにしたらしい。
 
 王都の大結界は、現在、お爺ちゃん以外に管理できる人が居ない。
 国は、お爺ちゃんが引退するまでに、後継者となる魔法使いを見つけなければならなくなり、総力を挙げて、後継者探しを開始した。

 けれど、王都にいる上級魔法使いをかき集めて、管理試験を行ったものの、合格者はでなかった。
 
 僕も、お爺ちゃんの孫だからという理由で、一応試験を受けたけど、結果はもちろん不合格。

 王様は王都の中だけでなく、地方で名の通った魔法使いたちにも声をかけることに決めた。
 王印が押された登用状を携えた使者たちが、一斉に地方へ旅立つ。
 僕も使者として、行くことになった。
 失敗ばかりの僕は、この任務を達成できなかったらクビになるかもしれない。
 二年の留年を経て、やっと魔法学園を卒業し、王仕おうし見習いになって三年。
 同期は全員、とっくに昇格しているのに、僕だけ見習いのまま。
 今回は、登用状を渡して連れてくるだけの簡単な任務なのだ。
 絶対に成功させなくては。
 
 僕の対象は、長いこと精霊の森に住んでいるという、魔法使いアンディ。
 どうやら、相当な実力者らしいけど、王宮からの再三の登用を固辞して、精霊の森に隠遁しているらしい。
 よっぽどな王宮嫌いなのだろう。そんな人に今から会いに行くと思うと気が重い。手酷く追い返されないと良いけど。

 長い道のりをひたすら歩き、ひと月かけて、やっと精霊の森までたどり着く。
 精霊の森は、地脈の関係で魔力が豊富にあり、精霊たちが多く住んでいるといわれる神聖な場所だ。
 森の中は鬱蒼としていて、異様な雰囲気がしていたけど、不思議なことに、一歩進むたび体が軽くなっていく。息を吸うと、美味しい空気で肺が満たされていく。
 きっと魔力の力で、体が回復しているのだろう。
 今までの疲れも忘れて、どんどん進んでいく。

 途中、川があったので、休憩して、飲ませてもらった。その冷たさと美味しさにびっくりする。
 川に沿って歩いていくと、大きな岩の上で、釣り糸を垂らしている少年を見つけた。この森に住んでいる子だろうか。

「ねぇ、きみ」

 声をかけてみたけど返事がない。

「きみ、そこの金髪のきみ」

 顔はよく見えないけど、葉っぱの隙間から差し込んでいる木漏れ日に反射して、金髪がキラキラと輝いている。とても綺麗だ。

「おーい!ねぇ!きみ!ここら辺に住んでいる凄い魔法使いの人、知らない?」

 返事はない。
 こんなに大声で呼んでいるのに、聞こえないなんてことあるだろうか。あの子、わざと無視していないか?
 最近覚えた浮遊魔法を使用して岩を登り、また声をかける。

「あの」
「うるさい」

 え?今、うるさいって言われた……?

「お前の大声のせいで魚がみんな逃げた」
「あ、ご、ごめんね?少ないけどこれ、魚代」

 お財布から貨幣を取り出そうとしたけど、その前に少年は釣竿をしまい、立ち上がった。

「こんなところでそんなものが役に立つと思うのか?」
「そ、そっか。ごめん」

 こんな森の奥では貨幣など役に立たない。ここが王都や村ならまだしも。
 今、少年に必要なのは貨幣ではなく今日の夕飯だろう。だけど、僕の大声のせいで逃してしまった……。

「まぁ、別に獲るつもりで糸を垂らしていたわけではないが……で、何の用事だ?」

 その時、少年は初めて僕の方を見た。宝石のルビーと見紛うほどに濃い赤の瞳にびっくりしたし、その他のパーツの美しさにも息を呑む。
 人ではないと思ってしまうほど美しい。
 睫毛は僕の爪ほどあるんじゃないかと思うほど長いし、子供ながらに鼻筋がしっかり通っている。唇は薄くて形が良く、色は血のように赤い。頰は薔薇色なのに、肌は真っ白だ。日焼けの跡すらないのは、森で暮らしているからなのだろうか。

「あ、僕、シルクって言います。それで、えっと、この森に住む魔法使いを探していて……」
「何故探す?」

 な、なんだろう、この威圧感。
 僕よりもひと回り小さいのに、まるで年上の人と喋っているようだ。

「王都の大結界を管理する優秀な魔法使いが必要なんです。今までは僕のおじいちゃんが管理していたんだけど、この前腰を痛めてしまって」
「血を受け継いでいるのなら、お前がやればいい」
「僕じゃ制御できなくて」
「できない?嘘をつくな」

 少年は、僕の目をまっすぐに見つめてきた。
 その視線は、奥深くまで入り込んでくるような、不思議な気分になる。
 見られている間は、時が止まったように感じていた。少年が目を外した瞬間、木々の擦れる音が一気に戻ってくる。

「あの、嘘じゃなくて」
「なるほど、どうやらそのようだ」
「え?」

 この数秒間で、どうして意見が真反対に変わったのかな。

「それで、優秀な魔法使いがこの森に住んでいるって聞いたから探しに来たんだけど、きみは知らない?その魔法使いの名前はアンディっていうらしいんだけど。僕は王様に命じられて彼を探しに来たんだ」
「アンディなら死んだぞ」
「え!?し、しんだ?」
「不治の病に侵されていて、この森を死に場所に選んで来た」

 少年は、自分の身長より大きな釣り竿を、両手で抱きしめると、ぴょんと岩を降りた。

「え、ちょ!ここから落ちたら怪我し……」

 少年の体がふわん、と浮く。そのままゆっくりと着地をすると、こちらを振り返る。

「とりあえず、もうすぐ日が暮れる。暗い森は危ない。ついてこい」
「きみ、魔法使いだったの?」
「まぁな」

 さっきのは体を浮かせる浮遊魔法だ。浮遊魔法は制御が難しいはずなのに、少年は、僕よりも自在に操っていた。
 僕は彼ほど浮遊魔法が上手くないので、もたもたと岩を降りて、少年の後を追う。

「ありがとう。えっと、僕はシルクっていうんだけど、きみの名前は?」
「リーリ」
「え?」

 リーリっていうのは、大昔に王都の大結界を考案した伝説の魔法使いの名前だ。
 偶然同じ名前……なのかな?

 
 
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