エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

1話 王子と小鳥①

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 静かな森にジィジィ ガサガサ、いつもは聞かないような音が響く。


「何の音だろう?」


 レンドウィルが声を顰めて呟くと隣を歩いていた弟のエルウィンがキョロキョロとあたりを見回して「あっちかな?」と指さした。

 エルフの城の裏にある湖のほとり、見張りや城壁のおかげで大きな肉食獣が侵入できないこの森は、秋になればたくさんのどんぐりや果実が実をつける小動物の楽園だ。

 エルウィンと音のする方へ進むと、何かが地面で動いているのが見えた。


 青い小鳥だ。


 小鳥はバタバタと必死に羽を動かし飛び上がろうとしているように見えた。どこか怪我をしているのだろうか、努力虚しく地面を転がり回っている。その姿は痛々しく、これ以上見ていられないと私は小鳥を拾い上げた。小鳥は手のひらの中で居心地悪そうに何度か身じろぎした後、私の目を見つめて大人しくなった。


 弟が寄ってきて小鳥を覗き込むと悲しそうな顔で言う。


「怪我してる。きっと、もう飛べないよ」

「そうかな?治るかもしれないよ。それに、飛べない間は私たちが面倒を見ればいい」
「でも鳥は自由だから鳥なんだよ。飛べないまま閉じ込めちゃかわいそうだ」
「もちろん治るまでだよ。ずっと閉じ込めたりなんてしない」

「でも、でもさ。もし、治らなかったら?」


 心配性な弟に苦笑いをしながら手の中の小鳥をそっと撫でて「大丈夫だからね」と声をかけた。


「兄上、僕の話聞いてる!?」
「うんうん、聞いているよ」


 今度はぶすくれた顔で詰め寄る弟の頭を撫でる。


「……本当にその子、持って帰るの?」
「うん、きっとすぐ良くなる。さぁ、城へ帰ろう」




 広葉樹の間隙を縫うように作られた道が大きく右に曲がったらエルフの城だ。見上げるほどの高さの細長い城。白塗りの石壁が日光を反射して淡く光って見える姿が美しい。

 裏庭側にある小さな門から城に戻ると、父がちょうど護衛を3人引き連れ歩いているところだった。エルウィンが「父上!」と声をかけながら駆け寄った。父は振り返って私たちを見てほほ笑むと、飛び込んできた弟を抱きとめた。仕事中だろうことが伺えたが、護衛は私と弟に向かって一礼した後、何も言わずに父の後ろに控える。


「見てください、兄上が怪我をした鳥を拾ったんです」
「鳥?」
「はい、でも翼を怪我していて、助かりますか?」


 見せてみなさい、と言う父に私は近くまで行ってよく見えるように小鳥を差し出す。大人しくしているが時折みじろぎをして、じんわりと温かい小鳥。


「そうだな、怪我をしてはいるが私にはまだ元気なように見える。馬医のもとに行ってみてもらうといいだろう」
「はい!」
「そうだ、お前たち、明日の授業だが、トレバー殿が体調を崩したらしくてな、ネオニールが代理だ」
「えぇ!」
「げぇ~」
「なんだ、不満か?」
「ネオニールは怖いんだもん!ねぇ、兄上!」
「そうだね、怒るとすごく怖い」


 2人して嫌そうな顔をすると父が「そう言ってやるな、ネオニールが泣くぞ」と笑った。


「陛下、そろそろお時間が」


 後ろに控えていた護衛が父に声をかける。さすがに雑談が長すぎたようだ。


「ああ、すまない、ではな。鳥を大事にするんだぞ」
「はい」
「はぁ~い」


 執務室へ向かう父の背中は引き連れた護衛達ですぐ隠れてしまった。


「父上、忙しそうだね」
「もう少し僕たちと遊んでくれてもいいのに」
「ほんとにね。さてエルウィン、馬医のとこに行こうか」




 父に言われた通り、馬医のいる厩の方へ歩みを進める。弟が先ほどの父の言葉を思い出したのか暗い顔をしてぼやいた。


「明日の授業、ネオニールかぁ」
「授業中に寝なければ大丈夫さ」
「それが1番難しいところなんだよね」


 普段私たちに授業をしてくれるトレバー先生はエルフの城の外から来た人間で、外の世界の事をたくさん教えてくれる。私たち兄弟は彼から聞く旅の話や武勇伝が大好きだ。

 ネオニールはエルフの国王である父エルロサールの側近で、自分たち王子を容赦なく叱ることのできる人物だ。小さい頃から一緒にいるから家族みたいなものだけど、真面目過ぎて先生としては面白くない。


 トレバー先生が体調を崩したなら、きっと数日はネオニールがの授業が続く。兄弟2人してため息をつくのだった。
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