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第1章 幼少期
24話 王子と悪友の準備期間
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散歩宣言のおかげか、私たちが戻っても城の中はいつもと変わらず、私たちを探している者どころか、目を止める者すらいなかった。見張り達も城勤め人たちも自分の仕事で忙しそうだ。
食堂に向かおうとして2人とも寝間着のままだったことを思い出す。お腹は空いていたが、一度部屋へ着替えに戻ることにした。
階段を登ろうとしたところでにぎやかな声が近づいて来る。エルウィンとアイニェンだ。朝ごはんを食べるために食堂のある1階に降りてきたんだろう。
「兄上、おはよう!ジハナも!」
「おはようお兄様にジハナ」
「おはよう2人とも」
「おはよう~」
挨拶を返して階段の踊り場に集まると2人は私たちの事を上から下に観察して、にやりとした。
「もしかして……もう脱走したの?」
「まさか!してないよ、散歩だけ」
「お散歩だけ?ふふふ、随分控えめになったのねお兄様たち」
「王子が悪い子だと俺が怒られちゃうからな」
「げぇ、一番悪い子のくせに、よく言うよ!」
踊り場を占領して雑談を始めた私たちの間を、慌ただしく洗濯物の山を抱えた城勤めの女性たちが通り過ぎる。踊り場は子供4人が居ても十分な広さがあるが、往来の激しい朝に居座るには適さない場所かもしれない。邪魔になっちゃうね、と呟くと弟たちが移動を理由に食事に誘ってくれる。
「私たち、着替えないと」
「じゃぁ部屋まで一緒に行こう、それでご飯を一緒に食べればいいよ」
「そうだね、ジハナの部屋は何階?」
「4階だよ。ネオニール様の部屋の隣の隣」
皆で階段を登り始めるが、4階に着いたところでジハナが思い出したように私たちに言った。
「俺、着替えたらネオニール様を探さなきゃ。朝ごはんは3人で行っておいでよ」
「え、どうして?」
「これからの仕事の話とかしなきゃ」
「僕たちと食べた後でもいいんじゃない?」
「そうよ、どっちにしろジハナも朝ごはんは食べるでしょう?」
「そうなんだけど、俺は大きい方の食堂を使ったほうが良い気がするから」
エルウィンとアイニェンがジハナを誘おうと言葉を重ねるが、ジハナは申し訳なさそうな顔をして断ってしまう。
今度は護衛の人たちが数人私たちのことを避けながら階段を駆け下りていった。邪魔になってはいけないと皆で廊下の端に移動して、私はジハナに尋ねる。
「私たちはジハナと一緒のほうが楽しいけど。ネオニールにダメって言われた?」
「いや、そういう訳じゃないけど、普通働く人たちは大食堂で食べるんだよ」
「せっかく一緒にご飯が食べられると思ったのに」
「側近になった後も、たぶん一緒には食べないぞ」
「え、そうなの?」
私が戸惑って聞くと、ジハナも「予想だけど」と言葉を濁しながら答える。
アイニェンが私たちの会話を半分聞き流しながらジハナにしゃがむように言った。まっすぐになった髪を触りたいようだ。アイニェンと便乗したエルウィンが座ったジハナの後ろに回り髪で遊び始める。
「ネオニール様は昨日1人で食べてた」
「……たしかに。父上はいつも母上と食事をしているね……」
「ほらな?」
2人に好き放題髪を編まれながらジハナは私に向かってにんまりと笑う。そういえばネオニールは家族と食事をしていて、父とは用事のある時くらいしか食事を共にしていない。
「王子……その、」
「ジハナ、そう言わずにたまにはお兄様と食べてあげて」
「もちろん僕たちともね!」
断られてしょんぼりと私の肩が落ちるのを見て、ジハナが慌てて口を開くが結局言葉が見つからなかったようで言い淀む。
弟たちは私とジハナを交互に見た後、今度は未来の食事のお誘いをした。2人の純粋な笑顔に負けたのか、ジハナは私たち兄弟をぐるっと見た後、意を決したように話し始めた。
「俺もほんとは一緒に食べたいんだ。でもその、正式な側近になってから、かな。けじめをつけたい。勉強を頑張ってきちんとした側近になれたら、もう一回誘ってくれる、王子?」
「……もちろん!」
”良いことを言ったぞ”と満足気な顔をしているジハナだけど、アイニェンが髪を端から細い三つ編みをいくつも作っているせいで格好がついていない。その気の抜けた姿に食事一つで落ち込むのも馬鹿らしくなって笑って答えたのだった。
その朝食で別れてから、ジハナにはしばらく会えなくなった。ネオニールやトレバー先生による側近になるための勉強が始まったのだ。
ネオニールやトレバー先生、父上にジハナの様子を聞くと、みんなが口を揃えて熱心に国の歴史や礼儀作法を学んでいて、順調すぎる進み具合だと答えた。
なんでも今までの脱走のために蓄えた知識が役立っているのだそうだ。城の見張り達の人員から編成と仕組み、果ては城に出入りしている城下の商人たちまでしっかり覚えていたわけだ。ネオニールがげっそりした顔で「城の防衛を子供に把握されていた」と私に愚痴ってきた時には本当にお腹を抱えて笑ってしまった。
城で働く大人たちは最初、ジハナがすぐ勉強に飽きて投げ出すだろうと考えていた人が多かったようだ。
更に深夜にネオニールとアルエットがにまにまとしながら食堂で乾杯し「順調、順調」と笑っている様子が目撃されて、城の中で実はジハナは椅子に縛り付けられて勉強させられている、なんて噂もたったくらいだ。
あんまりにも噂が広まってしまったからネオニールがジハナを城中連れ回して懐かれている事を見せて回ったのも記憶に新しい。
ネオニールには大変な日々だっただろうけど、心配せずとも数ヶ月も経つ頃には脱走も悪戯もせずに机に向かうジハナの姿にみんなが印象を改めたそうだ。
あれからジハナは一度も私に会いにきていない。たまに遠くからジハナの姿を見つけて手を振ったりするだけだ。
なんで今までで一番近くにいるのに会えないんだ!?と私から会いに行ってしまいたいが、ジハナの決意を邪魔したくないので大人しくしている。
トレバー先生に大人しいと揶揄われた時に理由を話すと、それはもう嬉しそうな顔で「もう子供じゃないんですねぇ」と頭をぐりぐり撫でられた。言葉とは逆に子ども扱いされている気がして悔しい。
まだ父上には少しだけ腹が立つけど、もう決まってしまった事だし、確かに教育が終わってさえしまえばずっとジハナと一緒にいられるのだ。側近と言うのもそんなに悪い事でもないかもしれないと考えるようにしていた。
教育が始まって5ヶ月が経った頃、この調子なら半年もしないうちに仕事を始められるだろう、とネオニールから言われた。
あとはエルフの国の歴史、他国の成り立ちや私たちとの関係について知識がつけばあとは実戦で覚えていくらしい。
思ったより早く会えそうだという事と、ジハナが頑張っている事に嬉しくなる。私も負けていられないと、少しだけ、本当に少しだけ勉強や馬術を頑張るようになった。努力してくれているジハナのために、私もみんなが誇れる王子に変わりたかった。
しばらくして父から正式にジハナのお披露目を早めて、3日後に顔合わせを行うと連絡がきた。ジハナの教育が始まってちょうど半年後の事だ。兄弟含め全員わくわくしながらお披露目の日を待つのだった。
食堂に向かおうとして2人とも寝間着のままだったことを思い出す。お腹は空いていたが、一度部屋へ着替えに戻ることにした。
階段を登ろうとしたところでにぎやかな声が近づいて来る。エルウィンとアイニェンだ。朝ごはんを食べるために食堂のある1階に降りてきたんだろう。
「兄上、おはよう!ジハナも!」
「おはようお兄様にジハナ」
「おはよう2人とも」
「おはよう~」
挨拶を返して階段の踊り場に集まると2人は私たちの事を上から下に観察して、にやりとした。
「もしかして……もう脱走したの?」
「まさか!してないよ、散歩だけ」
「お散歩だけ?ふふふ、随分控えめになったのねお兄様たち」
「王子が悪い子だと俺が怒られちゃうからな」
「げぇ、一番悪い子のくせに、よく言うよ!」
踊り場を占領して雑談を始めた私たちの間を、慌ただしく洗濯物の山を抱えた城勤めの女性たちが通り過ぎる。踊り場は子供4人が居ても十分な広さがあるが、往来の激しい朝に居座るには適さない場所かもしれない。邪魔になっちゃうね、と呟くと弟たちが移動を理由に食事に誘ってくれる。
「私たち、着替えないと」
「じゃぁ部屋まで一緒に行こう、それでご飯を一緒に食べればいいよ」
「そうだね、ジハナの部屋は何階?」
「4階だよ。ネオニール様の部屋の隣の隣」
皆で階段を登り始めるが、4階に着いたところでジハナが思い出したように私たちに言った。
「俺、着替えたらネオニール様を探さなきゃ。朝ごはんは3人で行っておいでよ」
「え、どうして?」
「これからの仕事の話とかしなきゃ」
「僕たちと食べた後でもいいんじゃない?」
「そうよ、どっちにしろジハナも朝ごはんは食べるでしょう?」
「そうなんだけど、俺は大きい方の食堂を使ったほうが良い気がするから」
エルウィンとアイニェンがジハナを誘おうと言葉を重ねるが、ジハナは申し訳なさそうな顔をして断ってしまう。
今度は護衛の人たちが数人私たちのことを避けながら階段を駆け下りていった。邪魔になってはいけないと皆で廊下の端に移動して、私はジハナに尋ねる。
「私たちはジハナと一緒のほうが楽しいけど。ネオニールにダメって言われた?」
「いや、そういう訳じゃないけど、普通働く人たちは大食堂で食べるんだよ」
「せっかく一緒にご飯が食べられると思ったのに」
「側近になった後も、たぶん一緒には食べないぞ」
「え、そうなの?」
私が戸惑って聞くと、ジハナも「予想だけど」と言葉を濁しながら答える。
アイニェンが私たちの会話を半分聞き流しながらジハナにしゃがむように言った。まっすぐになった髪を触りたいようだ。アイニェンと便乗したエルウィンが座ったジハナの後ろに回り髪で遊び始める。
「ネオニール様は昨日1人で食べてた」
「……たしかに。父上はいつも母上と食事をしているね……」
「ほらな?」
2人に好き放題髪を編まれながらジハナは私に向かってにんまりと笑う。そういえばネオニールは家族と食事をしていて、父とは用事のある時くらいしか食事を共にしていない。
「王子……その、」
「ジハナ、そう言わずにたまにはお兄様と食べてあげて」
「もちろん僕たちともね!」
断られてしょんぼりと私の肩が落ちるのを見て、ジハナが慌てて口を開くが結局言葉が見つからなかったようで言い淀む。
弟たちは私とジハナを交互に見た後、今度は未来の食事のお誘いをした。2人の純粋な笑顔に負けたのか、ジハナは私たち兄弟をぐるっと見た後、意を決したように話し始めた。
「俺もほんとは一緒に食べたいんだ。でもその、正式な側近になってから、かな。けじめをつけたい。勉強を頑張ってきちんとした側近になれたら、もう一回誘ってくれる、王子?」
「……もちろん!」
”良いことを言ったぞ”と満足気な顔をしているジハナだけど、アイニェンが髪を端から細い三つ編みをいくつも作っているせいで格好がついていない。その気の抜けた姿に食事一つで落ち込むのも馬鹿らしくなって笑って答えたのだった。
その朝食で別れてから、ジハナにはしばらく会えなくなった。ネオニールやトレバー先生による側近になるための勉強が始まったのだ。
ネオニールやトレバー先生、父上にジハナの様子を聞くと、みんなが口を揃えて熱心に国の歴史や礼儀作法を学んでいて、順調すぎる進み具合だと答えた。
なんでも今までの脱走のために蓄えた知識が役立っているのだそうだ。城の見張り達の人員から編成と仕組み、果ては城に出入りしている城下の商人たちまでしっかり覚えていたわけだ。ネオニールがげっそりした顔で「城の防衛を子供に把握されていた」と私に愚痴ってきた時には本当にお腹を抱えて笑ってしまった。
城で働く大人たちは最初、ジハナがすぐ勉強に飽きて投げ出すだろうと考えていた人が多かったようだ。
更に深夜にネオニールとアルエットがにまにまとしながら食堂で乾杯し「順調、順調」と笑っている様子が目撃されて、城の中で実はジハナは椅子に縛り付けられて勉強させられている、なんて噂もたったくらいだ。
あんまりにも噂が広まってしまったからネオニールがジハナを城中連れ回して懐かれている事を見せて回ったのも記憶に新しい。
ネオニールには大変な日々だっただろうけど、心配せずとも数ヶ月も経つ頃には脱走も悪戯もせずに机に向かうジハナの姿にみんなが印象を改めたそうだ。
あれからジハナは一度も私に会いにきていない。たまに遠くからジハナの姿を見つけて手を振ったりするだけだ。
なんで今までで一番近くにいるのに会えないんだ!?と私から会いに行ってしまいたいが、ジハナの決意を邪魔したくないので大人しくしている。
トレバー先生に大人しいと揶揄われた時に理由を話すと、それはもう嬉しそうな顔で「もう子供じゃないんですねぇ」と頭をぐりぐり撫でられた。言葉とは逆に子ども扱いされている気がして悔しい。
まだ父上には少しだけ腹が立つけど、もう決まってしまった事だし、確かに教育が終わってさえしまえばずっとジハナと一緒にいられるのだ。側近と言うのもそんなに悪い事でもないかもしれないと考えるようにしていた。
教育が始まって5ヶ月が経った頃、この調子なら半年もしないうちに仕事を始められるだろう、とネオニールから言われた。
あとはエルフの国の歴史、他国の成り立ちや私たちとの関係について知識がつけばあとは実戦で覚えていくらしい。
思ったより早く会えそうだという事と、ジハナが頑張っている事に嬉しくなる。私も負けていられないと、少しだけ、本当に少しだけ勉強や馬術を頑張るようになった。努力してくれているジハナのために、私もみんなが誇れる王子に変わりたかった。
しばらくして父から正式にジハナのお披露目を早めて、3日後に顔合わせを行うと連絡がきた。ジハナの教育が始まってちょうど半年後の事だ。兄弟含め全員わくわくしながらお披露目の日を待つのだった。
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