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第1章 幼少期
24話 王子と小さい側近の新しい日々④
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アイニェンの言葉の意味を理解すると同時に足元がぐらりと歪んだ気がして一歩後ろに下がる。一歩分あいた距離を埋めるように、アイニェンがゆっくりと立ち上がってこちらへ近づいた。エルウィンは床に座ったまま、困ったようにアイニェンを見ている。
「あ、アイニェン、ジハナが格好いいってもしかして、ジハナの事……」
「素敵な人だなって思っていたの。初めて会った時から」
「え」
知らなかった。アイニェンがジハナを好きだったなんて。手足の指が冷えていく感覚がして、ピリピリとしびれる。思わず拳骨を作って指をすり合わせると、アイニェンが目を三日月みたいにして笑った。
「お兄様、もしジハナが結婚したら、どうするの?」
「わ、わたしは……」
もしジハナがアイニェンと結婚するなら、私はどうするんだろう。私は誰と結婚したらいい?……ジハナ以外に誰と?
「え、あ、あれ、私……」
私、今、結婚相手にジハナを考えた?
冷えていた手足から頭のてっぺんまで一気に血が駆け巡った。顔が熱く火照って、冷やさなければと思い、大きく口から息を吸う。焦って息をしたせいでひゅぅと変な音がして、次にはゲホゲホと咽込んだ。
ジハナの事、好きだったんだ、私。ジハナの事で舞い上がったり、この世の終わりのように一喜一憂していた理由がストンとお腹の真ん中に降りてくる。何の違和感もなく、だからかぁ、と酸欠でくらくらする頭もそれを受け入れた。
同時に失恋をした、ことになるんだろうか。ジハナが特別アイニェンを構っていた記憶はないけれど、可愛い妹が一生懸命ジハナに魅力を伝えればきっと、男の私では敵わないだろう。
側近であるジハナはこれからずっと城で生活する。私は叶わない恋の相手をいつまでもいつまでも隣に置くことになるのだろうか……それでも、ジハナを側近から外そうとは思えなかった。
「あらあらあらあら、お兄様、落ち着いて」
「アイニェンが意地悪するからだよ」
咳が治らない私を心配して2人が駆け寄って背中をトントンと叩いてくれる。妹を恐る恐る見るとさっきまでの不気味で怖い顔はなくなっていつものアイニェンに戻っていた。
やっと咳が落ち着いたころには3人とも床に座っていて、まだ荒い息を抑えつつアイニェンに向かって両手を伸ばす。
「アイニェン、ジハナの事、どのくらい好きなの?」
自分が想像しているのの倍以上は情けない、泣いているみたいな声が出た。アイニェンに縋りつくような体制も相まって、兄の威厳なんて欠片ほども見つけることはできないだろう。
エルウィンがすぐさまアイニェンを睨んでその背中をドンと叩く。いたぁとアイニェンが言った後、私を見てごめんねと笑った。
「私、ジハナの事はお友達としか思ってないわ。意地悪してごめんなさい」
「え、でも」
「こうでもしないと、お兄様気が付かなそうだったから……」
「それって、どういう……それより、じゃあ、私、ジハナを好きでいてもいいの?」
「もちろんよ、どうして?」
「だって、もしアイニェンがジハナを好きなら、諦めないとって思って」
「どうしてそうなるのよ!」
アイニェンが叫んで、私の両肩に掴みかかる。
「相手が誰であろうともね!遠慮してたらジハナを捕まえられないわよ!」
「うん、でも」
「でもも何もないわ!ジハナが好きなんでしょ!」
「そうだけど!でも私もジハナが好きだって知っちゃったら、ジハナと結婚できてもアイニェンは嬉しくないでしょう!」
「なっ……そ、そうかもしれないけど……」
「私はジハナが好きだけど、本当にアイニェンがジハナを好きなら、アイニェンを応援するよ」
涙目になったアイニェンが黙り込んだところで、やりとりを傍観していたエルウィンが口を開いた。
「今回は、アイニェンの例えが悪かったね」
「……困らせるつもりじゃなかったの」
「兄上に自分の気持ちに気がついて欲しかったんだよね」
「うん……お兄様本当にごめんなさい。私、ジハナの事は好きだけど、お友達としてよ。恋愛じゃないわ」
「本当に?遠慮してない?」
「してないわ。本当よ。ジハナみたいな人より、もっと可愛くて守ってあげたくなる人の方が好きだもの」
気を遣って嘘をついているようには見えなかった。本当に私を試す為に言った事だったんだろう。アイニェンは少し疲れた顔をして笑って、エルウィンと私の手を握った。少しの間、みんな静かに考えに耽る。
気が付いてしまった恋の行く先をぼんやりと考えた。
「……私、ジハナが好きだったんだなぁ」
「兄上、本当に気が付いてなかったんだ。僕はてっきり気が付いてない振りをしているんだと思ってたよ」
「知られてたなんて、なんだか恥ずかしいな。私分かりやすかった?」
「それはもう、分かりやすかったわ。ジハナと手なんか握っちゃったりして、私たちとも滅多に繋がないのに!」
今まさに3人で手を繋いでいることを棚に上げて、アイニェンが揶揄う。えへへと3人で照れながら繋いだ手をゆらゆらさせていると、部屋の外から声が聞こえてきた。
ジハナとネオニールだ、帰ってきた!
息をひそめて2人に目配せして扉の前に移動し、前のめりに屈む。ジハナが何も知らずに部屋に入ってきたら、みんなで驚かせるんだ。自然と口が緩むのが悪戯へのわくわくからなのか、ジハナに会えるからなのか、それとも両方なのか、自分でもよくわからなかった。
「あ、アイニェン、ジハナが格好いいってもしかして、ジハナの事……」
「素敵な人だなって思っていたの。初めて会った時から」
「え」
知らなかった。アイニェンがジハナを好きだったなんて。手足の指が冷えていく感覚がして、ピリピリとしびれる。思わず拳骨を作って指をすり合わせると、アイニェンが目を三日月みたいにして笑った。
「お兄様、もしジハナが結婚したら、どうするの?」
「わ、わたしは……」
もしジハナがアイニェンと結婚するなら、私はどうするんだろう。私は誰と結婚したらいい?……ジハナ以外に誰と?
「え、あ、あれ、私……」
私、今、結婚相手にジハナを考えた?
冷えていた手足から頭のてっぺんまで一気に血が駆け巡った。顔が熱く火照って、冷やさなければと思い、大きく口から息を吸う。焦って息をしたせいでひゅぅと変な音がして、次にはゲホゲホと咽込んだ。
ジハナの事、好きだったんだ、私。ジハナの事で舞い上がったり、この世の終わりのように一喜一憂していた理由がストンとお腹の真ん中に降りてくる。何の違和感もなく、だからかぁ、と酸欠でくらくらする頭もそれを受け入れた。
同時に失恋をした、ことになるんだろうか。ジハナが特別アイニェンを構っていた記憶はないけれど、可愛い妹が一生懸命ジハナに魅力を伝えればきっと、男の私では敵わないだろう。
側近であるジハナはこれからずっと城で生活する。私は叶わない恋の相手をいつまでもいつまでも隣に置くことになるのだろうか……それでも、ジハナを側近から外そうとは思えなかった。
「あらあらあらあら、お兄様、落ち着いて」
「アイニェンが意地悪するからだよ」
咳が治らない私を心配して2人が駆け寄って背中をトントンと叩いてくれる。妹を恐る恐る見るとさっきまでの不気味で怖い顔はなくなっていつものアイニェンに戻っていた。
やっと咳が落ち着いたころには3人とも床に座っていて、まだ荒い息を抑えつつアイニェンに向かって両手を伸ばす。
「アイニェン、ジハナの事、どのくらい好きなの?」
自分が想像しているのの倍以上は情けない、泣いているみたいな声が出た。アイニェンに縋りつくような体制も相まって、兄の威厳なんて欠片ほども見つけることはできないだろう。
エルウィンがすぐさまアイニェンを睨んでその背中をドンと叩く。いたぁとアイニェンが言った後、私を見てごめんねと笑った。
「私、ジハナの事はお友達としか思ってないわ。意地悪してごめんなさい」
「え、でも」
「こうでもしないと、お兄様気が付かなそうだったから……」
「それって、どういう……それより、じゃあ、私、ジハナを好きでいてもいいの?」
「もちろんよ、どうして?」
「だって、もしアイニェンがジハナを好きなら、諦めないとって思って」
「どうしてそうなるのよ!」
アイニェンが叫んで、私の両肩に掴みかかる。
「相手が誰であろうともね!遠慮してたらジハナを捕まえられないわよ!」
「うん、でも」
「でもも何もないわ!ジハナが好きなんでしょ!」
「そうだけど!でも私もジハナが好きだって知っちゃったら、ジハナと結婚できてもアイニェンは嬉しくないでしょう!」
「なっ……そ、そうかもしれないけど……」
「私はジハナが好きだけど、本当にアイニェンがジハナを好きなら、アイニェンを応援するよ」
涙目になったアイニェンが黙り込んだところで、やりとりを傍観していたエルウィンが口を開いた。
「今回は、アイニェンの例えが悪かったね」
「……困らせるつもりじゃなかったの」
「兄上に自分の気持ちに気がついて欲しかったんだよね」
「うん……お兄様本当にごめんなさい。私、ジハナの事は好きだけど、お友達としてよ。恋愛じゃないわ」
「本当に?遠慮してない?」
「してないわ。本当よ。ジハナみたいな人より、もっと可愛くて守ってあげたくなる人の方が好きだもの」
気を遣って嘘をついているようには見えなかった。本当に私を試す為に言った事だったんだろう。アイニェンは少し疲れた顔をして笑って、エルウィンと私の手を握った。少しの間、みんな静かに考えに耽る。
気が付いてしまった恋の行く先をぼんやりと考えた。
「……私、ジハナが好きだったんだなぁ」
「兄上、本当に気が付いてなかったんだ。僕はてっきり気が付いてない振りをしているんだと思ってたよ」
「知られてたなんて、なんだか恥ずかしいな。私分かりやすかった?」
「それはもう、分かりやすかったわ。ジハナと手なんか握っちゃったりして、私たちとも滅多に繋がないのに!」
今まさに3人で手を繋いでいることを棚に上げて、アイニェンが揶揄う。えへへと3人で照れながら繋いだ手をゆらゆらさせていると、部屋の外から声が聞こえてきた。
ジハナとネオニールだ、帰ってきた!
息をひそめて2人に目配せして扉の前に移動し、前のめりに屈む。ジハナが何も知らずに部屋に入ってきたら、みんなで驚かせるんだ。自然と口が緩むのが悪戯へのわくわくからなのか、ジハナに会えるからなのか、それとも両方なのか、自分でもよくわからなかった。
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