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第1章 幼少期
24話 王子と小さい側近の新しい日々③
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ペンを持って壁を見つめたまま固まった私を不審に思ったのかアイニェンが「お兄様?どうしたの?」と聞いた。振り向くとエルウィンも不思議そうに私を見ている。思わず立ち上がって2人に聞く。
「……毎日会えるのが分かっているのに、もっと会いたいとか、会えるような口実を作るのって、変かな?」
「ジハナの事?兄上はジハナといるといつもヘンだよ?」
「え、いつも?」
「エルウィン兄さま、黙って!大事な質問なんだから!」
かわいい弟に変だと思われていたことは今は深く考えない事にする。アイニェンが床に座ったエルウィンに飛び掛かって首元に抱き着く。ぐえ、と哀れな声がエルウィンから漏れた。
「アイニェンも変だと思う?私、ジハナの事気にし過ぎかな?」
「そんなことないわ!だって、会えると嬉しいでしょう?」
「うん。でもジハナは忙しそうなのに、こうやって驚かせようとしたり、勉強を一緒にしようとしたり。私って自分のしたい事ばかり考えているのかも」
そう考えると、後ろめたさの原因が分かるような気がした。ジハナがあれだけ私のために努力してくれているのに、私がするのは邪魔ばかり。前はジハナが私に悪影響だと言われていたけれど、今は逆なのかもしれない。
「ううん、ジハナがお兄様のすることで困っているならやめたほうが良いのかもしれないけど……」
アイニェンが言い淀み、その隙を突いてエルウィンが何かを話そうとしたが、結局アイニェンが首に回した腕に力を込められたのか潰れた声を出した後大人しくなった。
今では兄弟の中で一番背が高いエルウィンが、小さなアイニェンに手綱を握られているのは面白い。まぁ、私もアイニェンには逆らえないのだけれど。
「でも、レンドウィルお兄様、ジハナの嫌がることはしないでしょう?」
「う、ん、たぶん……」
自信を持って返事ができなかったのは、今ジハナが側近をやめたいと言っても、素直にうなずく事ができるかわからないからだった。私のそばにいるジハナの事はいくらでも応援できるけど、離れていくのなら、きっと私は年甲斐もなく駄々をこねて、泣いて喚いて、ジハナがいつもみたいに「まったく、仕方ないなぁ」と折れてくれるのを期待するんだ。
歯切れの悪い返事にアイニェンは黙って私を見つめた。心の中まで観察するような視線に気まずくなって視線を逸らして、それでもアイニェンは何も言葉を発しない。観念して私は打ち明ける。
「……そばにいてくれるなら、嫌なことはしないよ」
「つまり?」
「離れようとしたら、すごく引き留める」
「それがお兄様の言う、嫌なことなの?」
「側近をやめたいのにやめられないって、嫌じゃないか」
「じゃあジハナが側近をやめて、お兄様の遊び相手に戻りたいって言ったら?」
「遊び相手?」
遊び相手のジハナを考える。一緒に出掛けて、空でも眺めて、つまらない事を話して。ジハナと前の様に遊べるのならもちろん楽しく、癒されるだろう。でも。
「それも楽しいと思うけど、会える日が少なくなるのは、いやだなぁ。毎日は会えないでしょう?」
「引き留める?」
「うん」
「ジハナが嫌がっても?」
「……やっぱり、嫌がっているなら、引き留められないかも。嫌だなぁと思われながら、会いたくないもん」
「じゃぁやっぱり大丈夫ね」
「やっぱり?」
「だって、お兄様は優しいもの。ジハナに嫌がる事をしたとしても、きっと自分が耐えられないわ」
「……そうかもしれない」
アイニェンがにっこり笑って私を見て、首の主導権を未だアイニェンに握られているレンドウィルもウンウンとうなずいた。
ジハナに無理強いをし続ける自分より、ジハナが居なくなってこっそり泣く自分の方がよっぽど想像しやすかった。
少なくとも、ジハナが嫌がってくれれば、きっと私はジハナを諦められる。嫌がらない時は……私はジハナにどこまで要求するんだろう。そこまで考えたところで、私の考えを見越したようにアイニェンが聞いた。
「お兄様はジハナとどうなりたいの?」
「どうって……」
「いつかお父様が引退したら、お兄様が王様よ。その時、ジハナにどうしてほしいの?ネオニールみたいに家族みんなで城に住んでもらう?」
「か、家族?」
「ええ」
試すような目でアイニェンが私を見る。妹なのに、まるで私とジハナの事などお見通しとでもいうような、自信に満ちた目だ。最近は口も更に達者になって母上にどんどん似てきている。
エルウィンは黙ってアイニェンと私とを交互に見ている、少し焦った風な、でも何を話していいかわからない、そんな顔だ。
「……ジハナの父上と母上は城下の工房が近いところに住みたいんじゃないかな」
「もうお兄様、分かっているでしょう。ジハナのパートナーの話よ」
「な、なんで今そんな話になるの、私たち、まだ子供だよ」
「そうね、だから想像にすぎないけれど、でもそんなに遠い未来じゃないかもしれないわ」
狼狽える私をみてにんまりと意地悪に笑ったアイニェンが「だって」という。
「ジハナって、前から格好良かったけど最近もっと格好良く、綺麗になったんだもの」
捕まえたままのエルウィンの頭に自分の頭をくっつけて、目を細める。さっきまで可愛いと思っていた妹が突然大人びて見え、少し怖くなる。
「あれじゃぁいろんな人が、ジハナと結婚したいと思うわよ。ねぇ、お兄様?」
「……毎日会えるのが分かっているのに、もっと会いたいとか、会えるような口実を作るのって、変かな?」
「ジハナの事?兄上はジハナといるといつもヘンだよ?」
「え、いつも?」
「エルウィン兄さま、黙って!大事な質問なんだから!」
かわいい弟に変だと思われていたことは今は深く考えない事にする。アイニェンが床に座ったエルウィンに飛び掛かって首元に抱き着く。ぐえ、と哀れな声がエルウィンから漏れた。
「アイニェンも変だと思う?私、ジハナの事気にし過ぎかな?」
「そんなことないわ!だって、会えると嬉しいでしょう?」
「うん。でもジハナは忙しそうなのに、こうやって驚かせようとしたり、勉強を一緒にしようとしたり。私って自分のしたい事ばかり考えているのかも」
そう考えると、後ろめたさの原因が分かるような気がした。ジハナがあれだけ私のために努力してくれているのに、私がするのは邪魔ばかり。前はジハナが私に悪影響だと言われていたけれど、今は逆なのかもしれない。
「ううん、ジハナがお兄様のすることで困っているならやめたほうが良いのかもしれないけど……」
アイニェンが言い淀み、その隙を突いてエルウィンが何かを話そうとしたが、結局アイニェンが首に回した腕に力を込められたのか潰れた声を出した後大人しくなった。
今では兄弟の中で一番背が高いエルウィンが、小さなアイニェンに手綱を握られているのは面白い。まぁ、私もアイニェンには逆らえないのだけれど。
「でも、レンドウィルお兄様、ジハナの嫌がることはしないでしょう?」
「う、ん、たぶん……」
自信を持って返事ができなかったのは、今ジハナが側近をやめたいと言っても、素直にうなずく事ができるかわからないからだった。私のそばにいるジハナの事はいくらでも応援できるけど、離れていくのなら、きっと私は年甲斐もなく駄々をこねて、泣いて喚いて、ジハナがいつもみたいに「まったく、仕方ないなぁ」と折れてくれるのを期待するんだ。
歯切れの悪い返事にアイニェンは黙って私を見つめた。心の中まで観察するような視線に気まずくなって視線を逸らして、それでもアイニェンは何も言葉を発しない。観念して私は打ち明ける。
「……そばにいてくれるなら、嫌なことはしないよ」
「つまり?」
「離れようとしたら、すごく引き留める」
「それがお兄様の言う、嫌なことなの?」
「側近をやめたいのにやめられないって、嫌じゃないか」
「じゃあジハナが側近をやめて、お兄様の遊び相手に戻りたいって言ったら?」
「遊び相手?」
遊び相手のジハナを考える。一緒に出掛けて、空でも眺めて、つまらない事を話して。ジハナと前の様に遊べるのならもちろん楽しく、癒されるだろう。でも。
「それも楽しいと思うけど、会える日が少なくなるのは、いやだなぁ。毎日は会えないでしょう?」
「引き留める?」
「うん」
「ジハナが嫌がっても?」
「……やっぱり、嫌がっているなら、引き留められないかも。嫌だなぁと思われながら、会いたくないもん」
「じゃぁやっぱり大丈夫ね」
「やっぱり?」
「だって、お兄様は優しいもの。ジハナに嫌がる事をしたとしても、きっと自分が耐えられないわ」
「……そうかもしれない」
アイニェンがにっこり笑って私を見て、首の主導権を未だアイニェンに握られているレンドウィルもウンウンとうなずいた。
ジハナに無理強いをし続ける自分より、ジハナが居なくなってこっそり泣く自分の方がよっぽど想像しやすかった。
少なくとも、ジハナが嫌がってくれれば、きっと私はジハナを諦められる。嫌がらない時は……私はジハナにどこまで要求するんだろう。そこまで考えたところで、私の考えを見越したようにアイニェンが聞いた。
「お兄様はジハナとどうなりたいの?」
「どうって……」
「いつかお父様が引退したら、お兄様が王様よ。その時、ジハナにどうしてほしいの?ネオニールみたいに家族みんなで城に住んでもらう?」
「か、家族?」
「ええ」
試すような目でアイニェンが私を見る。妹なのに、まるで私とジハナの事などお見通しとでもいうような、自信に満ちた目だ。最近は口も更に達者になって母上にどんどん似てきている。
エルウィンは黙ってアイニェンと私とを交互に見ている、少し焦った風な、でも何を話していいかわからない、そんな顔だ。
「……ジハナの父上と母上は城下の工房が近いところに住みたいんじゃないかな」
「もうお兄様、分かっているでしょう。ジハナのパートナーの話よ」
「な、なんで今そんな話になるの、私たち、まだ子供だよ」
「そうね、だから想像にすぎないけれど、でもそんなに遠い未来じゃないかもしれないわ」
狼狽える私をみてにんまりと意地悪に笑ったアイニェンが「だって」という。
「ジハナって、前から格好良かったけど最近もっと格好良く、綺麗になったんだもの」
捕まえたままのエルウィンの頭に自分の頭をくっつけて、目を細める。さっきまで可愛いと思っていた妹が突然大人びて見え、少し怖くなる。
「あれじゃぁいろんな人が、ジハナと結婚したいと思うわよ。ねぇ、お兄様?」
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