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星雲町

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 俺の住む町、星雲町は、海に面した位置に存在する人口一万人ほどの小さな町だ。隣の霞市は人口十万人。両方とも海に面しており、漁業が主要産業となっている。星雲町には現在高校がなく、隣の霞市にある霞高校に通っている。
 砂浜へと足を踏み入れる。
 しゃり、しゃり、ざく、ざく。
 小気味のいい音が誰もいない砂浜にかすかに響く。
 誰も……い、な、い。
 人がいる!
 まさか、この暗い夜に浜辺で遊ぶ人がいるとは!
 自分のことを棚に上げて、そんなことを思った自分にバチが当たったのだろうか。
 ポツ、ポツ――ザーザー。
 大雨だ! 
 空は星々が輝き、雲一つないのに、なぜか大雨が降っている。
 やばい、早く家に帰ろう。
 くるりと体を家の方角へと転換させる。
 ……ちょっと待て。
 先ほど目撃した人影の方を見れば、同じ姿勢のままじゃないか。
 暗闇で見えづらいが、少し前かがみで、両手を筒状のものに携えたままの状態から、全く動こうとする気配が感じられない。
「……」
 どうする。このまま帰ってもいいが、もしあの人物が行く当てがなく、あの場に立ち尽くしているのだとしたら。
この雨で風邪をひかれては、俺個人の後味が悪すぎる。
 再び方向転換し、その人物のもとへと駆け出す。
「うっ」
 砂浜に足がとられて走りにくいことこの上ない。
 人影が近づくにつれ、少しづつ輪郭がはっきりとしてくる。
 雨音のためか、向こうは一向にこちらに顔を向けようとしない。
「あのー。大丈夫ですかー」
 自分がびしょぬれで大丈夫とは言えない状況のなか、声を何度も振り絞る。
「え、私?」
 ようやくこちらの声が届いたと思ったら、その人物は、彼女――桜井乙羽さんだった。
「……何してるんですか。こんなところで」
 桜井さんが今も握りしめている望遠鏡に目をやりながら問いかける。
「何って、星を見ているの」
 首を傾げながら、当然のような表情を浮かべてこちらをまっすぐに見つめてくる桜井さんに、思わずため息をついてしまう。
「……それは分かっています。俺が聞きたかったのは、こんな雨の中で、いつまでも望遠鏡をのぞき続けているのはどうしてなのかってことです」
 俺の言葉の意味をすくに理解できなかったのか、ゆっくりと首を傾げ、二、三秒沈黙が流れた。雨音だけが俺たちを包み込んでいた。
「……あ! 雨降ってる!」
 え? 気づいてなかったの?
 俺の存在はすっかり頭から消えてしまったように、一心不乱に望遠鏡を解体し始めた。
 やばいやばい、この望遠鏡、雨はNGなのに。
 無駄のない動きで望遠鏡を解体したかと思うと、風のような速度で桜井さんは浜辺を後にした。
 ザーザー。
 俺はその場で呆然と立ち尽くしていた。
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