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0072★その頃のアゼリア王国13 大神官長の回想と破滅への足音
しおりを挟むあの国よりも、我が国の方が魔法を使うのがうまい。
それ故に、証拠が無くて事件は未解決のままになっている。
だが、公爵は妻と義娘を殺され、可愛い盛りの義孫娘を奪われたコトを、心底から恨んでいる。
また、公爵令息も義母と義妹を殺され、可愛い義姪を奪われたコトを恨み忘れていない。
公爵令息は結婚して息子も二人出来たが、その妻も息子達もセシリアを溺愛していたし、いずれはどちらかの嫁にという話もでていたから………。
先代ハイドランジア公爵から渡されたカメリアの持参金と、商会のおかげで傾いていた公爵家は、すべての借金を払い領地経営も順調になり、公爵家としての対面も余裕でこなせるようになっていた。
その恩義もあるし、なによりアメリアとカメリアを家族として愛するようになっていたから………。
たとえ、セシリアの父親がわからなかったとしても、それは関係無かった。
また、先代ハイドランジア公爵に、カメリアとアメリアのコトを頼まれていたから………。
そして、娘の現ハイドランジア女公爵が、カメリアとアメリアに恨みと憎しみを持っているから気をつけて欲しい、出来れば守って欲しいと頼まれていた。
それでもカメリアの望みで、貴族街と平民街の境にある小さな屋敷に、平民としての暮らしが出来がようにしていたらしい。
そこで、公爵も嫡男も一緒に暮らしたりもしていたようだ。
これは、ある意味で良い気分転換になっていたらしい。
そして、貴族街に買い物に来ていた時に侍女や護衛とはぐれて、泣きそうになっていた侯爵令嬢とアメリアが知り合い意気投合して、目立つカフェに入り侯爵家に連絡をした。
それが縁で、嫡男と侯爵令嬢は婚姻したようだ。
これで、貧乏公爵と言われていた公爵家は、社交界での地位を元に戻したのだった。
その上で、公爵家の嫡男夫妻の自分達に子供が出来なくても、アメリアに血縁の貴族男子を婿養子にすれば良いと考え、跡取りに対してのプレッシャーが無かったから、あっという間に妊娠したようだ。
そして、跡取り息子とスペアの次男を、侯爵令嬢はあっさりと産んだのだ。
子育てにカメリアもアメリアも参加していたし、乳母もいたので仲良くのんほほんと子育てを楽しんでいた。
だから、アメリアが父親のわからない子供を妊娠しても、誰も何も言わなかった。
調べたところによれば、アメリアの側にいた男は、他国の複雑な事情のある王子だった。
そして、ハイドランジア公爵家の色彩をまとったセシリアが生まれた。
王家に生贄の王妃を差し出す順番が、ハイドランジア公爵家にきていたというコトは無かった。
それなのに、現ハイドランジア女公爵は、順番に当たっていたリリエンタール公爵に順番の交代を申し出た。
リリエンタール公爵夫妻は相思相愛で、子供を愛していたので愛人を作っていなかった。
要するに、王家に差し出す為の生贄を作っていなかった。
それに目を付けて、現ハイドランジア女公爵は、生贄の順番の交換を提案したのだ。
引き換えに、リリエンタール公爵家の宝石鉱山から産出されるいくつかの宝石を望んだ。
そう、憎い異母妹の娘を生贄として王家に差し出し、宝石を手に入れるという………一石二鳥を得るコトを計画したのだ。
そして、他国の公爵の孫娘を誘拐するという暴挙に出たのだ。
父親のわからない子供を産んだ後妻の連れ子である娘を殺して、その娘を誘拐しても何も気にしないと思って………。
私は、セシリアの身元を調べさせて、その真実を知った時、真っ青になった。
他国の公爵の妻と娘を殺し、孫娘を誘拐したという事実に恐れおののいた。
下手したら、戦争一直線だ。
そして、セシリアの父親は、事情があるとはいえ他国の王子だった。
下手したら、二つの国から戦争をふっかけられる。
先代ハイドランジア公爵に頼まれた公爵は、現ハイドランジア女公爵を疑っていた。
が、他国の公爵を捕まえるコトは出来ない。
そう、たとえ証拠を見つけても………。
どこの国も、他国に自国の民を渡したりはしない。
犯罪者だからという理由があっても、それはしない。
犯罪者として自国の民を手渡すのは、その国より下だと認めるコトになるから………。
私としては、セシリアが生贄として浄化するコトに耐えられなくなったら、王妃達を生贄にしてセシリアの身体に溜まってしまった負を浄化する予定だった。
そして、現ハイドランジア女公爵と、その夫を秘密裏にあの公爵達に差し出す予定だったのに………。
現ハイドランジア女公爵の産んだ子供達は、すべて生贄にする予定でいた。
どちらにしても、現ハイドランジア女公爵は、戦争を引き起こすような重大なコトをしでかした犯罪者なのだから………。
こころを痛めなくて良い、生贄達なのだから………。
そう、あのくず王子の相手として、子供を生み魔道具を着けて浄化の生贄として使うコトのできる、理想的な生贄。
息子のほうには、王妃をあてがって子供を生ませても良いしな。
私のこころも、もはやそれを悪いとも思わない。
多くの無辜の者達を、地位をカサに無理強いして、必要のない負を生み出し続けた罪人達の系譜に、同情などしない。
いや、同情できるような輩ではないから、こころ穏やかに非道な考えをもてるというものだ。
どちらにしろ、生贄を差し出すだけの公爵家や侯爵家など必要ない。
浄化をするコトを真摯にまっとうする者達が、本当の貴族なのだから………既に、極僅かになってしまっているが。
貴族を名乗るだけの穀潰し達に、義務と責任を背負ってもらう。
元々が傲慢な高位貴族達だったが、義務と責任の浄化を真面目にしなかった公爵家や侯爵家は、大地の負に招き寄せられるように入り込んだ、他国の罪業を背負う悍ましい貴族達に入り込まれ、既に本筋に取って代わられている。
建国からの確かな血筋を残して居る家もあるが、分家や傍系と化している。
義務と責任を放棄した結果だろう。
だからこそ、なんとしても建国からずっと、正当な血筋を維持し続けているガウェイ王には長生きしてもらい、まっとうな王子を作ってもらわなければ………。
我らの忠誠は、代々この国の浄化をしている王に対してのみ捧げているのだから。
とはいえ、あちらの公爵家の者は知っているのだ、現ハイドランジア女公爵が身勝手な恨みを持っているコトを………疑われているコトは既に必至。
いや、既にセシリアの存在を確認する為の間者が侵入しているだろう。
いくら他国のコトで易々と手が出せないとは言っても、こちらにセシリアが居るコトがバレれば言い逃れは出来ない。
即、戦争というコトにはならないだろうが、不和になるコトは免れない。
セシリアの父親は他国の王子で、母親は公爵令嬢………そして、セシリア自身も他国の公爵令嬢なのだから。
そして、セシリアの置かれていた環境を知るコトになるだろう。
そう…セシリアが、このアゼリア王国で生贄として………散ったコトを………。
この目で確認して居ないが、セシリアがアゼリア王国に居ないのは確かな事実。
あの浄化の為の魔道具は、大神官長たる私か、ガウェイ王にしか外せないモノなのだから………いや、一応、エイダン王子も外せるかもしれない。
散っていない可能性が無いとはいえない………が。
きっと、ろくでもないコトをしているだろう。
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