82 / 173
0081★ルリは頭を抱える
しおりを挟むセシリアは、調理して出来上がったカラアゲとソーセージを、自分の腕輪型のアイテムボックスと、ユナに持たせたマジックポーチに分けて、収納する。
それをなんとはなしに観ているルリの前で、ユナが瞳をキラキラさせながら、セシリアに自分もできるかと聞いて、簡単な調理の真似事をし始めていた。
ユナは危なげなく水魔法を使い、セシリアの目の前でジャガイモもどきを洗浄する。
勿論、ユナは洗浄に使った水を、側に出した壷へと放り込む。
そして、風の魔法を使い、ジャガイモもどきを浮かせて、器用に皮を剥く。
更に、剥いたジャガイモもどきを細切りにするのを観て、ルリは頭を抱えてしまう。
嗚呼…失敗……ユナが、魔法はそういう風に使えるモノだって学習しちまっているよ
それでも、砂漠では水が大事だというコトをちゃんと理解してくれているね
捨てずに、壷に溜めているからねぇ…偉いよユナ
無意識にウンウンと頷きながらも、ユナがセシリアの魔法の使い方を真似しているのを改めて確認し、苦笑いを浮かべてしまう。
そう言えば、外での調理の間も、ユナはリアの側に付きっ切りだったからねぇ
知らないってコトは、基本となる固定概念のようなモノがないってコトだからね
ユナは、魔法に関しての一般常識のようなモノがなかったんだねぇ
だから、身近な者の使い方を観て覚えるしかない
そして、リアが使っている魔法を観ていたから
魔法は、そうやって使えばいいって学習しちまったんだろうねぇ
だから、ユナはリアの真似がそのままできちゃうんだろう
ある意味で、リアはユナの姉というより母親に近いんじゃないかしらねぇ
子供の姿をしているけど、本当は見掛けよりも、ずっと幼いのかもしれない
きっと、ユナは生まれたてで無力な時に、ハンターに捕獲されたんだろう
はぁ~…こうなると親だって存在しているのか、あやしいモンだよ
本当に、もしかしなくても、アタシよりもとんでもない存在かもしれないねぇ
そんなコト知らずに、捕獲したユナを、単なる狐獣人の子供って思ったのかもねぇ
きっと、見た目の愛らしさから、愛玩用として高く売れるって捕まえたんだろうねぇ
そういうモノが好きな、貴族に飼われると思ったんだろうね
だから、主人となる者に素直に飼い主に従うように、食事を少なくしていたんだろう
リアに、お腹いっぱいご飯が食べたいって言うほどだから………
高く売りつける為に、何も教えていないのは確かだね
躾けるのも楽しみっていう、悍ましくもあさましい貴族なんてごまんといるからね
そんな貴族には、かなりの確率でゲスな者が存在するからねぇ……おおイヤだ
そういう意味じゃ、ユナもリアに買われて幸せなクチだね
しかしかまぁ……本当に、上手にリアの魔法の使い方を学んでいるねぇ
既存の常識が無いから、魔法の可能性ってモンをリアに伝授されやすいんだろうねぇ
まぁ…そうやって、新しい魔法ってヤツは伝授されて行くんだろう……たぶん
いや、まぁ…リアの魔法が特殊なだけだと思っていたんだけど、違うようだねぇ
ユナが使えるってコトは、固定概念がなければリアの魔法を習えるってコトだからね
アタシも、ちょっと挑戦してみようかねぇ………面白そうだし
生もイイけど、やっぱり調理したモノの方が美味しいって思えるしねぇ……
簡単なモノなら、アタシでも真似できるかも知れないし………
リアの真似をするだけで、更に魔力操作の質が上がりそうだしね
「リア、アタシも手伝おうか? 洞窟の中の遺跡が『ダンジョン』だった場合、何日も迷うってコトもありそうだからね」
ルリの言葉に、セシリアはちょっと首を傾げてから頷く。
「なら、ルリにはお肉を切ってもらおうかな…このぐらいのブロック肉をいくつか作ってくれるかな…ローストビーフにするから…あと、サイコロステーキ用に2センチぐらいの小さな肉の塊りが欲しいな」
「了解だよ、リア……ところで、ローストビーフって何だい?」
セシリアの言葉に、ルリは頷いから、聞きなれない言葉に首を傾げる。
「んーと、肉の半分ぐらいを加熱して、薄切りしたモノかな? 生肉とは違った風味になると思うよ……何なら、ひとつ見本で作るから、味見してみる?」
セシリアの言葉に、取り敢えず、ジャガイモの細切りをちゃんと成功させたユナが可愛く片手を上げて言う。
「はぁ~い…ユナも、そのローストビーフって言うの食べたいですぅ」
その言葉に、集中して調理していたセシリアは、お腹が空いているコトに意識が向く。
「そうねぇ…なんかお腹空いて来ているし…って、もしかして、お昼ご飯の時間過ぎてない? 時短で作るから、適当なところで馬車を停めてもらおうか………」
そう言いながら、セシリアは御者をしているグレンに声をかける。
「グレン、ちょっと遅いけどお昼にしない? なんかお腹空いてきたから………」
セシリアがそう声を掛けると、御者台の方からグレンが答える。
「了解………ちょうど、岩って呼べそうなモノがゴロゴロと転がるところが近くに見えたから、その手前で停止させるな」
そう言うのとほぼ同時ぐらいに、馬車の速度がスッと下がったのを体感する。
「おや、丁度良かったみたいだねぇ……ちょっと馬車ン中では制御の心配あったから、外で肉の調理の補助をしてみようかねぇ」
ルリがそう言えば、ユナがにこにこしながら言う。
「ジャガジャガを洗って切るの簡単に出来たよぉ……ルリお姉ちゃんも簡単にできるよぉ」
と、愛らしく言うユナに、ルリはちょっと苦笑を浮かべながら頷く。
「そうだね、そしたら、リアの負担が減るね」
「うん」
へぇ~……あのジャガイモもどきって、ジャガジャガっていうんだ
やっぱり、名前が似ているんだねぇ……
そう言えば、正気……というか、前世を思い出して助かったなぁって思ったのよね
そんなコトを考えて居る間に、馬車が停止してグレンが御者台から戻って来る。
「どうする? 昼食は馬車の中で食べるか? それとも外にするか?」
グレンの言葉に、ルリがセシリアを振り返る。
「あっじゃぁ…お外で食べようよ……結界張れば風が吹いていても平気だし……って、もしかして日差し強い?」
セシリアの言葉に、グレンちょっと首を傾げてから答える。
「う~ん…大丈夫じゃないかな………んじゃ、その水が入っている壷は俺が外に出そう………ジャガジャガの剥いた皮も入っているようだから、馬達も喜ぶだろうしな」
そう言って、壷を持って馬車の外へと向かう。
「そんじゃリア、ナナと子供達も外に出してやりな」
「うん、そうだね……それじゃ外に出たら隠蔽結界張って、姿見から出すね………それじゃ、ユナ馬車から降りよう」
「うん」
嬉しそうなユナと、優しい表情のセシリアの背後について、ルリも長い尾を優雅に振りながら馬車から降りるのだった。
51
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる