上 下
2 / 183

001★プロローグ

しおりを挟む

 少年・神楽聖樹は、何時もの夢を見ていた。

 最初は、乳白色の世界に、幾つもの様々な糸が縦横無尽に存在する場所。

 そこには、綺麗な女性達が笑いさざめきながら、糸繰りや染色?や織物をしているモノだった。

 年齢は様々だが、美しい容姿の女性達が集っていた。


 ‥‥‥ああ‥‥‥また‥‥‥この夢?
 ここは‥いつも思うけど‥‥どこなんだろう?

 ぼぉーとした感覚の中で、ただ、目の前の風景を眺めていると‥‥‥‥。
 唐突に、ぐにゃりと目の前の穏やかで楽しそうな景色が歪む。


 ‥っ‥‥あっ‥‥こんどは‥‥これ‥‥‥‥

 先刻の穏やかさとはうってかわり、聖樹の中に恐怖と焦りと言い知れない焦燥感のようなモノが流れてくる。



 そこは、砂漠だった。

 流れる景色は、聖樹の知る世界とはまったく異なった世界。

 まるで、恐竜のような生物が闊歩し、人をも襲う植物が存在する。

 巨大な昆虫や幻獣や異形の獣が溢れかえっていた。

 そして、今日も‥‥‥‥。

 突然、襲ってくる異形の人?と獣?のようなモノに、襲撃されて‥‥‥‥。

 眼前で、自分を護るように戦う、戦士らしき者が‥‥‥‥。

 『‥‥無事‥‥‥タカ ‥‥‥‥‥‥様 ‥‥‥‥‥ 』

 ぼんやりとしていて、輪郭がはっきりしないが、異形の姿を持つ戦士?が、抜き身の大剣を片手に待ったまま、話しかけてくる。
 恐怖と安堵の感情を感じながらも、聖樹は足が震えて動けなかった。
 そんな中、異形の戦士が言葉を続ける。

 『‥‥‥‥‥‥様 ‥ノ‥デス サァ‥‥‥ ‥‥ガ 囮‥‥‥ ココ‥‥‥
  ‥‥‥‥レ‥‥‥ニ ‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥』

 聖樹が、よく聞き取れないと思っている間に、脅えで動けなかった躯を異形の戦士が抱き上げる。

 どぉーして、安心感なんてあるんだ?

 聖樹が疑問を感じている間に、まわりの景色が流れ出す。

 そこで、プツリと感覚が、意識が途切れるのを感じた。




 聖樹は、ガバッと起き上がり、無意識に胸を押さえてから疲れたように呟く。

 「‥‥はぁはぁ‥‥はぁ~‥‥また、あの夢かよ‥‥‥なんか、日増しにひどくなってる気がするぜ‥‥‥」

 それは子供の頃から、繰り返し見る夢。
 どことも知れない、砂漠だったり、絶景と呼んで良いような渓谷だったり。
 共通するのは、聖樹が住む地域や国には無い場所ということだった。
 聖樹は、動物や植物、歴史や遺跡などが好きで、そういう番組を好んでみていた。
 だから、わかるのだ。
 
 その夢に出て来るような場所が、この自分が住む世界には、実際は存在しないモノだということを‥‥‥‥。
 洞窟や渓谷、樹海のような場所でも、どこかどころか、はっきりと違うと判るぐらい異なっていた。
 生き物にいたっては、ありえないの一言に尽きるほど、異様なモノが多種多様に存在していた。

 聖樹は、夢の中の感覚を振り払うように頭を振る。

 「聖樹、起きたの? 朝ごはん出来てるわよ」

 カチャッとドアが開き、母・悠美が顔だけを出して言う。

 「うん‥‥おはよう、母さん‥‥」

 聖樹は、寝ていた布団を畳み、押入れへと入れる。

 その足で、洗面所へと行く。
 顔を洗って、タオルで顔を拭いた聖樹は1つ大きく嘆息する。

 「ふぅ~‥‥‥にしても‥‥‥」

 幼少期から何度も見る夢
 その時々でシーンは違うけど‥‥‥‥
 同じ異なった世界という意味では、共通している
 小さい頃は、よく、あの夢のセイで泣いて母さんを困らせたっけ

 聖樹は、苦笑いを浮かべて、軽く両手で気分を引き締めるために叩く。

 「とにかく、今は学業だ」

 少しでも良い成績をとらないと‥‥‥‥。
 早く、母さんを楽にさせてあげたい。
 俺のために、これ以上の苦労はして欲しくない。
 母さんだって、まだ、若いんだから‥‥‥‥。

しおりを挟む

処理中です...