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0014★悪夢の始まりは、新しいアルバイト

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 その日、聖樹を貶めようと、策略を練っていた彼らは焦っていた。
 デモニアンから、明確な指示が入ったのだ。
 そう、明日から夏休みという日に‥‥‥‥。


 後の無い彼らは、何が何でも、指定された喫茶店へと引っ張って行く気で聖樹に声を掛けた。
 例によって、アルバイトをエサに‥‥‥‥。
 


 「なぁ‥‥‥神楽、今日これから空いてるか?」

 クラスメートの呼びかけに、聖樹は首を傾げる。

 「稼ぎ時だろ。夏休みのアルバイト。まだ、良いヤツ見付けてないんだろう」

 「割り良いヤツ、結構あるぜ」

 更に乗せられた言葉に、聖樹も心を動かされる。

 気分転換も兼ねた、新しいアルバイト先を考えていた聖樹は、彼等の誘いに何の疑問も無く乗ってしまった。

 「ああ、ちょうど良いや。新しいアルバイト先を探してたんだ。俺が出来そうなヤツ有ったら、幾つか紹介してくれよ‥‥‥」

 クラスメートからの誘いの言葉に、聖樹は頷いた。

 それが《悪夢》への幕開げになる一歩と知らずに、聖樹は踏み出してしまった。

 自分が悪質な毒牙に向かって、飛び込んでしまうとも知らずに‥‥‥‥。


 「んじゃ、駅前にある、喫茶店〔ワルツ〕に、3時集合な」

 「ああ、わかった。3時に喫茶店〔ワルツ〕な」

 頷いた聖樹は、何の疑問も持たずに、カバンを持って、さっさと帰宅するのだった。
 その後姿に、ホッとする者と、悪意に満ちた表情で、ニマニマと嗤う者が居たことを聖樹は気付くことも無かった。



 そして、午後3時、聖樹は指定された喫茶店〔ワルツ〕に居た。
 自分がとんでもない悪意の真っ只中に飛び込んだとも知らずに‥‥‥‥。



 「んで、神楽ってば、どれぐらいのやりたいんだ?」

 そう言いながら、コネを使って集めた、一応は、ホンモノのアルバイトの求人広告の束を見せる。

 「えっ? どれぐらいって?」

 聖樹は、何を言われたかわからずにちょっと首を傾げる。

 「だから、夏休みに稼ぐ、予定金額とかあるのかって話し‥‥‥‥」

 そう言いながら、テーブルの上に幾つかに分類した求人広告を指差す。

 「朝から晩まで、ばっちりってーのなら、こっちだぜ」

 「ガッツリ系の泊り込みならこっちな」

 「リゾート系もあるぞ」

 「そ、こっちは海の家とか‥‥‥‥」

 「高原とかもあるぜ」

 「こっちなんて、アルバイトの合間に乗馬とか出来るんだぜ」

 などなど、次々と現れるアルバイトの広告に、聖樹は目移りする。

 その間に、1人がデモニアンの指示を受けるために、スッとその場から離れた。
 が、色々なアルバイトの求人広告に目を落として内容を読んでいた聖樹は、それに気付かなかった。



 少し離れた場所で、スマホを握り、デモニアンからの指示を受けた少年は、何食わぬ顔で、サンドイッチやハンバーガーに、珈琲を持って席へと戻る。
 勿論、聖樹の珈琲には、郵便で送られてきた睡眠薬が入っていた。


 「飲みモノとサンドイッチとハンバーガーもって来たぞぉー‥‥‥‥」

 「あっサンキュー‥‥‥‥んじゃ、とりあえず求人広告どかせぇー‥‥‥‥」

 その掛け声に反応して、一緒に求人広告をみているフリをしていた少年が、バサバサと求人広告を隣りのテーブルへと移す。

 あっと言う間に綺麗になったテーブルに、サンドイッチとハンバーガーを置き、さりげなく、聖樹の前に睡眠薬入りの珈琲を置く。

 全員、珈琲なので、聖樹はなんの疑いも無く、珈琲に手を伸ばし、添えられたミルクと砂糖を入れてコクコクと飲んでしまう。

 うん、良い香りだなぁ‥ほっとする‥‥‥はぁ~‥美味い‥‥‥‥
 なんか、喉渇いてたからちょうどよかったなぁ‥‥‥‥
 さて、どれにしようかなぁ‥‥‥‥色々とあって迷うぜ
 なかでも、高原のバイトよさそうだなぁ‥‥‥‥
 乗馬したい放題って魅力的だし‥‥‥‥
 海の家もイイけど‥‥‥

 珈琲をコクコクと飲む聖樹の姿に、少年達は内心でホッとしていた。

 これで、デモニアンの指示通りできた‥‥‥‥

 クックククク‥‥‥‥こいつさえ、いなけりゃ‥‥美月は俺のモノ‥‥

 やっと、舞ちゃんを‥‥‥‥

 デモニアンの手に掛かれば、半年はカタイって‥‥‥‥

 紹介してくれた先輩が言ってたからなぁ‥‥‥‥

 それぞれの思惑を秘めつつ、少年達は、聖樹が眠りに落ちるのを待った。

 そして、程なく、聖樹は目論み通り、盛られた睡眠薬のセイで深い深い眠りの園へと意識を落とした。


 完全に、聖樹が意識を落とし、眠った頃。
 また、スマホを握る少年に指示が入る。
 そう、聖樹を置いて、そのまま帰れと‥‥‥‥。
 後は、自分達の領分だと‥‥‥‥。


 少年達は、罪悪感も無く、聖樹を置いて、デモニアンの指示通り、さっさと喫茶店を出た。
 彼らの表情は、その時、邪悪な喜悦感に満ちていた。
 邪魔者を貶める喜びのまま、軽い足取りで、後ろを振り返ることも無く嬉々としたままそれぞれの場所へと帰っていったのだった。


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