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0039★今度は、精神だけ?2

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 聖樹が気分的に途方にくれていようと、状況は刻々と勝手に動いて行く。

 異形の戦士は、聖樹を腕に乗せたまま、軽々と走っていた。
 腕に人?1人抱えながらの走行にも関わらず、息を乱すこともない。
 それどこか、平然と、普通の口調で、聖樹が入ってしまったロン・パルディーアと言う人物に向けて話し掛ける。

 『ロン・パルディーア様 残念デスガ ココハ 既ニ 奴等ノ
 テリトリーニ 成ッテシマッテオリマス スミマセン
 ココデハ 時空跳躍スルコトガ出来マセン モシ強行シテモ
 コノ場ニ 時空跳躍の痕跡ガ 明確ニ残リマス』

 聞き馴れない‥と、いうか耳障りというか、言っている意味は理解(わか)るのだが‥‥‥‥。
 かなり、違和感たっぷりの言葉で話す異形の戦士に、聖樹はロン・パルディーアの中で、不可思議な気分に陥る。

 だが、異形戦士の言葉で、聖樹は、自分が入って入ってしまった躯の持ち主の名前を知る。

 ふ~ん‥‥何度も‥‥ロン・パルディーア様って言ってるから‥‥‥‥
 この躯の持ち主は、ロン・パルディーアって言う名前なんだな‥‥‥‥

 聖樹の納得をよそに、異形の戦士は言葉を続ける。

 『ココデ 無理矢理 時空跳躍スルノハ 自殺行為二成リマス
 コノママデハ 追ッ手ニ追ワレヤスク成ッテシマイマスノデ

 マズハ 南陽辺リマデ移動シタアト ロウヤノ洞窟ヘ行キマショウ
 ソコカラ異世界ヘト跳ビマショウ ロウヤノ洞窟ハ 太古ノ昔シカラ 
 幾ツモノ 異世界二通ジルト言ワレテオリマス

 ロウヤノ洞窟ハ 遥カ昔シ 流刑ニ 何度モ使用サレタ場所
 私ノ跳躍ヲ加エテ 時空跳躍スルナラバ 奴等ガ 追エナイヨウナ
 異世界へ跳ブコトガ 可能デス 

 異ナッタ世界デ 御子ガ成長スルノヲ待チマショウ
 モウ ソレシカ 奴等二対抗スル術ハ無イノデスカラ』

 聞き馴れない言葉で言う、複数の地名に、聖樹は首を傾ける。

 実際は、どんな言葉で喋っているか全然理解らないけど‥‥‥‥
 取り敢えず‥‥‥かなり聞きづらいけど‥‥‥‥
 本来の躯の持ち主のお陰で、俺にも、内容が理解(わか)る程度には
 言葉が自動変換されてるみたいだな‥‥‥‥

 しかし、幾つもの異世界に通じる洞窟なんてあるのかぁ‥‥‥‥

 ‥‥‥それに、過去に何度も流刑に使用されてた場所に向かう‥‥
 ってことは、何かあって、誰かから逃けてるってことかぁ?

 まだ、産まれていない‥‥‥‥腹ン中にいる子供なのに‥‥‥
 ‥‥‥御子が育つのを待つって言ってるし‥‥‥
 ‥‥‥メチャクチャにヤバイってことンなってるじゃん‥‥‥‥

 でも、今のこの俺の状態って、たんなる? この異世界の住人への
 意識憑依みたいなモンで‥‥‥転生とかでもなさそうだし‥‥‥‥

 はぁ~‥‥これってやっぱり‥何度も祈っちゃったセイだよなぁ‥‥‥‥
 うわぁぁー‥‥‥このあと、どんな副作用的なコトになるんだぁ‥‥‥‥
 どんだけ、祈ったか‥‥‥救助を望ンだかわっかんねぇー‥‥

 ‥‥‥っても、今の俺に何が出来るわけでもねぇーしなぁ‥‥‥‥
 とりあえず、傍観しているしかねぇーよなぁ‥‥‥はぁー‥‥‥‥

 聖樹が、ロン・パルディーアと呼ばれた者の中で状況に溜め息を吐いている間、異形の戦士はひたすら無言で走り続けていた。
 が、突然、鋭く舌打ちする。

 『チッ 思ッタヨリ早イ ロン・パルディーア様 敵デス
 ヤハリ奴等ノ兵隊ガ 未ダコノ辺リニ残ッテ居タヨウデス
 ガ 御安心ヲ コノ程度ノ雑魚 止マッテ戦ウ必要モ有リマセン
 コノママ 切リ抜ケマス』

 ロン・パルディーアを腕に抱いたまま、異形の戦士は背に背負っていた大剣をスラリと抜き放つ。
 たった今、敵兵だと言った集団の中へと突っ込み、一刀両断しながら駆け抜ける。
 そう、足を止めることもなく。

 血飛沫と断末魔を上けて倒れる敵を一顧だにもせず、異形の戦士は敵の中を走り抜けた。

 ふぅ~ん‥‥‥こっちの世界って‥‥姿形だけじゃなく
 躯を流れる血の色も色々なんだなぁ‥‥‥‥

 それに武器が剣ていうのもアナクロだよなぁ‥‥‥‥
 ‥‥マジで、野蛮な世界って感じだぜ‥‥‥‥
 この世界って、弱肉強食の野生の王国なのかよ‥‥‥‥

 聖樹は、その様子を見詰めて、周辺もよく観察しながら、自分ではない躯の持ち主が、異形の戦士の力量に、安堵と期待とオスとしての力強さに心震わせているのを知る。

 やっぱり‥この不可解な感情って‥‥女か‥‥‥
 つうことは、躯の持ち主って、女性ってことだよなぁ‥‥‥‥

 信じたくないけどさぁ‥‥‥俺‥‥やっぱり、別人の‥‥‥
 それも女性の中に居るンだなぁ‥‥‥‥

 すっごく、突飛な発想かも知れないけど‥‥‥‥
 俺は、異形の戦士の強さに関心はするけどぉ‥‥‥

 ‥‥‥安堵とか期待って待ってないしぃ‥‥
 まして、オスの色香なんて全然感じないモンなぁ‥‥‥‥

 ?を浮かべまくる聖樹とは別に、口が勝手に異形の戦士へ質問する。

 『南陽二ハ ドレクライデ着クノデスカ? ラオス ヨ』

 それで、聖樹は異形の戦士の呼び名を知る。

 そっかぁ‥‥この異形の戦士の名前って、ラオスって言うのかぁ‥‥‥‥

 『アト 七日ホドデ着キマス 飛ベレバ モウ少シ早イノデスガ
 私ニハ 残念ナガラ 羽根ガ有リマセン

 麒麟種ナラバ 大地ヲ駆ケル脚モ早ク
 中空ヲ 力強ク飛翔スル羽根ヲ待チマスガ
 何分目立ツノデ使エマセン』

 ラオスは至極残念そうに、自分に空を飛翔するための翼がないことと、その代わりとなる麒麟種を使えないことを、腕に抱くロン・パルディーアに告ける。
 ロン・パルディーアは、穏やかな空間と大切な者を失ったことに悲愴に叫ぶ。

 『タシカニ 麒麟種ハ 美シイカラ 容姿デ目立ツモノネ
 特ニ麒麟種ノ鵬鳳虎ハ 一際綺麗デ 感合シタ飼イ主ニ柔順デ
 トテモ大人シイ種族 ‥‥‥‥デモ アノ子達モ 
 ミナ死ンデシマッタワ 私達ヲ護ルタメニ‥‥‥‥』

 聖樹は、ロン・パルディーアが言う、麒麟種という言葉に興味を惹かれる。

 この女性(ひと)が言う、麒麟種って‥‥‥‥
 あの‥ビールの絵柄に描かれているのと似たような姿なのかなぁ‥‥‥

 ‥‥伝説っつーか‥‥龍が地上に降りている時の姿だっけ?
 ここのは、どんな姿なのだろう? 美しいって言っていたし‥‥‥‥
 鵬鳳虎って? 漢字に頭ン中に変換された文字から考えると‥‥‥‥
 
 聖樹は、今の状況も忘れて、その姿を想像するのだった。



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