72 / 183
0071★ 名の呪縛は?
しおりを挟む微睡みが一切ない意識の覚醒(かくせい)に、蒼珠は瞬きを繰り返した。
それもそのはずで、制約の空白地帯に着いた朱螺が、名による呪縛で、深い漆黒の夢も見ないような眠りに沈めた蒼珠の意識を、そこから引きずり出したからである。
えっとぉ‥‥なんだろう? 凄く柔らかい感触‥‥‥
背中に当たってるのって、毛布みたいなモノかな?
それより、今度はどこだ?
うぅ~‥‥やっぱり‥‥全裸のままなわけね
‥‥って、ことは‥ここって、希望通り、朱螺の側かな?
疑問に思った蒼珠は、ムクリと予備動作なく上半身を起こす。
目覚めて直ぐに上半身を起こした蒼珠に、呪縛で意識を深い眠りから目覚めさせた朱螺が柔らかく声をかける。
『目覚めたか? 蒼珠 意識が完全に目覚めているなら‥‥‥
私の名を言ってみろ』
直ぐ側で、自分に話しかけて来た朱螺の声に、蒼珠はホッとする。
そして、蒼珠は意識が堕ちる前に願った通り、再び朱螺の側で目覚めたことに感謝した。
良かったぁ~‥‥やっぱり‥朱螺の側だぁ~‥‥‥
マジで、どっちにも堕ちなくて良かったなぁ~‥‥‥ホッとする
寝起き一番に、朱螺の優しい顔って、すっごく得した気分になるな
朱螺の姿を見て首を傾けた蒼珠は、朱螺が求めた通りに答える。
「朱螺ぁ~‥‥‥そのぉ~‥‥俺って、どれくらい寝てた?」
一番気になったことを口にする蒼珠に、朱螺が微笑(わら)う。
『2刻と少しかな? ‥‥たぶん そんなモンだろう
‥‥良く眠れたか?』
その質問に、蒼珠は素直に頷く。
ふぅ~ん‥‥2刻‥ね‥たしか‥‥1刻で30分‥だっけ?
つーと‥1時間くらいか‥‥‥
「うん‥すっごく、良く寝れた」
朱螺が与えた、名による呪縛での睡眠は、悪夢すら見ない穏やかなモノだったので、蒼珠は気分良く目覚めることが出来たのでなんのこだわりもない。
その様子に、朱螺は数瞬迷ったが、蒼珠に自分が名による呪縛を与えたことを告ける。
『蒼珠‥‥私は お前に 名の呪縛を行使した‥‥‥‥
今の気分はどうだ?』
‥‥名による呪縛ねぇ‥‥‥別に、なんともないけどぉ‥‥‥‥
朱螺は、なにが言いたいのかなぁ?
蒼珠は、朱螺の質問に、正確には、その意味が理解(わか)らず、困惑して応えない。
そんな蒼珠の様子に、朱螺はもう一度、明確に《力》を加えて名を呼び、蒼珠に問う。
『蒼珠 答えろ どんな気分だ』
朱螺に名を呼ばれた瞬間、たしかに蒼珠は自分が見えない何かにからめ捕られるのを感じた。
が、ソレを行使している相手は朱螺なので、恐怖自体は少しも感じていなかった。
ただ、名を呼ばれた瞬間に、なにかが纏わり付いた感じがしたので、少し嫌なモノを感じただけであった。
「‥‥答えろって言ったって‥‥‥なんて言って良いか、判らないよ
いや‥たしかに‥‥ぅん~‥朱螺に呼ばれた瞬間に‥‥‥‥
こう‥‥‥なにか躯に纏わり付いたみたいで不快だけど‥‥‥
そうだなぁ‥‥‥‥ん~と‥そう、ちょうど無防備に歩いてて‥‥‥
クモの巣に引っ掛かったような程度の不快感かな?」
小首を傾けての答えに、朱螺は微苦笑して脱力する。
朱螺なりに、蒼珠には理解(わか)らないところで、緊張していたらしい。
「なにか、意味が有るのか?」
疑問顔で問う蒼珠に、朱螺は喉で嗤う。
〔‥‥‥‥ふっ‥‥‥‥私の とりこし苦労か‥‥‥‥
本当に 蒼珠には驚かされるな‥‥‥‥くっくくくくく‥‥‥‥〕
朱螺は、肩を竦めて言う。
『そうだったな お前は この世界の人族じゃなかった
本来 名が持つ呪縛の力も弱まるか‥‥‥クッククク‥‥‥
これは良い‥これなら安心して 何度でも お前の名を呼べる』
朱螺の言葉に、蒼珠はもう一度首を傾けてから辺りを見回すが‥‥‥‥。
「すげぇ~‥‥これって、もしかして、砂塵?
‥‥でも、どうしてここだけ無風なんだ?」
自分達を中心にして、半径三メートルほどの空間には、微風すら吹いていないことを素肌で感じて、蒼珠は小首を傾げる。
蒼珠は、疑問に思って上を向いて見ると、上も三メートルほどの高さから上は、物凄いスピードで砂塵が舞っていた。
ちょうど、強化ガラスで出来た調理ボールを、カパッと大地にかぶせているような状態だったりする。
呆然としている蒼珠に、朱螺は喉を震わせる。
『ただの砂塵ではない ‥砂嵐の方だ‥‥‥
クッククク‥‥なにを呆然としている? ‥ん?
‥‥ああ‥これか? ‥‥‥これは《結界》というモノだ
ある程度《魔力》有る者なら容易く張れる障壁の一種だ』
ふぅ~ん‥‥‥これが‥‥《結界》かぁ‥‥
言われて見れば、たしかに《結界》なんだろうなぁ‥‥‥
よく小説や漫画で出て来るモノと変わらないよなぁ‥‥‥‥
そう言えば、最近見たテレビアニメで有ったなぁ‥‥‥‥
敵の攻撃を防護するために《結界》を張るシーンが‥‥‥
よく覚えてないけど‥‥‥アレも、例に漏れず剣と魔法で‥‥‥‥
たしか‥‥‥『幻の神獣を求めて‥‥‥‥』とかいう
恥ずかしいタイトルと内容だったような気がする‥‥‥けど‥‥‥
コレって、触れるモノなのかなぁ?
上と前後左右をひと通り観察した蒼珠は、首を傾げて聞く。
「なぁ~‥‥‥この《結界》って、直接手で触れるモノなのかぁ?」
蒼珠の素朴な質問に、朱螺はクックッと、さもおかしそうに喉を震わせて嗤った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
186
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる