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0089★《生命石》と《魂魄石》

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 知らない単語に、蒼珠は朱螺に聞く。
                                    
  「《生命石》? 《魂魄石》?
 ‥‥って、なに? 朱螺」

 顔を上げた蒼珠の視線が、朱螺の双眸と絡まる。
 蒼珠のもっともそぼくな質問に、朱螺は肩を竦めてあっさりと言う。

 『あのサンドワームを 結晶化させて
 《生命力》を抽出したモノのことだ』

 「ふ~ん‥‥じゃぁ‥《魂魄石》は?」

 『《生命石》を 凝縮したモノかな

 まず最初に 結晶化したサンドワームから
 《生命石》を精製し 更に《生命石》精製し続け

 錬成(れんせい)すると《魂魄石》となるんだ
 特に《魂魄石》は とても貴重なモノだ』

 「そんなに貴重なモノなんだ」

 『ああ もちろん とても貴重なモノだぞ
 あれだけ 超巨大なサンドワームだから
 《魂魄石》が出来たんで そうでなければ‥‥‥』

 「なければ?」

 『幾つモノ《生命石》をかき集めなければならない
 その上で 練り合わせるとなると 純度が落ちるんだ

 純度の高い《魂魄石》は《魔石》並みに役に立つんだ
 お前の耳朶にも着けた‥‥‥‥』

 そう言いながら、蒼珠の《魂魄石》を装着させた、耳朶を愛しげに指先で撫でる。

 「これが《魂魄石》なの?」

 『そう 《生命力》を練り《生命石》へと変換し
 究極まで濃縮させると この《魂魄石》となる

 これは お前の身の護りになっても 
 負担にはならないだろうからな』

 朱螺の説明に、蒼珠はちょっと考えてから聞く。

 「この《魂魄石》が《魔石》並み‥‥‥‥
 だったら、いっぱい《魂魄石》があれば、朱螺の役に立つ?」

 蒼珠の言葉に、朱螺は微笑む。
 奪われた《魔石》のことを心配してくれていることに‥‥‥。

 『あぁ‥‥そうだな 今はそれよりも
 先ほどのお前の疑問に答えよう

 知っておいて損はないだろうからな

 まず《魔石》や《雌珠》は《魔力》の塊が結晶化し
 物質化したモノと思ってくれれば良い

 基本的には《魔力》を抽出し 自分の《魔力》として
 使用することが出来る

 これは《生命石》や《魂魄石》も 同様だが‥‥‥‥
 《魔石》には この2つにはない特徴が 更に有るのだ

 それは 奪った《魔石》を 自分の《魔力》で
 支配することが出来るのだ

 そして、支配することで 《魔石》の本来の持ち主を
 呪縛して隷属させることが出来るというモノだ

 ようするに《魔石》を奪われた者は《魔石》を支配した者の
 下僕に成り下がるわけだ』

 朱螺の説明に、蒼珠はその意味をきちんと理解し、眉をひそめる。

 「はぁ~‥そういうモンなんだぁ‥‥それじゃ
 《魔石》って、すンごく大事なモノなんじゃん‥‥」

 心配そうな表情で自分を見詰める蒼珠の瞳を見下ろし、朱螺は悔恨の呟きをこぼれ落とす。

 『あぁ‥‥‥《魔石》を むざむざと
 躯から奪われたりするのは 最大の恥辱だ‥‥』

 朱螺の苦渋に満ちた声音に、蒼珠は内心で慌てる。
 が、危機感と同時に、むくむくと好奇心が湧き上がる。

 うわぁ~‥俺ってば、マジでヤバイこと聞いちゃった?
 でも、ヤバイこと聞いちゃったついでだ‥‥‥

 もう少し《魔石》のこと、ちゃんと聞いておこう‥‥
 やっぱ、こういうことは知っていた方が良いと思うし‥‥‥‥

 「あ‥あのさぁ‥‥朱螺ぁ‥‥‥その‥朱螺の
 《魔石》ってモンを見たいって言ったら怒る?」

 蒼珠のおずおずとした言葉に、朱螺は眉をひそめる。

 『どうしてだ?』

 自分を見据える朱螺の双眸に、警戒色のようにチラチラと緋色が混じりはじめる。
 が、好奇心がおさまらない蒼珠は、危険を感じつつも言いつのる。

 「いや‥だって‥《魔石》って見たことないし‥‥
 綺麗なモノなのかなぁ~って思ったんだ‥‥

 《魔石》って、宝石みたいなモンなのかな?
 ‥‥どんなモノを《魔石》って言うのか
 単純に、どんなモノか知りたかったんだ‥‥‥」

 朱螺の綺麗な双眸に一時見惚れた蒼珠は、ハッとして朱螺の顔色を伺う。

 「やっぱり‥‥‥ダメ?」

 シュンとうなだれる蒼珠に、朱螺はフッと微笑(わら)う。

 『まったく しょうのないヤツだな
  良いだろう 見せてやる』

 朱螺からの色よい言葉に、蒼珠はガバッと顔を上げる。

 「ほんとうっ」

 あまりにも嬉しそうに言う蒼珠に、朱螺は喉でクツクツと嗤う。

 『お前は 面白いな 蒼珠』

 からかいを含んだ朱螺の言葉も気にならない蒼珠は、朱螺に早く見せてくれとせがむ。

 「じゃぁ‥‥見せて‥見せて‥‥《魔石》って
 どんな宝石なんだ?」

 わくわくと、顔に大きく書かれているような表情の蒼珠に、朱螺は再びクツクツと嗤う。





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