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0178★それぞれの事情2 

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 聖子の指示に従って、灰茨が病室から出て行く後ろ姿を、聖樹は何とはなしに見送った。
 それから、おもむろにベットの上に居る自分に向かって並んで座る母・悠美と父・聖へと視線を向ける。
 その間に、聖子は用意された茶器セットを手に取っていた。

 「お父様、珈琲でよろしくて?
 聖樹お兄様のお母様は、珈琲? 紅茶?
 緑茶もありますが?」

 聖子に声を掛けられた聖は黙って頷く。
 悠美の方は、一つ溜め息を吐いて答える。

 「ああ、私も珈琲で良いわ
 ミルクたっぷりでお願い」

 そう言ってから、悠美はにっこり笑って言う。

 「いいわぁ~お母様って響き…
 女の子も欲しかったのよねぇ~

 聖樹ってば、なかなか女の子を
 家に連れて来てくれないんだもの」

 そんな悠美に、聖樹はくすっと笑って、茶目っ気を出してサラリと何の躊躇(ちゅうちょ)もなく言う。

 「ああ…だったら…
 父さんに責任とってもらって
 結婚すれば良いよ

 そしたら、この可愛い聖子は
 すぐに母さんの娘だよ」

 聖樹の言葉を聞いた聖は、とても苦悩に満ちた表情になる。

 〔…へっ…えっっせっ…せいじゅぅ~…
 お前は、何を言っているんだぁ~

 自分がどういう経緯で出来たか
 知っているだろぉ~………

 女性にとって…まして、初心な生娘に
 到底許せないようなことしたんだぞ

 いや、確かに彼女は、あの頃も
 今も、私の好みだけど…じゃないっ

 この私と結婚なんて………
 それが例え話でも………えっ…〕

 きっととんでもないことを言われて気分を悪くしただろうと、聖はそっと隣りへと視線を向ける。

 〔…えっとぉ~…笑っている?〕

 聖樹にそう言われた悠美はというと、隣りで脂汗を浮かべて自分の様子をそっと窺っている聖に気づくことなく、こちらも悪乗りでサラリと答える。

 「あら、それは良い考えね、聖樹
 そしたら、すぐに可愛い聖子さんが
 私の娘になるのね」

 元来、悠美も茶目っ気のある明るい性格なので、キャラキャラと笑って、そう楽しそうに答える。
 そんな悠美に、聖は困ったような表情になる。
 当然、話題の主となってしまった聖子も微妙な表情になっていた。

 〔…えっとぉ…なんて答えて良いのか…
 流石、聖樹お兄様のお母様だけありますわ

 あんな酷いなんて言葉では言い表せない
 おぞましいことをされても
 ケロッとしているお兄様のお母様ね

 この女性(ひと)が私のお母様だったら
 本当に、どれだけ幸せになれるだろう

 ああ、聖樹お兄様を産んだお母様を
 私もお母様って呼びたいわ〕

 そんな聖子の心情を知らないまま、悠美がにっこりと笑って言う。

 「ねっ…私の娘にならない?」

 悠美が楽しそうにそう言うのを、聖はまぶしいモノを見るように、普段はキツイ双眸を細めてやわらかく見詰める。

 〔彼女は…悠美さんは…なんて…
 おおらかで優しい女性なんだろう

 同じ音を持つ…はっ…もしかして
 父上は、間違えたのか?

 いや、占い自体は当たっていた
 ただ、該当人物を間違えたのか

 なら…いや…許されることではない
 私が、彼女を想うことなど………〕

 聖は、過去に悠美にしたおぞましいことと、現在の末期ガンという病状の自分が、望めるモノではないと自戒する。
 そんな聖の様子に気付いた聖樹は、くすっと笑って爆弾発言をする。

 「俺、また居なくなると思うから
 母さんには、父さんや聖子に
 傍に付いていて欲しいなぁ」

 やわらかいが、意思のしっかりしている聖樹の言葉に、願望を込めた言葉を口にしていた悠美も、そうなれたらと思う聖子も、自分の想いを自戒しようとしていた聖もハッとする。

 「ちょっとぉー聖樹
 それってどういうこと?」

 「聖樹お兄様?」

 「聖樹?」

 三者三様に、聖樹へと疑問符を浮かべた表情で言う。
 そんな三人に、聖樹は肩を竦めて言う。




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 しばらくぶりの更新です。
 パソの調子がいまいちで、メインだけの更新をしていましたが、とうとうパソコンが完全ブラックアウトに…。
 挙句が、強烈なインフルエンザにダウン…いまだに体調は完全復帰には遠い。
 それでも、希望に合うパソコンがなんとか購入できたので、ぼちぼちですが、あれもこれも更新していきたいと想います。
 でも、しばらく慣れるまでは文章短めかも………頑張ります。
 更新を待っていてくれた方々、ありがとうございます。

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