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4話
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腕や足の骨折が思ったより酷かったらしく、退院には3ヶ月ほどかかった。しかし、これでも治りは早い方だったらしい。すっかり友達になった整形外科の先生に、
「若いのはいいねぇ」
と笑われてしまった。70くらいのおじいさんだったが、子供の扱いがうまいと評判の人だったらしい。俺がリハビリしんどい、行きたくないとほざいた時にもうまく励ましてその気にさせてくれた。病院で俺が最も仲良くなった人だ。
その3ヶ月の間に、俺のもとには家――いや、かつての家か――から毎日のように私物が送られてきた。施設に入れるとか言ってた割にこんな大量に送んなよ、と思ったのを覚えている。さすがに小6にもなると、それぐらいの知識は本で知っていた。全部俺に捨てさせる気かよ・・・。処分するのは病院の人たちなのに・・・。もちろん、しょうがないから全て自分で仕分け、捨ててもらった。かなりのものがゴミ行きになり、ダンボール20箱ほどあったものが4箱にまで減った。看護師さんにはかなり迷惑をかけてしまっただろう。間違いなく。すごく申し訳ない。
日が経って病院の生活に馴染んでくるにつれて、俺が家や両親のことを思い出すことはなくなっていった。最初どうしてあんなに泣いてしまったのか、と首を傾げたくなるほどに情が薄くもなった。
こんなことされたら普通憎んだり恨んだりしそうなものだが、俺はそんなこともなかった。
『赤の他人』
この意識の方が強かったからだろう。たぶん。もう知らない人だしどうでもいいや、って感じだった。
ああそうだ、大智とは病院で再会した。お互いちゃんと生きている状態で。あれから1ヶ月半くらい経ってからだ。ちょうど俺がギプスで車椅子をこぐのに慣れた頃。やっちゃいけないと厳命はされていたが、いちいちナースコール押して待つのもめんどくさかったし。時間さえわかってれば自分で検査にも行ける。そうして俺が車椅子でキコキコ検査に向かっている時、廊下ですれ違ったのだ。
「おー、篤樹じゃん! 死んだかと思ってたー!」
そう言って大爆笑してるあいつは、もとのまんまだった。いや、正確に言うともとのままではなかった。少なくとも、俺の見た目でどうのこうの言ってくることはなかった。お互いだったからかもしれない。
―――大智には、左足がなかった。
「いやー、生きてるとは聞いてたけどよ、この病院広すぎなんだよ! どっかで会うかなって思ってたけど全然会わねーし」
「俺はお前が生きてるって聞いてなかったからな、完全に死んだと思ってた」
俺が軽口で返すと、あいつは目を見張って言った。
「うっわ珍し、篤樹が冗談言ってる・・・明日ぐらい雪降るかもな・・・」
「おい」
俺があいつの車椅子を真顔でどつくと、ぎゃははははっと騒々しくあいつは笑った。病院だっての。まあ、久し振りに会ってお互いテンション上がってたのは認めるが。
「今から検査なのか?」
「あー違う違う、今終わったとこ」
「じゃあこの後暇か?」
「え、おう」
「売店でも行こうか。再会祝いに」
「ふぉぉぉぉ・・・」
さりげなく誘ったのにめちゃくちゃ驚かれている。なんでだ?
「今日何!? ミラクル!? 篤樹に何があったんだ・・・」
「色々あったぞ、悪い意味で」
俺が正直に言うとあいつは顔を引きつらせた。マジなのが伝わったのだろうか。
「おう、じゃあ後で聞くわ・・・篤樹何号室?」
「ああ、217だ」
「あー俺406。道理で会わないわけだな」
「じゃあ1階の売店の前で。その後のはそこで決めよう。たぶん10分くらいで終わるから」
「おっけ、じゃあ10分後な」
今日ばっかりは、検査が終わるのが待ち遠しかった。
「はいオッケー」
の声とともに部屋を飛び出す。そこまで速く行けないけど。車椅子だし。でも、こげる限りこいでエレベーターへ疾走した。
「はあ、はあ・・・」
「大丈夫かよ、あっはっはっはっは!」
息切らして行ったらあいつにげらげら笑われた。遅れないように頑張ったんだ、これでも。
「悪い、遅くなったな・・・はあ・・・」
「いや、全然いいけど・・・あっはっはっはっは! なんか篤樹の見たことない面が見れて幸せだわ」
「気持ち悪いな」
「あ、気のせい、いつも通りだったわ」
「おう」
「んで、何買うよ? 食事制限ねーよな?」
「ああ」
「じゃあ俺これかなー」
「俺はこれだな、一応昼ご飯出るし」
あいつが手に取ったのはハンバーガー、俺が手に取ったのは焼肉入りのおにぎりだった。
「やっぱ肉だよな!」
「おう」
「じゃあ買いに行こうぜー」
会計をすませた後、大智が真顔になって言った。
「車椅子って低いからさ、売店とかの会計不便だよな」
「そうだな、金出す時もやりにくい」
「俺、一生こうなのかな・・・」
息が止まりそうになった。大智はぽつりぽつりと続ける。
「最近、よく思うんだよな。俺らまだ小6じゃん? 中学とかなったら、部活も選び放題だったわけじゃん。もちろんあるやつに限るけどさ。でも、俺はもうそういうこと全部できないんだよな・・・」
言葉が出なかった。大智が抱えているものは、俺よりずっと重い。
「中学入ったら、篤樹とバスケしようって決めてたのによ・・・」
大智の声が涙交じりになった。俺はなすすべもなく手で顔を覆って静かに涙を流す大智を見つめているしかなかった。
しばらくして、大智が鼻をすすりながら顔から手を離した。
「悪いな、みっともないとこ見せちまって・・・」
「いや、俺こそ、悪い。お前に何もできない・・・」
無力感に苛まれて殺されそうだった。
「お前だって色々あっただろ? 俺親からお前が生きてること聞いたけど、聞いてなかったんだろ。なんかあったってことくらい、俺だって分かる。さっきあったって言ってたしな」
「今度は俺が聞く。お前の部屋エレベーターから近いか?」
「いや、むしろ反対側だ」
「じゃあ俺の部屋だな。行こう」
黙って2人で車椅子を転がす。大智の部屋に着くまで、空間は重たい沈黙に満ちていた。
「あ、景色いいな。さすが4階だ」
先に口を開いたのは俺だった。いい加減沈黙に耐えられなかったからだ。
「ああ、結構遠くまで見えるだろ? 俺地味にこの部屋気に入ってんだよなあ」
何にもなかったかのような顔で大智が笑った。俺はほっとして袋からおにぎりを取り出す。
「先、食うか。俺の話の前に」
「そうだな」
再び沈黙が俺らの間に満ちる。でもさっきより空気は重くなかった。
ありがたいことに、大智の部屋も俺と同じ個室だった。色々と話し込むには最適。
「んで? 何があったんだよ」
食い終わると同時に口を開く大智。俺まだ食ってるっての。
「ちょい待ち・・・ん。色々あったぞ。ほんとに」
「悪い意味で、な。それはさっきも聞いた。早く本題に入れ」
「せかすなよ。んー、どっから説明したらいいのやら・・・最初からいくか」
起きたら既にブラック◯ャックみたいなこの顔だったこと。腕がつってあって足も骨折していて動くのもままならなかったこと。看護師と親が揉めてて何かと思ったら死んだことにされてたこと。岬平は無事だったこと。『我が家の恥』だかなんだか忘れたけど顔について色々言われてたこと。毎日のようにダンボールが送られてきたこと。ここを退院したら施設に入らなければいけないこと・・・。
全てを事細かに説明するのに30分はかかっただろうか、いやもっとか? とにかく俺は長い時間をかけて大智に説明した。終わった後の大智は予想どおり唖然としていた。まあ誰でもこうなるだろな。
「お前大変だったんだなぁ・・・てか展開早すぎじゃね?」
「それは俺も思った。まじで親かよって思ったな」
「だろうな。お前まじで施設行くのか?」
「行くっきゃないだろうな。もう手続きしたって言ってたし」
「まじかぁ・・・じゃあ俺の家には呼べないなぁ・・・」
「呼んでくれる気あったのかよ、でもどっちみち岬平に会っちゃうからだめだろうな。岬平にわざわざ違う人の骨見せてまで死んだことにしたって言ってたし」
「つーか法律から考えてできんの? そんなこと」
「知らね。でも権力のコネは無駄にあるような人らだからな。どっかにねじ込んでどうにかしてても不思議じゃない、気はする。よく分かんねえけど」
「もはやドラマだろ・・・」
「ほんとだよな」
その後は、他愛もない話で盛り上がった。お互いに重い話を出さないよう気を使い、馬鹿な話に爆笑した。
―――事故の前の関係に戻ることができないのは、俺たち自身が一番わかっていた。
「そんじゃ、またな」
「おう」
別れは淡白なものだった。もう二度と会わないような気がしていたのは向こうも同じだっただろう。いつもふざけあっていた俺らにふさわしい別れ方だった。
退院後、俺は話の通り施設に行った。慣れないことも多く異質な環境だったが、雰囲気はいいところだった。もっとギスギスしているところかと思っていた。俺たちの代は多いらしく、同級生が5人もいた。5人が5人とも俺の顔を見ても引かないいい奴らだった。
「篤樹は俺の相棒だかんな!」
盛り上げ役で若干大智に似たところのあった海翔。
「・・・篤樹、お茶飲む?」
気配り上手で、のんびりしているようだが実はしっかり者の瑠羽。
「篤樹ー! 買い物行かない?」
おしゃれでリーダー格の陽葵。
「お前もうちょっと勉強できたらもてたんじゃね?」
天に二物も三物も与えられた天才でユーモア抜群の優吾。
「ねっむ・・・あ、篤樹や、あとでこれ教えてや」
マイペースな関西人、凛音。
大智以外で一番馬鹿な話ができたのはこいつらだっただろう。当然俺たちに大学に行くお金はなかったので、高校卒業後は6人でせまいアパートに詰めつつ懸命に働いた。最初に独立したのは瑠羽だったか。ひとり、ふたり、アパートを旅立っていった。俺は4番目だった。派遣として入った会社に能力を見初められ、正社員にならないかと誘われたのだ。今でも5人とはときどき飲む。
正直、俺は岬平の顔を半ば忘れていた。離れていた期間が長すぎて、弟だという感覚も遥か昔に置いてきてしまっていた。
―――だから、こんなところで会うとは思いもしなかった。
「若いのはいいねぇ」
と笑われてしまった。70くらいのおじいさんだったが、子供の扱いがうまいと評判の人だったらしい。俺がリハビリしんどい、行きたくないとほざいた時にもうまく励ましてその気にさせてくれた。病院で俺が最も仲良くなった人だ。
その3ヶ月の間に、俺のもとには家――いや、かつての家か――から毎日のように私物が送られてきた。施設に入れるとか言ってた割にこんな大量に送んなよ、と思ったのを覚えている。さすがに小6にもなると、それぐらいの知識は本で知っていた。全部俺に捨てさせる気かよ・・・。処分するのは病院の人たちなのに・・・。もちろん、しょうがないから全て自分で仕分け、捨ててもらった。かなりのものがゴミ行きになり、ダンボール20箱ほどあったものが4箱にまで減った。看護師さんにはかなり迷惑をかけてしまっただろう。間違いなく。すごく申し訳ない。
日が経って病院の生活に馴染んでくるにつれて、俺が家や両親のことを思い出すことはなくなっていった。最初どうしてあんなに泣いてしまったのか、と首を傾げたくなるほどに情が薄くもなった。
こんなことされたら普通憎んだり恨んだりしそうなものだが、俺はそんなこともなかった。
『赤の他人』
この意識の方が強かったからだろう。たぶん。もう知らない人だしどうでもいいや、って感じだった。
ああそうだ、大智とは病院で再会した。お互いちゃんと生きている状態で。あれから1ヶ月半くらい経ってからだ。ちょうど俺がギプスで車椅子をこぐのに慣れた頃。やっちゃいけないと厳命はされていたが、いちいちナースコール押して待つのもめんどくさかったし。時間さえわかってれば自分で検査にも行ける。そうして俺が車椅子でキコキコ検査に向かっている時、廊下ですれ違ったのだ。
「おー、篤樹じゃん! 死んだかと思ってたー!」
そう言って大爆笑してるあいつは、もとのまんまだった。いや、正確に言うともとのままではなかった。少なくとも、俺の見た目でどうのこうの言ってくることはなかった。お互いだったからかもしれない。
―――大智には、左足がなかった。
「いやー、生きてるとは聞いてたけどよ、この病院広すぎなんだよ! どっかで会うかなって思ってたけど全然会わねーし」
「俺はお前が生きてるって聞いてなかったからな、完全に死んだと思ってた」
俺が軽口で返すと、あいつは目を見張って言った。
「うっわ珍し、篤樹が冗談言ってる・・・明日ぐらい雪降るかもな・・・」
「おい」
俺があいつの車椅子を真顔でどつくと、ぎゃははははっと騒々しくあいつは笑った。病院だっての。まあ、久し振りに会ってお互いテンション上がってたのは認めるが。
「今から検査なのか?」
「あー違う違う、今終わったとこ」
「じゃあこの後暇か?」
「え、おう」
「売店でも行こうか。再会祝いに」
「ふぉぉぉぉ・・・」
さりげなく誘ったのにめちゃくちゃ驚かれている。なんでだ?
「今日何!? ミラクル!? 篤樹に何があったんだ・・・」
「色々あったぞ、悪い意味で」
俺が正直に言うとあいつは顔を引きつらせた。マジなのが伝わったのだろうか。
「おう、じゃあ後で聞くわ・・・篤樹何号室?」
「ああ、217だ」
「あー俺406。道理で会わないわけだな」
「じゃあ1階の売店の前で。その後のはそこで決めよう。たぶん10分くらいで終わるから」
「おっけ、じゃあ10分後な」
今日ばっかりは、検査が終わるのが待ち遠しかった。
「はいオッケー」
の声とともに部屋を飛び出す。そこまで速く行けないけど。車椅子だし。でも、こげる限りこいでエレベーターへ疾走した。
「はあ、はあ・・・」
「大丈夫かよ、あっはっはっはっは!」
息切らして行ったらあいつにげらげら笑われた。遅れないように頑張ったんだ、これでも。
「悪い、遅くなったな・・・はあ・・・」
「いや、全然いいけど・・・あっはっはっはっは! なんか篤樹の見たことない面が見れて幸せだわ」
「気持ち悪いな」
「あ、気のせい、いつも通りだったわ」
「おう」
「んで、何買うよ? 食事制限ねーよな?」
「ああ」
「じゃあ俺これかなー」
「俺はこれだな、一応昼ご飯出るし」
あいつが手に取ったのはハンバーガー、俺が手に取ったのは焼肉入りのおにぎりだった。
「やっぱ肉だよな!」
「おう」
「じゃあ買いに行こうぜー」
会計をすませた後、大智が真顔になって言った。
「車椅子って低いからさ、売店とかの会計不便だよな」
「そうだな、金出す時もやりにくい」
「俺、一生こうなのかな・・・」
息が止まりそうになった。大智はぽつりぽつりと続ける。
「最近、よく思うんだよな。俺らまだ小6じゃん? 中学とかなったら、部活も選び放題だったわけじゃん。もちろんあるやつに限るけどさ。でも、俺はもうそういうこと全部できないんだよな・・・」
言葉が出なかった。大智が抱えているものは、俺よりずっと重い。
「中学入ったら、篤樹とバスケしようって決めてたのによ・・・」
大智の声が涙交じりになった。俺はなすすべもなく手で顔を覆って静かに涙を流す大智を見つめているしかなかった。
しばらくして、大智が鼻をすすりながら顔から手を離した。
「悪いな、みっともないとこ見せちまって・・・」
「いや、俺こそ、悪い。お前に何もできない・・・」
無力感に苛まれて殺されそうだった。
「お前だって色々あっただろ? 俺親からお前が生きてること聞いたけど、聞いてなかったんだろ。なんかあったってことくらい、俺だって分かる。さっきあったって言ってたしな」
「今度は俺が聞く。お前の部屋エレベーターから近いか?」
「いや、むしろ反対側だ」
「じゃあ俺の部屋だな。行こう」
黙って2人で車椅子を転がす。大智の部屋に着くまで、空間は重たい沈黙に満ちていた。
「あ、景色いいな。さすが4階だ」
先に口を開いたのは俺だった。いい加減沈黙に耐えられなかったからだ。
「ああ、結構遠くまで見えるだろ? 俺地味にこの部屋気に入ってんだよなあ」
何にもなかったかのような顔で大智が笑った。俺はほっとして袋からおにぎりを取り出す。
「先、食うか。俺の話の前に」
「そうだな」
再び沈黙が俺らの間に満ちる。でもさっきより空気は重くなかった。
ありがたいことに、大智の部屋も俺と同じ個室だった。色々と話し込むには最適。
「んで? 何があったんだよ」
食い終わると同時に口を開く大智。俺まだ食ってるっての。
「ちょい待ち・・・ん。色々あったぞ。ほんとに」
「悪い意味で、な。それはさっきも聞いた。早く本題に入れ」
「せかすなよ。んー、どっから説明したらいいのやら・・・最初からいくか」
起きたら既にブラック◯ャックみたいなこの顔だったこと。腕がつってあって足も骨折していて動くのもままならなかったこと。看護師と親が揉めてて何かと思ったら死んだことにされてたこと。岬平は無事だったこと。『我が家の恥』だかなんだか忘れたけど顔について色々言われてたこと。毎日のようにダンボールが送られてきたこと。ここを退院したら施設に入らなければいけないこと・・・。
全てを事細かに説明するのに30分はかかっただろうか、いやもっとか? とにかく俺は長い時間をかけて大智に説明した。終わった後の大智は予想どおり唖然としていた。まあ誰でもこうなるだろな。
「お前大変だったんだなぁ・・・てか展開早すぎじゃね?」
「それは俺も思った。まじで親かよって思ったな」
「だろうな。お前まじで施設行くのか?」
「行くっきゃないだろうな。もう手続きしたって言ってたし」
「まじかぁ・・・じゃあ俺の家には呼べないなぁ・・・」
「呼んでくれる気あったのかよ、でもどっちみち岬平に会っちゃうからだめだろうな。岬平にわざわざ違う人の骨見せてまで死んだことにしたって言ってたし」
「つーか法律から考えてできんの? そんなこと」
「知らね。でも権力のコネは無駄にあるような人らだからな。どっかにねじ込んでどうにかしてても不思議じゃない、気はする。よく分かんねえけど」
「もはやドラマだろ・・・」
「ほんとだよな」
その後は、他愛もない話で盛り上がった。お互いに重い話を出さないよう気を使い、馬鹿な話に爆笑した。
―――事故の前の関係に戻ることができないのは、俺たち自身が一番わかっていた。
「そんじゃ、またな」
「おう」
別れは淡白なものだった。もう二度と会わないような気がしていたのは向こうも同じだっただろう。いつもふざけあっていた俺らにふさわしい別れ方だった。
退院後、俺は話の通り施設に行った。慣れないことも多く異質な環境だったが、雰囲気はいいところだった。もっとギスギスしているところかと思っていた。俺たちの代は多いらしく、同級生が5人もいた。5人が5人とも俺の顔を見ても引かないいい奴らだった。
「篤樹は俺の相棒だかんな!」
盛り上げ役で若干大智に似たところのあった海翔。
「・・・篤樹、お茶飲む?」
気配り上手で、のんびりしているようだが実はしっかり者の瑠羽。
「篤樹ー! 買い物行かない?」
おしゃれでリーダー格の陽葵。
「お前もうちょっと勉強できたらもてたんじゃね?」
天に二物も三物も与えられた天才でユーモア抜群の優吾。
「ねっむ・・・あ、篤樹や、あとでこれ教えてや」
マイペースな関西人、凛音。
大智以外で一番馬鹿な話ができたのはこいつらだっただろう。当然俺たちに大学に行くお金はなかったので、高校卒業後は6人でせまいアパートに詰めつつ懸命に働いた。最初に独立したのは瑠羽だったか。ひとり、ふたり、アパートを旅立っていった。俺は4番目だった。派遣として入った会社に能力を見初められ、正社員にならないかと誘われたのだ。今でも5人とはときどき飲む。
正直、俺は岬平の顔を半ば忘れていた。離れていた期間が長すぎて、弟だという感覚も遥か昔に置いてきてしまっていた。
―――だから、こんなところで会うとは思いもしなかった。
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