異世界転生は突然に

水晶

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 1週間前。

 僕は、死んだ。

 自転車事故だった。歩いていたら、ヤンキー達の乗った自転車が、角から飛び出して来たのだ。久しぶりの仕事の休みの日のことだった。

 2週間ぶりの、休み。先週の日曜は、急遽接待という名目の飲み会が入ってしまったため、全然ゆっくりできなかったのだ。昼間から呼び出され、大量に飲まされた。家に帰ったのは、夜の10時半。ざっと9時間、飲み屋の個室に居座っていたことになる。帰るときには、さっきまで笑顔で酒を注いでくれていた女将に、すごい目で睨まれた。しかも僕だけ。

 先週がそんなので散々だったから、今週こそはゆったりしようと、買い物ついでに僕は散歩に出た。
ちょうど晴れていて、暑くもなく寒くもなく、気持ちの良い気候だった。

 辺りを眺めながらゆっくり歩く。僕の住んでいるアパートの周辺には、案外自然が多い。道端の街路樹が、さわさわと風で揺れている。通勤途中には見れないものが、今は見れる。そう思うと、時間のゆとりにちょっとの幸せを感じた。

 時間がゆったりと過ぎていく。

 道路にも車通りはなく、風の音や鳥の声を存分に聞くことができた。呑気なハトの声。エサを奪い合うカラスの声。かすかにウグイスのような声も聞こえた。割と鳴くのがうまい。もうすっかり春だ。

 分かれ道についた。

 右へ行けばいつもの道。僕の通勤路だ。国道や県道が通っている、騒がしい街並み。ゴミゴミしていて、ビルが多い。電車の駅もあるため、騒々しいことこの上ない。

 左は右とは打って変わり、長閑な住宅街。一軒家が多く、道が狭いため、車は滅多に通らない。ここらの家は駅に近いため高く、僕には手が出なかった。自転車で駅まで3分、が売りだったらしい。

 時計を確認する。

 驚くことに、家を出てから15分ほどしか経っていなかった。

 これだけしか経っていないのか。昼までまだまだ時間はあるし、もう少しゆっくりするか。

 そう思い、僕は左の道を選んだ。

ーーーそれが、間違いの始まりだった。

 道端に咲く桜を見ながらのんびり歩く。もうすっかり、満開だ。たまに気まぐれに吹く風に、ハラハラと散っていっている木もある。桜をじっくり見れたのは何年ぶりだろうか。社会人になってからは初ではないか? 花吹雪の中、僕はささやかな幸せを噛み締めた。

 ブロック塀から、梅の木がはみ出している家があった。思わず立ち止まって、眺める。ふわっと良い香りがした。深く息を吸い込む。体の中が洗われるような気分だ。ふと思った。梅酒が飲みたい。

 ちょうど昼ご飯を調達するつもりだったし、スーパーに行ったらついでに梅酒も買おうか。夜に飲んだら良いかもしれない。花屋で、梅の木を切ったものとか置いていないかな。

 梅の木から目を放し、スーパーへ向かおうと足を向けた。

 てくてく、てくてく。

 少し疲れてきた。普段あまり歩かないからだろうか。運動不足を痛感する。

 時計を見ると、家を出てからまだ30分しか経っていない。帰りはバスで帰ろうかな。いや、せっかくだから、買おう買おうと思って買っていなかった自転車を買って、乗って帰ろうか。体力をつけられるしタダで済むし、平地だしきっと楽だろう。いいことづくめではないか。

 20分かけててくてく駅へ向かうのも、颯爽と行けるようになるかもしれない。

 そうだな、そうしよう。

 あと、米がなかったな。先に自転車を買いに行って、カゴに載せよう。梅酒は何かに包んでもらって、割れないように持って帰ろう。梅の木は・・・どうしようか、さっきの家でちょっとだけもらえませんかと掛け合ってみるかな?

 あ、風呂場の電球も買わなけりゃ。よかった、多めに金持ってきておいて。

 色々思い出しながら歩く、桜吹雪の道。日常の風景。あれが一瞬で別物に変わってしまうとは、思いもしなかった。

ーーー全然、分かっていなかった。

 てくてく、てくてく。

 この角を曲がったらすぐ、自転車屋だ。

 車体の色は何色にしようか。やっぱり無難に黒か?いやでも、青とか緑とかも良いかも。ちょっとぐらい派手にしても誰も怒らない。んー、白でも良いなぁ。すごく迷う。まあ、実際に見て見ないと分からないか。

 角にさしかかろうとした、その時だった。

 ドゴッ。

 鈍い音がした。

 ちょっとの間、判断が出来なかった。ただ、自分が空を飛んでいるような感じなのは分かった。

 そして、一拍おいた、その後。凄まじい痛みがぶつかられたらしい横腹を襲った。

「ぐっ・・・」

思わず、うめき声が漏れた。どさり、と体が地面に落ちる。

 ゴン。

 頭を、思いっきり地面に打ち付けてしまった。

 グワングワンと、激しい痛みと共に、視界が回る。

 目の前が、薄暗くなっていく。

 最期に聞いたのは、

「や、やべぇよ、この人、死んじまうじゃん!」

「救急車、救急車!」

ーーー意識が途絶えた。
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