先生、死に場所を探しています。

第1章

6話：嫉妬に身を焦がして

榊悠馬side…

最近、林田の周りをちょこまかとうろつく奴がいる。そいつは、最近転校してきた笹川という男子高生だ。
(そりゃまあ、俺よりも歳近くて話し合うのもしんねーけどさ。それに、敬語じゃないし…。)
最近の俺は、こんな感じで腹の中で煮えたぎる思いに気づかない振りをしていた。

ある日、また林田が苛められているのを目撃する。今度は、別の女達だ。俺は、助けようと走り出すが、先に笹川が助けやがった。まるで、助けるのを今か今かとまっていたかのように。
(考えすぎか？)
俺の額を妙な汗が伝う。
(ハハッ、いい大人が…。だがまあ、笹川は油断ならないな。)
俺は、林田の元から離れる。その時、林田を見ると、彼女の目はどこか寂しげだった。
(こりゃ、期待してもいいのかね？)
俺は、自分の口の端が上がっているのが分かった。
────こりゃ、期待してもいいよな？

そして、それから後日林田と笹川が2人で、笑っている場面に遭遇する。
(いつの間に、あいつら仲良くなったんだ？最初は、笹川が林田に…って感じだったのに、今は林田も…。いやいや、何俺、動揺してんの？！大人の余裕がある俺が！くっそ！もう最悪だ。林田のせいで俺は、みっともない大人に！)
俺は、頭を抱えながら、屋上に向かって小走りする。
「なんだよ、俺！くっそ！胸がキリキリする。｣
苦しい。ドロドロした黒い塊が俺の心をうねってるのが分かる。俺の身体は、どうしちまったんだ？いつもは、俺が女にこんな気持ちにさせるのに、今は俺が女にその気持ちを抱いている。
「はっ！俺は、女になったのか？」
そう言って、自分の胸を触る。
「ハハッ、ペッタンコ。」
喉仏を触る。
「ある！あるぞ！俺は、まだ男だ！」
(じゃあ、嫉妬って男も抱くものなのか。)
「俺は、今林田に寄り付き、仲良くしている笹川に嫉妬してるのか。」
(そりゃそうだよな。あいつの隣は、ずっと俺だけのものだと思ってたんだから。)

そして、俺は決意する。
「おいっ、林田…もうお前、俺のところに来るな。」
そう冷たく言い放ち、近寄ってくる林田の肩を押し、俺から遠ざからせる。
「えっ？先生？」
【どうして？】とでも言いたげな表情だ。その質問に答えてやるよ。
「お前と一緒にいるのに疲れた。(お前といると、俺はどんどんみっともない大人になっていく…)」
俺は、林田に背中を向け、歩き去ろうとすると、何かが俺の背中にぶつかる。
ドンッ
鈍い音だ。うしろを振り向くと、林田の頭が俺の背中に引っ付いている。そして、彼女の大人の俺と比べるとまだ小さい手で俺の白衣をギュッと握りしめている。

回想
『林田、お前俺に「助けて」って言わねーのな？』 
『先生は、言って欲しいんですか？』
『まあ、いい女に「助けて」って言われたら、嬉しいな。』
『じゃあ、私は駄目ですね。顔も性格も全部汚れてる。』
『別に、いいんじゃねーの？』
『え？』
『お前、いい女だよ。』
そう言うと、彼女は笑っていた。

…
顔を俺の背中に疼くめながら、彼女は悲しげな声でこう言う。
「先生ぇ、助けて！助けてよ！」
この時、彼女が何故俺に「助けて」と言ったのか分からなかった。だけど、俺はすぐに何故彼女が助けを求めたのか、知ることになる。