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嵐を呼ぶニューフェイス
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しおりを挟む勇子は、味噌汁をよそいながら洗面から聞こえてくる叫びに、少し眉をひそめた。
「全く……
また何かおかしな妄想でもしてるのかしら……」
ゆうみが突然絶叫するのは良くある事なので、勇子も何も不審に思わない。
「ん~!
今日の糠漬けも美味しく出来てるわあ!
今度はお茄子と白菜を漬けちゃいましょ~!」
勇子はキュウリをポリポリかじりご満悦で、尚も続くゆうみの黄色い叫びには気を留めもしないのだった。
ゆうみは洗面所で錯乱していた。
貴也とホテルに行き犯されそうになり、ゆうみは貴也に頭突きやら何やら攻撃をして……
そしたら、貴也になんか知らないが好きだと言われ……
その後急激に眠気を催してベッドに横になった……
そこまでしか、昨夜の記憶が無いのだ。
大体、自分はどうやって家まで帰ってきたのだろうか?
ゆうみは髪をグシャグシャに掻きむしり、地を這うような呻き声を上げた。
「うあああアアアアア……わからにゃい……
アイドンノー!
ノォ――――っ!
ギャアアアアアア」
※※
「……っ……っ……大丈夫かしら……右よし……左よし……後ろよし……前よし……足元よーし!」
ゆうみはバッグを抱えて玄関のドアを五センチ程開けて、目を細めてブツブツ呟くが、後ろから勇子に踵を軽く掃除機でつつかれ驚き絶叫した。
飛び退きながらドアを開けて勇子を振り返り抗議するように睨むが、逆に掃除機で追い立てられる。
「何をワケわかんない呪文唱えてるのよっ!ほらほら、今朝は早く行かないとなんでしょ?とっとと出なさい!」
「じゅ、呪文違うし!安全確認なのっ」
「はあ?……そんなのは、普通外でやるでしょ?」
「……家の側でも危険が潜んでるのっ!どっかに刺客が吹き矢持って隠れてるかも」
「あんたねえ……妄想が今度は別の方向へ飛んでるわけ?スパイ映画でも見たの?」
ゆうみは隣から貴也が出てこないだろうか、と様子を伺っていたのだ。
奴と出くわすのをなんとしても避けたいゆうみは、家を出るタイミングを見計らっていた。
まあ、同じ会社なので絶対に会ってしまうが――一秒でも長く奴との対面を引き伸ばしたかった。
貴也と今顔を会わせたら、どうして良いのか分からない。
昨夜のあの記憶は単なる夢なのか――はたまた現実なのか――いややっぱりリアル過ぎる夢なのか――定かでないゆうみは、不安でたまらない。
頬に触れて囁く貴也の瞳が過ると、総毛立って、叫んで全力疾走したくなる衝動に駆られる。
まあ、ゆうみが頭の中で好きなアニメの妄想を爆発させて突然の奇行に走るのは珍しくないのだが……
いくらなんでも全力疾走はしない。だが、今もしも貴也に出くわしたら間違いなく最速記録を打ち出す自信はあった。
ゆうみは張り切って掃除する勇子をちらり、と見て(私が昨夜帰ってきた時の様子とか、知ってるかな)と、尋ねたくなるが、溜め息を吐いて下を向く。
勇子は夜寝ると滅多な事では起きない。何故そんなに爆睡できるのか不思議でもあり羨ましくもある。
この母に聞いても無駄だろう――と思い、ゆうみは諦めバッグの紐を握り「行ってきます」と一歩を踏み出した。
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