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嵐を呼ぶニューフェイス

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エレベーターで下まで降りエントランスを出たゆうみは安堵の伸びをする――が、少し離れた銀杏の木の下で佇む貴也を発見し硬直する。

踵を返す間も無く貴也はゆうみに気付き、手を挙げた。ブルーのストライプのシャツに恐らくおニューの高級ブランドのネクタイを合わせてベストを着込み、腕に上着を抱えた貴也は出勤時の雑踏の中で目立っていた。

明らかに貴也の周囲の空気が違う。「主役感」が滲み出ている――とゆうみは思う。貴也がそこに居ると大概の人間は脇役になってしまう。それも見た目だけでなく口も達者だし頭脳明晰だし……




「つくづく嫌味な奴……」

「あ?なんだって?」




心の声が実際に口をついて出てしまい、いつの間にか隣に居る貴也が眉を上げた。






「ぴっきゃあああああ――っ」



ゆうみの絶叫が辺りに響き渡ると、貴也は顔をしかめて掌でゆうみの口を塞いだ。



「あほっ!何を騒いでんだお前っ!なんの妄想で感極まってシャウトしたのか知らないが、こんな往来で――!TPOってものを考えろよな」

「ふぐっふぐ!」



ゆうみは目を血走らせて目の前の貴也の端正な顔を見ながら喚くが言葉にならない。

通行人のジロジロ見る視線に貴也は舌打ちするが直ぐに隙のない好感度バッチリな笑顔になり、ゆうみの口を押さえたままで周囲に向かってお辞儀した。



「お騒がせしてすいません――!」

「ふ……んふぐっ……ふぐぐ――っ」

「どうも昨日食べたふぐ料理にあたったみたいで……苦しんでるようなんで病院に連れてきますので……皆さんも食あたりにはご注意を――☆」

「ぶくっ!びゃぶが、じょぐあだちば――っ」

「さあ――急いで連れてってやるからなっ」

「ぶぐ――っ」




貴也はニッコリ笑うとゆうみをサッっと抱き上げ颯爽と走り出した。

その様子を通りすがりの女子高生やOLが見送り、頬を染めてうっとりしながら拍手している。






「たっ……たかや――っ!降ろせ――っ降ろせっ!皆さーんっこいつの爽やかそうな顔に騙されちゃいけませ――んっ
こいつは言葉を覚えたての幼女からおばーちゃんまでを手玉に取る女たらしの――っ」



じたばたしながら喚くが、いつの間にか貴也はタクシーを捕まえて、ゆうみは抱き抱えられたままで車内へ押し込められる。

窓にほっぺを押し付けてゆうみは外へ向かって「だーすげ――で――ひとさらい――!」と声を限りに叫んだ。

顔をひきつらせてバックミラー越しにゆうみを見る運転手に貴也はにこやかに言う。



「すいません……ちょっと痴話喧嘩中で……マスダジムまで乗せてって下さい」



タクシーが走り出すと貴也はゆうみを無理矢理正面に向かせて凍る様な眼差しで見て、その迫力にゆうみは震え上がった。



「おまえなあ……俺が一体何をしたって?ああっ?」

「ひいっ」

「ひいっ☆じゃあねーよ!あんな往来でフツー幼馴染みを変質者よばわりするかっ」



貴也はゆうみの頬を摘まんでビーと引っ張った。



「いいいいいだい――っ」

「痛いか痛いか!その痛みはなあ、お前に心無い仕打ちをされたこの可哀想な貴也様の胸の痛みだ――っ」






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