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君は僕の物だろ?by玉子

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ゆうみは、取り憑かれた様にその呪文を繰り返す。


一度口に出した瞬間から、止まらないのだ。


淀みなくスラスラと紡ぎ出されるその呪文を、長い間忘れていたのが嘘の様だった。



気が付けば、玉子はゆうみから離れ頭と股間を押さえのたうち回っていた。



「……なんばんだんてぃーら
あんばんだんてぃーら

お前が玉子なら私は女王……


玉子よりも女王様が偉いのだ……


玉子よりも女王様……


私は女王……私は女王……女王さまの言うことをお聞き……


玉子は女王様の……ゆうみ様の言うことを聞くのだ……」



「う……ぐうううっ」



玉子は、股間を両手で押さえたままベッドから転げ落ち、床に寝ていた貴也に被さる形になった。


貴也は、まだスヤスヤ眠っている。



貴也の股間に頭突きした時の奴の悶絶ぶりよりも更に上を行くパフォーマンスで玉子は悶え苦しんでいた。


眠る貴也の頭を八つ当たりの如くバシバシ殴りながら、時折身体を大きく震わせ呻くのだ。


はっきり言えば、優雅さの欠片もない。




「ぐあ……
うがっ……
ゆ……ゆうみ……っ
そ……の呪文を……
ぐはあっ……」









――げつんばんな

げつんばんな

玉子は女王に忠誠を誓う……

玉子は女王に忠誠を……


女王のものは女王のもの……


玉子のものも女王のもの……」



玉子は、真っ青になり何故か倒れている貴也の胸に顔を埋めて叫んだ。



「ゆっ……ゆうみ――!
止め……止めてくれっ!……ぐああっ……
君は……僕の物……だろ?
ぐあ――っ」



ゆうみは、ベッドから身体を起こし脱がされた服を一枚一枚身に付けて行きながら、床に転がる玉子を冷たく眺めていた。


自分が、王子様に対して――いや玉子――ややこしいな……
玉子に抱いていた憧れやらは、一体何だったのだろうか……


どんな超絶美形でも、股間にぶら下がっている物は誰でも同じ物なのに。



「そう、所詮、玉子もパパとおんなじよ……」



ゆうみは、パンプスを履くと、転がっている玉子の側に屈んだ。










玉子は、救いを求めるかの様にゆうみに右手を差し出すが、ゆうみはひと睨みして鼻で笑った。



「――そっか、この呪文で玉子を制御出来るわけね……
良いこと思い出したわ~!ふっふふ」



「ゆっ……!」



玉子は、貴也の上に覆い被さったままで情けなく苦しみ悶えている。



ゆうみは、時計を見て玉子に命令口調で言った。



「時間を動かしなさいっ!
今日は忙しいのよ?
これ以上玉子の遊びに付き合っていられないし!」


「ゆうみ……
ぼ、僕は、君に会いに……」



「――はああ?」




ゆうみは嘲笑した。


――何が「君に会いに来た」だ。大体、会いに来るならもっと早く来やがれってんだ。そう……私が最も悩んだ暗黒の高校時代……あの頃なんて最悪だったわよ……そうよ、むしろ中学よりもキツかったんだから!……会いに来るならなんであの時来ないのよっ!
自分の都合の良い時に現れて……私の純潔をかっさらおうなんて――虫がいいにも程があるっつーの!



「私を本当に大事に思うなら、その態度から直しやがれ――!
いいっ?
私は、誰の物でもないの――!
私は、私自身の物よ!
分かったか――このトンチンカン玉子――!」



ゆうみが玉子の耳を掴み思い切り叫ぶと、玉子は白眼を剥いて気を失い、そして時計は再び秒針を刻み始めた。



「さあて……
とにかく、お仕事に戻ろう!」



ゆうみは、どこか晴れ晴れした表情で医務室のドアを閉めた。



中から、半裸の玉子に覆い被さられて驚き絶叫しているであろう、その悲痛な貴也の声が聞こえてきたが、ゆうみは知らぬ振りで乱れた髪を整えながら口笛を吹き、思い出した様に呟いた。



「……今日のランチは何を食べようかな~」



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