eyes to me~私を見て~second――愛は無敵――

ペコリーヌ☆パフェ

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リトルプリンセスとプリンスの憂い①

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 大股でドスドスと足を踏み鳴らし、綾波と居る時には決してしないガサツな歩き方で美名はフロントに向かった。それだけ猛烈に、腹を立てていたのだ。




(――もう、頭に来た。大体、ウエディングの仕事をしてる人が何故、カップルが不幸になるに違いない、みたいな事を言うのよ!初対面の時にいきなりキスをして来たのも有り得ないし!
ひょっとしたらあれは夢か、幻覚?て思ったけど、間違いなく彼がした事よねっ!
何なの?
何なの?
何を考えて、あんな事を?
今だって私に何かしようとしたし……あ、あれじゃあ、只の痴漢じゃないの――!
抗議して、ここで式をするのを取り止めにしてやろうかしら!)




 鼻息荒く、フロントのベルを"パアン!"と掌で押したまでは良かったが、強く力を込めすぎて激痛が走り思わず叫ぶ。



「い……いた――いっ」







 すると、奥のスタッフルームから柳が血相を変えて飛んで来た。



「灰吹様っ!どうされましたか?」


「い……たた……な、何でもありませ……」



 美名は、手を押さえその場にうずくまり引きつる笑顔で取り繕うが、本来の自分の目的を思い出し、痛みを堪え立ち上がりキッと唇を噛む。



「日比野チーフとお話は済みましたか……?」



 柳が首を傾げて訊ねると、美名は大きく頷いた。



「――ハイッ!済みました済みました――!」


「日比野チーフは……お優しいから先程の事は何も気にしていないと思いますが……」


「そうですねっ!日比野さんはお優しくてムカつき――
……はああああっ?お優しいっ!?」



 美名が目を剥くのをよそに、柳は両手を胸の前で組み頬を染めてうっとりしている。



「日比野チーフは、スタッフ達の憧れで御手本なんです……大きな仕事から雑務に至るまで、完璧にこなすばかりか、スタッフ一人一人をちゃんと見ていてくれて……」


「う……へ……ほ~……そ、そうなんですね……」



 美名は、日比野の苦情を言うつもりが出鼻をくじかれてしまい、モゴモゴと口ごもった。





「それに日比野チーフは、お客様一組ひと組に寄り添って、最高のウエディングを作ります……私も、いつかチーフのようなプランナーになって……」


 柳はそこまで言い掛けてハッと我にかえり、美名に頭を下げた。



「すいません……!私、ついペラペラと……」


「いえ……いいんです……」


 
 柳の日比野への心酔ぶりに、美名はすっかり毒気を抜かれてしまった。

 そこではた、と桃子の事が心配になってきた。

 三広と喧嘩をし、ホテルから飛び出して一人で出ていってしまった桃子。




(一体何があったのかさっぱり分からないけど、あの子がそれほどまでに感情的になるなんて……)


 美名は、自分の怒りにばかりとらわれて、静岡から来てくれた大事な妹の心配をすっかり忘れていた事への罪悪感に、思わず頭を抱えて溜め息を吐いた。



「ああ……しまったなあ……」





「灰吹様……?」


 その溜め息を聞きつけ、柳は心配そうな瞳を美名に向ける。


「あ……っ……お忙しい処をすいませんでした……柳さん、頑張って下さいね?ほほほ……」



 取って付けた笑いを付け加え、顔をひきつらせて柳から背を向け、美名は部屋へ戻ろうとエレベーターへ向かった。



「ありがとうございます!!」


 
 柳は深々と美名の後ろ姿に礼をするが、頭を上げると首を傾げ呟いた。



「あれ……結局、灰吹様のご用って何だったのかしら?」




※※


 部屋のドアを開け、また長い溜め息が出てしまう。


「はあ――っ」



 靴を脱ぎながら半ばヤケ気味に放ったそれはもはや溜め息というレベルでは無かった。

 ホテルのスゥイートは、独りで過ごすのにはいささか広すぎる。

 白いソファに腰を下ろして、綾波が贈ってくれた限定のバニっぴー人形を胸に抱いて独り言を呟いた。



「……桃子に……キャラメイトでお土産を沢山買ってあげるつもりだったのに……」



 美名は、スマホを出して桃子の番号にかけてみたが、留守番電話サービスの機械的なアナウンスが聞こえてきて、失望と共にスマホの画面を指で弾いた。


「まあ……子供じゃないし……ちゃんと無事に帰れると思うけどさ……」



 次は綾波にかけてみるが、同じように留守番電話になっていた。



「ええ――っ……」



 がっくりと肩を落とし彼に言われて着た可愛くてセクシーな自分の黒いドレスの布を指で摘まんだ。



「つまんない……」


 
 思わず出てしまった言葉が、更に自分を落ち込ませる。






「剛さん……何時に戻るのかなあ……」


 彼と愛し合ったベッドを見やり、身体の奥が軽く疼くのを感じたが、頬を赤らめる。



「……沢山したのに……私ったらこれじゃあ淫乱みたいじゃない……」



 美名は、暇なときに読もうと思って持ってきたベストセラーの小説の文庫本をバッグから出して読もうとするが、内容がさっぱり頭に入ってこない。

 日比野への疑念や苛立ち、そして桃子の心配、剛の不在の寂しさが交互に自分を苛む。

 こんな風に物思いに沈むのは随分と久しぶりだった。

 綾波と出会い、彼に恋して、プリキーとしてデビューして……

 目まぐるしくキラキラと輝いていた日々はついこの間の事なのに、こうしていると遠い昔の出来事に思えてくる。

 夢に見ていた大好きな人との結婚。

 それが目の前まで迫り叶おうとしているのに。

 何故自分は今こんなにも戸惑って寂しいのだろう。

 ほんの些細な事で……剛が少しの間不在なだけで、こんなに不確かに心が揺れてしまうなんて。





「あ――っ!!もう!!」


 美名は、キレ気味に叫び本とバニッぴーをソファに乱暴に放り、髪をくしゃくしゃと指で乱す。



「よし――っ!!ホテルの中にアミューズメントコーナーがあったわよね!!どうせ剛さんもいつ帰るか分かんないし……ちょっと遊んでこようっと!!」



 バッグを持ち「恋するcherry soda」を口ずさみながら、美名は部屋から出ていった。


 部屋を立ち去った直後、ソファに置きっぱなしのスマホが綾波からの着信で震えていた事を、美名は知るよしも無かった。



※※






「……風呂でも入ってるのかな」



 綾波は立ち寄ったサービスエリアの駐車場で車のボンネットに軽く寄りかかり、鳴らしていたスマホを切って助手席をチラリと見る。

 三広がサラサラなマッシュの髪を両手でクシャクシャにかき乱して低く唸っていた。

 やれやれと肩を竦めて運転席に乗り込み、頭を軽く叩くが三広は無言だ。



「おいおい……いつまでそんな情けない面をしてるつもりだ……明日は念願の東北大作戦に出るんだろ?恋人と会って鋭気を養う処か魂を抜かれて来たな、って祐樹の奴にどやされるぞ」

 

 東北大作戦、とは、クレッシェンドメンバーが一度は出たいと切望していた、ミュージシャン憧れのロックフェスだ。

 クレッシェンドは初の出場でしかもトップバッターを飾る。

 

――三広も相当気合いを入れていたはずなのだが、桃子とのいさかいでここまで落ち込むとは……



 綾波は小さく溜め息を吐いて、静かに語りかけた。



「野暮を承知で聞くが……何があった」




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