eyes to me~私を見て~second――愛は無敵――

ペコリーヌ☆パフェ

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リトルプリンセスとプリンスの憂い②

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 三広は僅かに顔を上げ、口を開きかけたが再び固く結ばれ、座席に体育座りの体勢で膝に突っ伏す。


「……黙秘権を行使していいかな……綾ぢゃん……」

「認めん」

「ぐっ……で……出来れば話したくない……」

「ダメだ。洗いざらいぶちまけろ。本当なら二人の間の事には他人が介入するべきじゃないが、明日大事なステージを控えているのにそんなグッタグタじゃあ他のメンバーの士気に関わる……それにお前らを見に駆け付けるファン達にも失礼だ。ファンは敏感に自分達の好きなミュージシャンの精神状態を見抜くからな……それに半端なライヴをして他の奴等に舐められたいのか?あっ?」

「――っ……お……俺は、ミュージシャンだけど、生身の人間だよ!そんな風に理想のミュージシャンたるなんとか、って説教されたって」

「いくらでも説教してやるさ。今お前に物を言えるのはこの俺だけだからな」



 綾波は眼鏡を外すと、突っ伏す三広を無理矢理起こし、胸ぐらを掴む。




 弱気な瞳の底には綾波へ対する甘えの色が僅かに沈んでいる。三広はかつて綾波に身も心もさらけ出していたのだ。その頃の感情が甦ったのだろうか。

 綾波もまたそんな彼の甘えや依頼心を感じ取り、ほんの少しの苛立ちを覚えるが、美名に出会ってから封印していた三広との肉欲の記憶が生々しく過り、不意に身体が熱を持つ。

 三広はそれを見抜いたかの様に微かに口の端を上げ、シャツの胸元を掴む綾波の長い指につつ、と触れた。

 その瞬間綾波は総毛立ち、三広から目を逸らそうとするが、三広の細い両腕が頭を掴みグイと引き寄せて二人の額と額がぶつかる。

 唇が触れ合う一歩手前で視線を絡ませ合い、三広の指が綾波の背中を薄いシャツの上からなぞると、綾波もいつしか彼の首筋に吸い付いていた。




 三広の胸がビクンと大きく上下し、途端に熱い吐息が生まれて綾波の耳朶を悩ましく擽る。

 綾波は彼の細い首に突き出ている喉仏に舌を這わせながら助手席のレバーに手を掛けて彼の身体を椅子ごと倒し、覆い被さる。

 初夏の夕日の強い陽射しがフロントガラスから入り込み綾波の背中を照らし、それは彼の不意に点された不条理な欲情に油を注ぐかのようだった。

 三広の指が綾波のズボンのベルトに手を掛け、外そうとしていた。

 綾波は三広のうなじに唇を這わせ、呻くように言った。



「……本気か……?」

「お……俺はやっぱり……普通に女の子を愛するなんて無理なんだ……」



 三広の声が震えている。





「ふうん……随分と諦めるのが早いじゃないか……」

「桃ちゃんを引っ張って行けるような強い男になんて……なれる自信ないよ……っ」

「だから……また俺にヤられるのか?」

「……」



 三広はベルトを外そうとする手を止め、虚ろな目を向けた。

 その時、不意に綾波の脳裏に美名の泣き顔が浮かぶ。

 

――そうだ……美名は俺の前でも、俺が居ないところでも散々泣いた……もう泣かさない、と固く心に誓ったのは俺だ……

俺が今守るのは美名しかいない……もう……二度とあんな顔をさせてはならない――







 
 綾波は三広のサラサラな髪を長い指ですいていたが、突然その小さな頭をガシッと掴むと、大きく口を開けてがぶりと噛みついた。

 

「いっ――!」



 綾波は、目を剥く三広に額を付けたままでニヤリと笑い額を思いきりぶつけると、唐突に彼を離して運転席に座り直し、乱れたシャツを整えた。



「い、いだだ、頭がジンジンするしおでこがズキズキするし……」



 噛まれた頭と額を交互に擦りながら三広は涙目だった。

 綾波は眼鏡を外してクロスで拭きながら事も無げに言う。



「そりゃそうだろ。噛み付かれてぶつけられたんだからな。痛くしてやったんだから痛いのは当たり前だ」





「ひで――よ綾ちゃん!自分は美名ちゃんと幸せだからって――」

「お――そうだな幸せだな~幸せ過ぎてホテルの部屋の中で竜巻が起こりそうな勢いだぞ」

「なんだよそれ~」



 真顔で言う綾波に三広はクスリと笑うが、直ぐに真顔になって頭を垂れた。



「ごめん……綾ちゃん……俺……綾ちゃんに甘えてばっかりで……しっかりと桃ちゃんを捕まえてなきゃならないのに」

「まあまあ、本気で女に惚れて本気で向き合えば色々な事があるさ……」



 綾波は三広の綺麗なマッシュヘアーを指で一掴みし軽く引っ張り、頭をコツンと叩いた。

 素直な彼が微笑ましくて優しい目を向けるが、三広の言う「捕まえる」というワードが引っ掛かった。



 


「なあ……マジで何があった」

「……」



 口をつぐみ綾波から目を逸らす三広だが、綾波が彼の顎を掴んで無理矢理正面を向かせ再び訊ねる。



「三広」

「……恥ずかしくて言えないよ」

「あ?」

「きっと……綾ちゃん……俺を軽蔑する」

「阿呆。俺がそんな風にお前を――」



 綾波の言葉を遮る様に、三広は彼の唇に指をあてて首を振ると、顔を歪ませた。



「いつか話すよ……でも今はまだ言えない……俺が言う勇気が持てないんだ」

「三広……?」

「さ~て!なんかスゲー腹へった――!綾ちゃん、ここのサービスエリア名物『将軍ラーメン』食べようよ~!」



 三広は重々しい空気を振り払うように、ワントーン高い声を出してシートから身体を起こしドアを開け、伸びをひとつして足早に行ってしまう。



「おいおい……待てって」



 綾波も車から降りてキーをロックし、三広を追い掛けた。



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