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記念日。
①
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「何よ……その格好!?」
あぐりは部屋に入るなり、ほなみを上から下まで見た。
「なにって……」
ほなみの今日の服装は、白のセーターに長いフレアーのデニムスカート。
いつもの自分の感じはこうなのだが。
あぐりは「あああ」という大げさなため息と共に首を振る。荷物を床にバンと音を立てて置き、カレンダーを指差した。
「はいっ!今日は一体何の日!?」
ほなみはティーポットに紅茶を注ぎながら「……2月14日でしょ?」と答えた。
即座に「ぶっぶー!!はっずれー!!」とあぐりにどや顔を向けられる。
「え……なんで……」
「あんたすっかり忘れているのねっ!?でなきゃ、そんなゆるゆるした服着てる訳ないわよね!今日、一緒にライブに行く約束してたじゃないっ!」
ほなみは、あっ!と口をおさえた。
「やっぱり忘れていたわね――!」
軽く首を絞められ、ほなみはせき込みながら謝った。
「ゴメン……これじゃあ困っちゃうね……ここまで忘れっぽいなんて……はは」
「まあ今日は、智也との記念日だし、それで頭の中がいっぱいなのも無理はないけどさあ……やつから連絡あった?」
あぐりは苦笑し、ほなみの肩を軽くつついた。
せきが止まり、紅茶のカップをあぐりに差し出し自分も飲もうと口元にカップを持っていくが、智也の事を聞かれ、ほなみは動きを止めた。
「どうしたの?」
あぐりがけげんな顔をする。
カップを持つほなみの手が小刻みに震え出した。
頭の奥の何かがぐしゃっとつぶれたように痛み目をつむると、熱い涙が手に零れる。
「ほなみっ!?」
あぐりは驚いて叫び、優しく包み込むようにほなみを抱き締め、背中をポンポンたたく。
「……よしよし。かわいそうにね……記念日なのに……メール位よこしてもいいのにね!」
「私……悲しい……のかな」
自分が涙を流しているのが信じられなくて、ほなみは自分に問うようにつぶやいた。
ほなみは、優しく抱きしめられる心地好さにうっとりするが、自分が泣いている事に、彼女自身が驚いていた。
「そりゃ~悲しいに決まってるじゃない。世の中はバレンタインよ?大人から子供までイチャイチャキャッキャ浮かれるイベントじゃないのっ」
憤慨するあぐりの声を聞きながら、ほなみは昨年の今日、自分が何を考えていたのか思い出そうとしたが、特に何もなかったような気がする。
不意に、先程テレビで流れた"クレッシェンド"のメロディーが浮かんできて、また新しい涙があふれてきた。
――あのメロディーを聴いたから?あの声を聴いたから?だから、涙が出てくるの?
あぐりは部屋に入るなり、ほなみを上から下まで見た。
「なにって……」
ほなみの今日の服装は、白のセーターに長いフレアーのデニムスカート。
いつもの自分の感じはこうなのだが。
あぐりは「あああ」という大げさなため息と共に首を振る。荷物を床にバンと音を立てて置き、カレンダーを指差した。
「はいっ!今日は一体何の日!?」
ほなみはティーポットに紅茶を注ぎながら「……2月14日でしょ?」と答えた。
即座に「ぶっぶー!!はっずれー!!」とあぐりにどや顔を向けられる。
「え……なんで……」
「あんたすっかり忘れているのねっ!?でなきゃ、そんなゆるゆるした服着てる訳ないわよね!今日、一緒にライブに行く約束してたじゃないっ!」
ほなみは、あっ!と口をおさえた。
「やっぱり忘れていたわね――!」
軽く首を絞められ、ほなみはせき込みながら謝った。
「ゴメン……これじゃあ困っちゃうね……ここまで忘れっぽいなんて……はは」
「まあ今日は、智也との記念日だし、それで頭の中がいっぱいなのも無理はないけどさあ……やつから連絡あった?」
あぐりは苦笑し、ほなみの肩を軽くつついた。
せきが止まり、紅茶のカップをあぐりに差し出し自分も飲もうと口元にカップを持っていくが、智也の事を聞かれ、ほなみは動きを止めた。
「どうしたの?」
あぐりがけげんな顔をする。
カップを持つほなみの手が小刻みに震え出した。
頭の奥の何かがぐしゃっとつぶれたように痛み目をつむると、熱い涙が手に零れる。
「ほなみっ!?」
あぐりは驚いて叫び、優しく包み込むようにほなみを抱き締め、背中をポンポンたたく。
「……よしよし。かわいそうにね……記念日なのに……メール位よこしてもいいのにね!」
「私……悲しい……のかな」
自分が涙を流しているのが信じられなくて、ほなみは自分に問うようにつぶやいた。
ほなみは、優しく抱きしめられる心地好さにうっとりするが、自分が泣いている事に、彼女自身が驚いていた。
「そりゃ~悲しいに決まってるじゃない。世の中はバレンタインよ?大人から子供までイチャイチャキャッキャ浮かれるイベントじゃないのっ」
憤慨するあぐりの声を聞きながら、ほなみは昨年の今日、自分が何を考えていたのか思い出そうとしたが、特に何もなかったような気がする。
不意に、先程テレビで流れた"クレッシェンド"のメロディーが浮かんできて、また新しい涙があふれてきた。
――あのメロディーを聴いたから?あの声を聴いたから?だから、涙が出てくるの?
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