Love adventure[改稿版]

ペコリーヌ☆パフェ

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不思議な疼き

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 ロックからポップスまで、幅広いジャンルの音楽をあぐりは知っている。

「音楽を聴くのは一人でも楽しいけれど、ライヴってさ、家を出発してから帰るまでがライヴでしょ?どうせなら丸一日ドーンと楽しみたいの!始まる前の女子トークだってあるし、終わってからは感想を話し合いながらご飯食べたりとか……
 ひとりより、ふたりの方が断然楽しいわよね?それに、そういうのは仲良しのあんたとしたいのよ!」と、ライヴがある度に誘ってくる。

 ほなみは音楽は好きだが、特定の好きなミュージシャンはいない。
 だから、あぐりに誘われるのは全く自分が知らない名前のミュージシャンのライヴである事も珍しくはなかった。


 おそらく10代の年齢層が半分以上だろうか。
 女の子たちが声を弾ませて楽しげにはしゃいでいる。

「西君カッコイイー!」
「目が合ったら失神しちゃうー!」

 こういう場において他の客を気にした事はなかったのだが、今日はなぜか気になって仕方がない。
  若いカップルの姿もちらほらある。
  自分たちより年上の人たちはあまりいないようだった。


 「私は根本君にチョコをあげるんだ!根本君がドラムたたいてる時の顔、スッゴくカッコイイ!」
「私は断然西君だよ?!私もチョコ持ってきちゃった!ラブレターも書いてきちゃった!」

 後ろの方からそんなやり取りが聞こえ、耳の神経がその話し声に集中する。



 振り返って、顔を見たい衝動にかられたが、さすがにそれはできない。
 ほなみは、あぐりの姑の愚痴話を聞く振りをしながら、彼女たちの会話を盗み聞いた。

「今日、出待ちする?」
「手、振ってくれるだけでキュンキュンするねー!」
「一緒に車に乗り込んでツアーに付いていきたいー!」
「あー!それスゴくいい考え!……車の前に飛び出したら止まってくれるよね?で、お嬢さん、大丈夫ですかっ?て、西君が……きゃ――っ!」
「きゃ――って……そんなに危ない事やったら車にはねられるし!死んじゃうよーー!」
「アハハハ」





 ――そうか。熱烈なファンは、そうやってミュージシャンの気を引きたいものなのか。

 ほなみは半分あきれながらも何となくその気持ちが分かるような気がした。




 (ミュージシャンだって人間だし、好かれたら悪い気はしないよね。
 ましてやそれが、若くてかわいい女の子なら……)

 ズキン。
  不意に胸の奥が小さく疼く。
 その感覚は、今まで味わった事のない物だった。

「やっと列が動いた!グッズはライヴが終わってから見に行こうか」

 あぐりの声にほなみはわれにかえる。

「あ……うん。そうしようか。」

 スタッフの案内に促され、次から次へと客達がライヴハウスに入って行きほなみ達も呼ばれ、中へ入っていく。




 ライヴハウスの中は、演出のスモークで白い霧が漂っている。
 ほなみ達は中央少し後ろ側の一段高くなった場所を陣取った。

「つかまるバーもあるし見やすくていい場所じゃん!よかったね!」

 あぐりは満足そうだ。

「うん。良く見えるね」

 ほなみは、イメージしていたよりもさらにステージが近い事に驚く。 
 さすがに手を伸ばしても届かないが、この距離なら充分メンバーの動きや表情が見えるだろう。
 ステージ中央にグランドピアノが置いてある。
 あの場所に、彼が、来るーー想像しただけで緊張してしまう。

(どうしてこんな風にドキドキするのーー
 ーー「付き合ってくれないか」と、高校生の時に智也に言われた時、これほどまでに心臓が激しく鳴っていたけ?
 初めて智也と唇を重ねた時や、初めて身体を重ねた時にも、ここまで心が浮き立っていたーー?)

 ライブハウスの中が急に真っ暗になり、観客達がどよめき、誰からともなく手拍子が起こる。 
 ステージが鮮やかにライトアップされ、メンバーが次々と現れ観客に手を振る度に歓声が響いた。
 ドラマー、ギタリスト、ベーシストがステージに立ち、演奏を始めた。
 狂喜する観客の手拍子がいっそうリズミカルに鳴る。


 ーーあと、一人。

 中央のピアノに来るべき人物を、皆が待っている。
 ほなみも手拍子をしながらステージを見つめた。 
 パンパンというその音よりも、鼓動の方が大きな音を立てているような気がする。


「……ねえ、あぐり」
「うんっ?」
「今更、私が、人を好きになったら、変……かな?」
「えっ?何!?聞こえない」

 ひときわまばゆい照明がピアノを照らしたかと思うと、ステージの上手からスーツ姿の彼が颯爽と現れ、女の子達が絶叫した。
 白い光に包まれた彼の姿にほなみは胸を激しくときめかせる。

 "西君"は、ピアノの前で王子さまのような恭しい所作で客席に向かってお辞儀をし、ピアノに向かい鍵盤をたたく。
 彼が唄い始めたのは、ほなみが先程、家で偶然耳にした曲――



 
 "君は旋律(恋)を奏でた
  君は旋律(恋)を撒いた
  渇いた砂に 染み込むように  もっともっと、もっと欲しいって泣いているみたいに
  僕も旋律を奏でるよ君の居る場所へ届くまで
  遠くたって 諦めない
  音符に乗って、君のすべてをさらいに行くよ"


 初めて聴いたその瞬間、自分の総てを乗っ取られたと錯覚する程、ほなみを夢中にしたメロディーと、ピアノを華麗に弾く彼の姿が、今、現実に目の前にある。


 ――なぜ、こんな風に胸が鳴るのだろう。
 どうして、彼の声や姿が、ここまで自分を切なくさせるのだろうか?

 白くなる程に強く握りしめたほなみの両手の甲に、あたたかい涙が落ちた。








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