Love adventure[改稿版]

ペコリーヌ☆パフェ

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あなたに、とらわれて

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 ライヴはあっという間に終わってしまった。
 二時間ほどの時間が一瞬のように思える。
 ザワザワと周りの客達が出口へと流れて行く中、ほなみは呆けたようにその場から動けずにいた。
 バーを握りしめたまま、スタッフが忙しく楽器を片付けているステージを見つめていると、あぐりに肩を軽く揺さぶられる。

「大丈夫?……どこか具合が悪くなったんじゃないよね?」
「ああ……うん。大丈夫」



「なかなか良かったんじゃない?
 西君の声、良く出てたね」
「うん……」
「グッズ、一応見てみようか」

 あぐりに腕を引っ張られ、引きずられるように外に出た。
 ライヴハウスの熱気の中、少々汗ばむ位だったが、外の冷気が今は心地好い。
 グッズ売り場では、シャツやパーカ、缶バッジやトートバッグ、CDなどが売られていた。

「クレッシェのグッズって可愛いよね。パーカどうしようかなあ」

 あぐりがパーカを手に取り、スタッフにサイズのSがあるか聞いている。
 ほなみはCDを全種類手に取った。

「全部下さい!」
「ありがとうございます!
 実は今日、3枚以上お買い上げのお客様にはメンバーからサインをしてもらえるんですよ」

 女性スタッフが、ほなみにそっと耳打ちする。

「えっ!?」
「何々っ?どうしたの?……うわ!買うの?言ってくれれば貸すのに~」

 買ったパーカを早速羽織った姿のあぐりは、ほなみが沢山のCDを抱えているのを見て目を丸くした。

「欲しいの」

 きっぱり言うほなみを、あぐりはまじまじと見つめ、そして嬉しそうに言った。

「珍しくお気に入りになったらしいね。
 良かったよ~誘って」

 ほなみも笑ってうなずいた。
 すると先程の女性のスタッフに呼ばれた。

「お客様、こちらへ」

 ほなみは、先導されて"STAFF ONLY"と書かれたドアを開けた。

「サインお願いしまーす」という女性スタッフの声に
「――はい」
 と聞き覚えのある、よく通る男性の声が返ってくる。

「すみません、今メンバーが来ますのでサインしてもらって下さい!私、片付けがあるので失礼します!」

 スタッフは早口で言うと、あたふたと行ってしまった。
 ほなみは心細くなってしまい、所在なげにキョロキョロした。




  控室の壁には、ミュージシャンのサインが無数に書かれていた。
 今やドームツアーをするほどのビッグなバンドの名前もあり、思わず感嘆する。

「すご……」

 小さくつぶやいた時、真後ろで
「うん。すごいよね」と声がした。

「ーー!」
 
 ほなみは飛びのき、持っていたCDを落としてしまった。

「――大変っ」

 慌てて拾おうとして屈むと、一緒に屈んでCDを拾い上げる人物を見て息をのんだ。

 ――西君だ。

 ステージではスーツ姿だったが、ゆったりとしたシンプルなTシャツとGパンに着替えいた。先程よりも男性ぽさが感じられる。
 身体の線は細いけれど、手は思いのほか骨張り大きくて、ほなみの手はすっぽりと包まれてしまうだろう。

「驚かしてゴメンね」

 真っすぐに見つめられ、ほなみは余裕が全く無くなってしまった。
 長いまつ毛におおわれた彼の瞳は、おどおどと戸惑うほなみを見て、わずかに揺れた。

「たくさん買ってくれたんだね、ありがとう……どれにサインする?全部にして欲しければ、全部に書くよ?」

 緊張のあまり、カクカクと奇妙な動きでうなずくしかできなかった。
 何が可笑しいのか、彼はクスリと笑みを零し、CDのケースを優雅な手つきで開くと盤面にサラサラとペンを走らせた。


「お名前は?」
「は……はいっ?」
「……あなたの、名前」

 西本祐樹は優しい笑みをたたえた瞳で、ほなみの目を見つめ、ゆっくりと訪ねた。
 ほなみは、胸苦しさで喉がつまるような感覚を覚えながら、やっとの思いで答えた。

「ほ……ほなみ、と言います」

 彼はCDに"ほなみへ"と書き加える。

「他のメンバーにも書いてもらってくるから、ちょっと待っててね?」

 滑らかな口調でそう言うと、部屋から出て行こうとした。

「待って!」

 ほなみの口から、自分でもびっくりするような大きな声が出た。
 彼が目を丸くして振り返る。
 ほなみは、バッグからラッピングしたトリュフのチョコレートを差し出した。



 
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