Love adventure[改稿版]

ペコリーヌ☆パフェ

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禁断の萌芽

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 ――君は冬の国のプリンセス
 白い結晶のドレスが似合う女の子
 それなのに
 君は とても 寒がりなんだ
 僕は 王子でも 何者でもないけれど
 君を 暖める 柔らかな羽毛も あげられないけれど
 この手の温もりは君のもの――

 聴いた事のないバラードだった。甘やかで切なく耳に残るメロディー。クレッシェンドの曲に似ているような気もするけれど、彼らの曲とは違う。
 目を閉じて、その曲に聴き入っていたが、突然、西本に耳打ちされ叫びそうになる。

「……いい曲でしょ?」

 西本はほなみの手を握り囁く。

「……う、うん。すごく素敵」

 どぎまぎしながらステージの方を向いていたが、ほなみの意識は彼に握られている左手に集中していた。

「当たり前だよ。俺が作った曲だし」
「……えっ!」
「こいつら、すげえ下手くそだけど、がむしゃらに頑張ってて、俺らのデビューする前を見てるみたいだ。……何かしてやりたくなったんだよ。これからどうなるかは、こいつら次第だけどな」

 彼の目がキラキラして見えるのは照明のせいだけではないような気がした。
 本当に音楽に真剣なのが伝わってくる。
 ステージで演奏して歌っている時の姿。
 楽屋で初めて言葉を交わした時の紳士的な物腰。
 強引に抱き締めてきて、ほなみの唇を奪った彼が、ふと見せた冷たい眼差し。
 なのに今日ここで会った西本祐樹は、まるで聞き分けのない少年みたいだ。
 そして今、音楽を心底から愛しているミュージシャンとして隣に居る――


「じっと見つめて何?惚れた?」

 西本が、小さく笑ってほなみの左手に素早くキスした。

「ちょっ……こんな所で……」

 ほなみは慌てるが、周囲の人々はステージに注目していて、ふたりの事を気にする様子はない。それを良いことに、西本はほなみの手をつかみ引き寄せた。

「……誰も居ない所ならいいの?」
「えっ!?」

 西本は、裏の楽屋に通じる狭い通路にほなみを連れ込む。
 通路の幅は1メートル程しかなく、ふたりは間近で見つめ合う格好になった。



 西本は両の掌を壁に突いて、ほなみを身動きができないようにする。
 壁一枚隔てた向こうは、ライブホール。
 星の王子のバラードは、最高潮の聴かせどころに入ったようだ。
 ハスキーなボーカルの声が、切なげに、西本の作ったメロディーをなぞる。

 ――冬が終わり 新しい 季節が訪れても
 冬と春は 出会う事はなく、すれ違って行く
  君と僕の明日はあるの?
  答えはない 答えてはくれない
  誰も教えてはくれない――

 彼の瞳がゆらゆらと揺れている様に見えるのは、ミラーボールが回っているせいなのだろうか。
 見とれていたら、熱い唇でキスされる。
 昨日のような乱暴なキスではなく、慈しむように優しい触れ方だった。
 西本は唇を離すと、ほなみの額に、自分の額を軽くぶつけた。

「……痛」

 何も痛くはないが、つい口から出てしまう。

「俺の事、嫌い?」

 彼はほなみの肩に顔を埋めた。
 その声が、思いがけず気弱に聞こえドキリとした。

 ――好き――と言ってしまいそうになるのを懸命に押し止める。

「……どの西君が、本当の西君なの?昨夜は、マジでサイテー野郎だったからね?」

 ほなみは、わざと冷たく言ってそっぽを向いてみる。
 正面から彼を見つめたりしたら、想いが溢れ出して気持ちが見透かされてしまうから――

「えっ……そんなに酷かった!?ゴメン」

 自覚がないなら、尚、たちが悪い。
 西本祐樹のパブリックなイメージは、紳士なのかも知れないが、中身はとんでもないプレイボーイだ。

「サインをもらいに行ったのに、何故あんな事になるのよ?意味がわからない!」

 そっぽを向いたままの、ほなみの結わえられた髪に西本がそっと口付ける。
 すると、ほなみがテレビで初めて聞いて衝撃を受けた、あの曲の前奏が聴こえてきた。

『今日のスペシャルゲストには、人気バンド"クレッシェンド"をお迎えしています!
拍手で、ボーカルの西本君を呼びましょう!』

 浜田がマイクで叫んでいる。



  西本は、口付けている髪から唇を離し、熱い目でほなみを見つめた。

「何でって……そんなの、ひと目でほなみに夢中になったからだよ!文句あるのか!」

 言い放つと、踵を返し、小走りでステージへ向かって行った。
 途端に、ライブハウスに、ざわめきと黄色い歓声が起きる。
 彼は、魅惑的に笑い、王子様さながらの恭しいお辞儀をしてキーボードの前に立って、天を見上げて深呼吸した。
 甘い声で歌い始めると、フロアは熱狂に包まれ、ほなみの胸の中も熱く猛り、狂い始めた。

 (どうしよう。もう、止められなくなってしまう。
 自分が智也の妻であることを、忘れてしまいそうになる――)

 その場にへたり込んだまま立ち上がれず、甘い歌声を聴きながらほなみも口ずさむ。

 ――君は旋律(恋)を奏でた君は旋律(恋)を撒いた――

 撒かれた種はもう深い所に根を張り、地上に芽吹こうとしている――
 これから自分はどうなってしまうのかーーと、身震いした。



 
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