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冷たい雪、熱い吐息
①
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「いやあーー昨日のライブも最高だったけど、今夜は星の王子ちゃんも、クレッシェも最高すぎたね!星の王子ちゃんたちが一生懸命に演奏しているのを見てたら、クレッシェのデビュー前を思い出したよ……あの頃客が集まらなくて、路上で歌ってたよなあ……
僕は変装してサクラで応援に行ったよ……えっ?なんで変装するかって?そりゃあ!
『あいついつも居るな。どうせサクラだろ』て通行人に思われるじゃないか!だから顔バレしないよう、毎回工夫を凝らしたんだよ……
ある時は『スパイダーマン』もどき、ある時は『セーラームーン』もどき、ある時は『スチャラカ銀行マン』風……『ゆるキャラ』風……着ぐるみ作って、それを着て応援をしたなあ……
え?どんなゆるキャラかって?……ふふふ。それはね。名付けて、じゃんっ!
『嵐を呼ぶはまじろう』!
はまじろうは百年前に生まれた竜巻の妖精なんだ。はまじろうが通り過ぎると、なにもかも巻き上げてしまうんだ……着ぐるみのデザインは風のイメージでねぇ……」
ライブは大盛況に終わり、皆で後片付けをしている最中だが、浜田に真剣な顔で
「ほなみちゃん。重要な話があるから、ちょっといい?」
と手招きされたが、理解できない話が終わらない。
いつになったらその重要な話が始まるのだろうか。相づちを打ちながら密かに焦れていたが、浜田の意味の無い熱弁はヒートアップして終わりそうになかった。
「ほなみさん」
心ここにあらず状態でぼうっとしていたが、突然低い声が後ろからしてびっくりして振り向く。
野村が救急箱を手にして立っていた。
「……怪我人がいるんで応急手当て頼めますか?」
「えっ?そうなんですか?私で大丈夫かしら。」
「小さな怪我なんで、大丈夫っす……浜田さん、すみません、ほなみさんを借ります」
野村が小さく頭を下げると浜田は「わかったよーーほなみちゃんまた後でねっ」と引き下がったので、ほなみはホッとした。
(やっと解放される……)
浜田は、今度はドリンクコーナーのバーテンダーをつかまえて語っている。
「こっちです」
野村に促され付いていくと、舞台裏で三広がおでこをおさえて呻いていた。
機材を運ぶ時に周りをよく見ていなかったらしく西本と衝突したらしい。
当の西本は平気な顔をしてピアノの鍵盤を布で拭いていた。
亮介が心配そうに三広の側に付いて居る。
ほなみは三広に駆け寄り顔をのぞき込んだ。
「大丈夫?ちょっと見せて?」
「大袈裟なんだよ三広は」
西本がからかうように言った。
その時バチッと視線が合ってしまい、たちまちほなみの頬が熱くなる。
それを隠すように視線をそらし三広に「おでこを見たいから手をどけてくれませんか?」と言ったが、相当痛いのか、彼はおでこを手で隠したままだ。
「無理無理無理――!目から星が飛んでる――!祐樹は石頭だけど俺の頭は豆腐みたいに脆いんだ――デリケートなんだ――!」
「阿呆かっ!豆腐なら今頃ぐっちゃぐちゃになってるって!」
西本が笑うと、三広は顔を青くした。
「ぐ……ぐちゃぐちゃ!?俺の頭、今どんなんなってるの――っ!?」
亮介が落ち着かせようと「大丈夫だって」と声をかけるがまだ喚いている。
ほなみは「頭が心配だったらちゃんと見せて!」と少し強く言い、三広のおでこに当てられた両手を強引につかんでどけた。
そっと手を当てると、さっきまで喚いていた三広は途端に静かになり、ほなみを大きな目でまじまじと見つめている。
「……ちょっと膨らんでるわね。外にコブができるようなら多分大丈夫。少し擦り傷が出来てるから軟膏塗りますね」
指でそっと軟膏を塗ると、三広の肌はまるで女の子みたいにスベスベで、嫉妬してしまいそうな程だった。
ふと視線を感じ、ちらっと目を向けると西本が鋭い目でほなみを見ていた。
(なぜ、そんな怖い顔してるの?)
ほなみは西本から目を逸らし三広のおでこに絆創膏を貼った。
「大丈夫だと思うけど、もし、気分が悪くなったりしたらちゃんと診てもらった方が……」
三広の顔がみるみるうちに赤くなっていくのに気付き、熱でもあるのかと、おでこに再び触れようとしたが、三広は飛び退いてほなみから離れた。
「……あ、ありがとう……ほなみちゃ……ゲホッゲホッ」
三広は苦しげにせき込む。
「三広、照れたな??中学生か!」
亮介はひゅう、と口笛を吹き三広の背中を思いきり強くたたきからかった。
「いて――っ!亮介!マジで痛いぞ!」
三広が怒り、蹴りを入れようと足を振り上げるが、亮介はヒラリとかわし、ほなみに耳打ちした。
「こいつは女みたいな顔してるけど中身は結構スケベだからね。気を付けるんだよ?」
「え、えええ?」
「……大丈夫そうだな。さて。片付けの続きをするか。ほなみさん、ありがとう」
野村が、ぎゃんぎゃん騒いでいる三広を見て言った。
「いえ、私は何も」
「……ハヤシライスも、美味しかった」
野村は深々とお辞儀すると、サッサとモップをフロアにかけはじめた。
「亮介……!変な事をほなみちゃんに吹き込むな!誤解を招く――!」
「変な事って?お前がムッツリだって事?」
「ムキ――っ違うわ――っ!」
「顔を赤くして怒ると猿みたいだぞ」
「なんだって――!?」
二人は飽きもせずやり合っている。
西本の姿が無い事に気づき、ほなみはキョロキョロした。
舞台の裏、フロア、洗面所を廻って見たが居ない。
彼の先程の表情がどうしても気になる。
2階のカフェにいるかも知れない、と階段を上ると、カフェの前で、西本と星の王子のメンバーの女の子が一緒にいた。
――確か、真由(まゆ)という名前だ――彼女は涙ぐんでいる。
真由の頭を彼が撫で、笑って何か言っているのを見た途端、ほなみの身体が冷たく固まった。
僕は変装してサクラで応援に行ったよ……えっ?なんで変装するかって?そりゃあ!
『あいついつも居るな。どうせサクラだろ』て通行人に思われるじゃないか!だから顔バレしないよう、毎回工夫を凝らしたんだよ……
ある時は『スパイダーマン』もどき、ある時は『セーラームーン』もどき、ある時は『スチャラカ銀行マン』風……『ゆるキャラ』風……着ぐるみ作って、それを着て応援をしたなあ……
え?どんなゆるキャラかって?……ふふふ。それはね。名付けて、じゃんっ!
『嵐を呼ぶはまじろう』!
はまじろうは百年前に生まれた竜巻の妖精なんだ。はまじろうが通り過ぎると、なにもかも巻き上げてしまうんだ……着ぐるみのデザインは風のイメージでねぇ……」
ライブは大盛況に終わり、皆で後片付けをしている最中だが、浜田に真剣な顔で
「ほなみちゃん。重要な話があるから、ちょっといい?」
と手招きされたが、理解できない話が終わらない。
いつになったらその重要な話が始まるのだろうか。相づちを打ちながら密かに焦れていたが、浜田の意味の無い熱弁はヒートアップして終わりそうになかった。
「ほなみさん」
心ここにあらず状態でぼうっとしていたが、突然低い声が後ろからしてびっくりして振り向く。
野村が救急箱を手にして立っていた。
「……怪我人がいるんで応急手当て頼めますか?」
「えっ?そうなんですか?私で大丈夫かしら。」
「小さな怪我なんで、大丈夫っす……浜田さん、すみません、ほなみさんを借ります」
野村が小さく頭を下げると浜田は「わかったよーーほなみちゃんまた後でねっ」と引き下がったので、ほなみはホッとした。
(やっと解放される……)
浜田は、今度はドリンクコーナーのバーテンダーをつかまえて語っている。
「こっちです」
野村に促され付いていくと、舞台裏で三広がおでこをおさえて呻いていた。
機材を運ぶ時に周りをよく見ていなかったらしく西本と衝突したらしい。
当の西本は平気な顔をしてピアノの鍵盤を布で拭いていた。
亮介が心配そうに三広の側に付いて居る。
ほなみは三広に駆け寄り顔をのぞき込んだ。
「大丈夫?ちょっと見せて?」
「大袈裟なんだよ三広は」
西本がからかうように言った。
その時バチッと視線が合ってしまい、たちまちほなみの頬が熱くなる。
それを隠すように視線をそらし三広に「おでこを見たいから手をどけてくれませんか?」と言ったが、相当痛いのか、彼はおでこを手で隠したままだ。
「無理無理無理――!目から星が飛んでる――!祐樹は石頭だけど俺の頭は豆腐みたいに脆いんだ――デリケートなんだ――!」
「阿呆かっ!豆腐なら今頃ぐっちゃぐちゃになってるって!」
西本が笑うと、三広は顔を青くした。
「ぐ……ぐちゃぐちゃ!?俺の頭、今どんなんなってるの――っ!?」
亮介が落ち着かせようと「大丈夫だって」と声をかけるがまだ喚いている。
ほなみは「頭が心配だったらちゃんと見せて!」と少し強く言い、三広のおでこに当てられた両手を強引につかんでどけた。
そっと手を当てると、さっきまで喚いていた三広は途端に静かになり、ほなみを大きな目でまじまじと見つめている。
「……ちょっと膨らんでるわね。外にコブができるようなら多分大丈夫。少し擦り傷が出来てるから軟膏塗りますね」
指でそっと軟膏を塗ると、三広の肌はまるで女の子みたいにスベスベで、嫉妬してしまいそうな程だった。
ふと視線を感じ、ちらっと目を向けると西本が鋭い目でほなみを見ていた。
(なぜ、そんな怖い顔してるの?)
ほなみは西本から目を逸らし三広のおでこに絆創膏を貼った。
「大丈夫だと思うけど、もし、気分が悪くなったりしたらちゃんと診てもらった方が……」
三広の顔がみるみるうちに赤くなっていくのに気付き、熱でもあるのかと、おでこに再び触れようとしたが、三広は飛び退いてほなみから離れた。
「……あ、ありがとう……ほなみちゃ……ゲホッゲホッ」
三広は苦しげにせき込む。
「三広、照れたな??中学生か!」
亮介はひゅう、と口笛を吹き三広の背中を思いきり強くたたきからかった。
「いて――っ!亮介!マジで痛いぞ!」
三広が怒り、蹴りを入れようと足を振り上げるが、亮介はヒラリとかわし、ほなみに耳打ちした。
「こいつは女みたいな顔してるけど中身は結構スケベだからね。気を付けるんだよ?」
「え、えええ?」
「……大丈夫そうだな。さて。片付けの続きをするか。ほなみさん、ありがとう」
野村が、ぎゃんぎゃん騒いでいる三広を見て言った。
「いえ、私は何も」
「……ハヤシライスも、美味しかった」
野村は深々とお辞儀すると、サッサとモップをフロアにかけはじめた。
「亮介……!変な事をほなみちゃんに吹き込むな!誤解を招く――!」
「変な事って?お前がムッツリだって事?」
「ムキ――っ違うわ――っ!」
「顔を赤くして怒ると猿みたいだぞ」
「なんだって――!?」
二人は飽きもせずやり合っている。
西本の姿が無い事に気づき、ほなみはキョロキョロした。
舞台の裏、フロア、洗面所を廻って見たが居ない。
彼の先程の表情がどうしても気になる。
2階のカフェにいるかも知れない、と階段を上ると、カフェの前で、西本と星の王子のメンバーの女の子が一緒にいた。
――確か、真由(まゆ)という名前だ――彼女は涙ぐんでいる。
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