Love adventure[改稿版]

ペコリーヌ☆パフェ

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冷たい雪、熱い吐息

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 西本が真由を抱き締めたのを見た時、重い鉛を胸の奥へ投げ込まれた様に苦しくなる。
 ほなみは、その場から動けずふたりを見つめていた。
 どれ程時間が経ったのか。数秒間だったのかもしれないが、とてつもなく長い時間に感じられた。
 西本は真由の頭をポンポンたたき、彼女から離れると、階段を降りて来た――
 咄嗟に逃げようとしたが足がもつれて靴が脱げ、へたり込んでしまう。
 彼に見つかったほなみは、気まずくて下を向いた。

「……何してんの?」

 西本が、無邪気な笑顔で手を差しのべて来るが、ほなみは払いのけた。

「触らないで!」

 鋭く言い放つほなみに、彼が目を丸くする。

 ――何を受かれていたんだろう。西君はミュージシャンで、沢山の若くて可愛い女の子が寄って来る。私はその中の一人にも入らない位の存在なんだ。からかわれているだけ――

「あんな若い子を弄ばないほうがいいですよ?」
「は?何言ってるんだよ?」
「未成年だし……遊ぶなら大人の物分かりの良い人にしたらどうですか?」

 大きな声が出てしまい、自分でも困惑し、口を手で押さえた。
 西本が真顔になる。
 いたたまれなくて、脱げた靴を履き階段を足早に駆け降りると、彼が追いかけて来る。
 callingを飛び出し表通りを走ったが、赤信号を飛び出そうとしてクラクションを鳴らされる。
 追いついた彼に後ろから抱き締められた。
 人の往来が激しく、ほなみ達は注目を浴びている。

「は……離して」
「嫌だ!」
「からかうのは止めて!」
「からかってない」

 信号が青に変わると、無我夢中で腕を振り解き、早足で渡る。
 西本もほなみの隣を歩く。
 足が長い彼にはすぐに追いつかれ先回りをされてしまう。道を渡った途端、腕をつかまれ、通り沿いのシャッターが閉まった店の壁側に体を押し付けられた。
 両腕をしっかりつかまれたままで身動きできないほなみは、彼と目を合わせないようにそっぽを向いた。

  西本は、ほなみをまっ直ぐに見て、きっぱりと言う。

「今日のライブは良い出来だったねって話をしてただけだよ」
「……別になんでもいいです。私に関係ないし」
「ほなみ」
「気安く呼ばないで!迷惑なの!」

 いつの間にか涙が溢れ、頬を伝っている事にほなみは慌てる。
 西本が、ほなみの頬を指で拭った。

「さっき言った事は、本気なんだ」
「それが迷惑なの!貴方なんか嫌い!大嫌い……」

 自分の意思とはうらはらに涙が次から次へと溢れて止まらない。
 西本はふっと笑って、ほなみの頬を撫でる。

「勝手にヤキモチ妬いたくせに……そんな言葉、信じないよ」
「本当に嫌いよ……」
「俺がヤキモチ妬いてたのに、今度は妬かれるとは思わなかったな」

 西本は、ほなみの髪をくしゃくしゃにしてキラキラした笑顔を見せた。
 ほなみは、胸が苦しくて堪らなくなり、無理矢理彼から逃れ、また歩き出した。

「ほなみ」
「ついて来ないで!」

 ほなみはずんずん歩き、直ぐにマンションの目の前に着いてしまう。
 西本が、エントランスから最上階を見上げた。

「……すごい所に住んでるな」
「さようなら」

 ほなみは、冷たく告げてエントランスを登る。

 「行くなよ」

 鋭く、熱い声色で呼び止められた。

「俺、ほなみが思ってるように、女の子が大好きで遊んできた。だけど……会ったばかりだけど、ほなみに夢中なんだよ……本当なんだ」

 ほなみは立ち止まり、背中で彼の声を聞いた。

「ほなみも、俺が好きなんだろう?だから、ヤキモチ妬いてこんな風に」
「自惚れないでっ!どの女も思い通りになるなんて、大間違いよ!大嫌い!」
「ほなみっ!」

 ロックを素早く解除し、自動ドアから中へ入ると、ふたりの間でドアが閉まった。
 振り返らずエレベーターに乗り込み最上階で降りて、自分の部屋へと入る。
 しん、とした無人の部屋はすっかり冷えきっていた。
 エアコンを付け、パソコンを開くと、あぐりからメールが来ていた。



 『やっほー!昨日のライヴ楽しかったね!
 気分悪かったみたいだけど大丈夫?
 打ち上げ、すっごく楽しかったわよ!
 ところで今度、BEATSのライヴがあるんだけど行かない?
 また、連絡するね。
 あぐり  』


 

 智也からのメールは来ていない。
 洗面所に行き、乱暴に服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。
 涙はもう出て来ないが頭が重い。
 憂鬱な気持ちでパジャマに着替え髪を乾かし、洗面所から出た。
 テーブルには、持ち帰ったクレッシェンドのサイン入りのCDが入った紙袋が置かれている。
ごみ箱に入れようとしたが、結局捨てる事が出来ず紙袋を抱き締めたまま、ぼうっと座りこんでいた。
 どの程の時間、そうしていただろうか。
 窓の外に雪がちらついているのが見えて弾かれたように立ち上がり、カーテンを開けて外を見た。
 温暖なこの地域で雪が降るのは珍しいが、このまま降り続けば朝には少し積もるかもしれない。そんな事を思いながら下を見て驚愕する。
 西本祐樹が、マンションの目の前、別れた場所で立ち尽くしているではないか。
 上着も着ていない彼は寒そうに身を縮め、スーツの肩には白い雪が舞い降りている。
 ほなみは思わず時計を見た。下で別れてから2時間は経っている。
 くしゃみをしたような仕種が上から見えると、いても立っても居られず、ほなみはエレベーターに乗り込んだ。
 やっと下に到着して、開いた自動ドアから外に飛び出し、彼に駆け寄りマフラーをかけた。
 やはり、氷の様に身体が冷え切っている。

「風邪を引いたらどうするの!大事な喉を痛めたらどうするのよ!」

 西本は白くなった唇を僅かに動かし笑った。

「心配してくれるの?」
「もうっ……馬鹿!」

 ほなみは、彼の胸をたたいた。

「うわっと!」

 彼は顔をしかめたが、胸を殴り続けるほなみの手を取ると、そっと口付けた。

「……西君の……馬鹿っ」

 愛おしさが涙と共に込み上げて来た瞬間、強く抱き締められた。
 ほなみが背中に腕を回し抱き締め返すと、更にきゅうっと強く力が込められる。
 雪が、音も無くふたりの上に舞い降りる。
 凍てつく程に冷たい筈なのに、身体が熱くて熱くて、どうしようもなく苦しかった。




 
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