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あなたのもとへと

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「さっきも言ったが、話した事、した事、必ず報告するんだ」

 動揺するほなみを綾波が薄く笑った。

「祐樹とした事……した事……て……ううわああああ!」

 三広は、突然鼻血を噴く。

「大変!」

 ほなみはテーブルの上のティッシュをつかむと三広の鼻を拭う。

 三広はほなみと目が合うと、笑って「あ……ありがとう」と礼を言うがが、まだ鼻から血が垂れてくる。

「暫く上を向いてたほうがいいね。頭をぶつけたり、鼻血出したり忙しいね」

 三広は、顔を赤くしたまま、小さな声でもごもごと話し始めた。

「祐樹……に、ほなみちゃんが東京に来る事、話してないんだ」

「そうなの?」

「武道館をやる筈だった三月十四日に、代わりに何か出来ないかって話し合ったんだけど……曲をネットの生放送で発表しようかって。

 ライブすっ飛ばしたお詫びと、これからのクレッシェンドをよろしくってスタートの意味で……」

「大丈夫?鼻……」

 三広は、上を向いたまま返事の代わりに瞬きをした。

「ただな。祐樹が今は曲を作れるような精神状態じゃねえんだよ。なんとしてもお前が元の祐樹に戻すんだ」

 綾波は、側へ来て三広の手当てを始めた。

「早く祐樹の所へ行け。他の男に構ってる時間はないぞ。」

「……ほなみちゃん。俺は大丈夫だから」

 三広はニッコリ笑った。

 ほなみは、ソファーに眠るあぐりをちらっと見る。

「疲れて眠ってるだけだ。怪我させるような攻撃はしてないからな、安心しろ」

 綾波は、ほなみに早く行けとばかりに顎をしゃくった。


「……えっと……じゃあ行きます……」

 ほなみは、心臓をバクバクさせながら、西本が居る寝室のドアノブに手をかけた。

 ――向こうに西君が居る。

 澄んだ無邪気な瞳を、真っすぐに見る事が出来るの?

 あの甘い声を聞いたら冷静さを保っていられる?

 しなやかな腕で抱きしめられたら――

 一瞬のうちに様々な思いが頭の中を駆け巡り、会う前から混乱してしまう。

「――おい、さっさと入ったらどうだ」

 綾波に鋭く言われ、ビクリと背中を震わせた。すると、三広が鼻にティッシュを詰めたまま顔をしかめる。

「もうっ!綾ちゃん!ほなみちゃんを苛めないの――!」

「なんだ三広、じゃあお前がこの女を苛めたいのか?……ほう、新たな趣味が出来たのか……それは結構な事だ」

「ぶっ――!な、なんでそうなるのさ――!俺はただ」

「おい、また鼻血だぞ」

「三広君……大丈夫?」

 ほなみが振り返った時、ドアの向こうで

「畜生!

 と切迫した叫び声が聞こえた。

 同時に何かが割れたような音がして、ほなみは躊躇なくドアを勢い良く開けた。

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