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あなたのもとへと
③
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ドアを開け視界に入って来たのは、割れた花瓶と、零れた薔薇――
いつか見たの夢の中で、西本がほなみの髪に挿した薔薇の様な美しいピンクの花弁が床一面に広がっていた。
青を基調とした色彩の寝室は、遮光のカーテンがぴっちりと閉められ、真夜中の様に暗い。
白いシャツ姿で、握り拳を固めてベッドに腰かけていた彼が、ゆっくりと振り返った。眩しいのだろうか。目を細めている彼は少し痩せたようだ。
だが、決して弱々しくは無い。むしろ、精悍さが増した様に見えた。ほなみの胸がズクンとときめく。
少し乱れた栗色の髪が光に反射して金色に輝き、その髪の間から覗く瞳の澄んだ色は、別れた時と変わっていない。彼のシャツは、全てのボタンが嵌められていなかった。胸から下腹部までの均整の取れた筋肉に、ほなみの目が釘付けになる。彼の姿に言葉を失って見とれてしまい、彼が驚いて目を見開き、その唇を僅かに動かしたのを見ても、ほなみは何も言葉をかけられずに立ち尽くしていす。
すると三広が鼻にティッシュを突っ込んだまま血相を変えて走ってきた。
「今なんか音がしたけど……っ?二人とも大丈夫っ?」
「……三広、お前がほなみを呼んだのか?」
部屋じゅうを振動させる、彼の通る声に、ほなみは聞き惚れてしまう。
(……ずっとずっと聴きたかった西君の声だ……)
「うん。祐樹に元気を出してほしかったから」
三広の鼻からまた血が流れた。
ほなみが咄嗟に持っていたハンカチで押さえる。
「まだ静かにしてた方が、いいんじゃない?」
「ありがと……鼻血体質なんだよ俺……かっこ悪……」
「そんな事ないよ」
ふたりのやり取りを見ていた西本は背中を向け、震える声で言う。
「……イチャイチャするなら他でやれ」
「違うよ!ほなみちゃんは、お前の事を心配して来たんだよ?」
「余計な事をするな!お前に何がわかるんだ!」
西本が怒鳴って三広の胸倉をつかみ突き飛ばした。三広は、はずみで部屋の隅まで転げる。
「三広君っ!」
ほなみは、駆け寄り三広の身体を起こした。
「大丈夫だよ……」
ほなみに笑ってみせた三広が、西本に悲しい眼差しを向け、きっぱりと言った。
「お前が居ないクレッシェンドは有り得ない。お前が歌えるようになるなら俺は何だってする!」
「それで、ほなみをここまで連れてきたのか。ご苦労様だったな!……けれど……それは俺の為じゃなくて、お前の、自分の為なんだろう?」
パシン、と大きな音が寝室に響く。
ほなみが、西本の頬を打っていた。
――掌が熱い、と感じ、ほなみは自分の手を頬に当てる。
頬も熱を持ち、身体中の血液が急速にドクドクと廻り始めているのを自覚して、戸惑っていた。
(彼の頬に一瞬触れただけなのに……)
ほなみは、西本と目が合うと心臓が飛び上がり、思わず顔を背けてしまった。
いつか見たの夢の中で、西本がほなみの髪に挿した薔薇の様な美しいピンクの花弁が床一面に広がっていた。
青を基調とした色彩の寝室は、遮光のカーテンがぴっちりと閉められ、真夜中の様に暗い。
白いシャツ姿で、握り拳を固めてベッドに腰かけていた彼が、ゆっくりと振り返った。眩しいのだろうか。目を細めている彼は少し痩せたようだ。
だが、決して弱々しくは無い。むしろ、精悍さが増した様に見えた。ほなみの胸がズクンとときめく。
少し乱れた栗色の髪が光に反射して金色に輝き、その髪の間から覗く瞳の澄んだ色は、別れた時と変わっていない。彼のシャツは、全てのボタンが嵌められていなかった。胸から下腹部までの均整の取れた筋肉に、ほなみの目が釘付けになる。彼の姿に言葉を失って見とれてしまい、彼が驚いて目を見開き、その唇を僅かに動かしたのを見ても、ほなみは何も言葉をかけられずに立ち尽くしていす。
すると三広が鼻にティッシュを突っ込んだまま血相を変えて走ってきた。
「今なんか音がしたけど……っ?二人とも大丈夫っ?」
「……三広、お前がほなみを呼んだのか?」
部屋じゅうを振動させる、彼の通る声に、ほなみは聞き惚れてしまう。
(……ずっとずっと聴きたかった西君の声だ……)
「うん。祐樹に元気を出してほしかったから」
三広の鼻からまた血が流れた。
ほなみが咄嗟に持っていたハンカチで押さえる。
「まだ静かにしてた方が、いいんじゃない?」
「ありがと……鼻血体質なんだよ俺……かっこ悪……」
「そんな事ないよ」
ふたりのやり取りを見ていた西本は背中を向け、震える声で言う。
「……イチャイチャするなら他でやれ」
「違うよ!ほなみちゃんは、お前の事を心配して来たんだよ?」
「余計な事をするな!お前に何がわかるんだ!」
西本が怒鳴って三広の胸倉をつかみ突き飛ばした。三広は、はずみで部屋の隅まで転げる。
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ほなみは、駆け寄り三広の身体を起こした。
「大丈夫だよ……」
ほなみに笑ってみせた三広が、西本に悲しい眼差しを向け、きっぱりと言った。
「お前が居ないクレッシェンドは有り得ない。お前が歌えるようになるなら俺は何だってする!」
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――掌が熱い、と感じ、ほなみは自分の手を頬に当てる。
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