eyes to me~私を見て

ペコリーヌ☆パフェ

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ジェラシーは甘く、激しく

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「ああ……何だか疲れちゃった……」



美名は帰りの車中くったりと身体を寄せてきた。



「もう酔ってないか?」


「うん大丈夫」



結局、美名はあれを酒だと思い込んだままだ。

呆れると同時に、その素直さが可愛くて仕方がない。



「……私、やっていけるのかな」




綾波は、肩に寄り掛かりぽつりと呟く美名の頭を撫でた。



「まだ始まる前から弱気だな」



「だって……」



美名が不安がっているのは端から見ても分かった。
あの庵原翔大という男は、美名のかつての恋人で、翔大が美名にまだ気持ちがあるのだろう。
当の美名はそれを分かっているかは不明だが。

junkは確かに実力のある売れる要素のあるバンドだが、いかにせん個性が強過ぎる。

美名のまっすぐな素直なボーカルと彼らの演奏が果たして合うのだろうか。



それに、ベースの倉田真理は最初から美名を良く思っていない雰囲気を露骨に出していた。

根は悪い男では無いかも知れないが、あれと打ち解けるにはかなり苦労するだろう。


もう一人の優男……名前を忘れたが……
何だかヘロヘロした印象だったが大丈夫だろうか。



しかし、彼らのステージは今日見たいくつかのバンドの中では一番だった。
庵原の魂をぶつける様なプレイに、心が震えたのは俺だけでは無いだろう。


そして、美名が奴を見つめるあの眼差しを思い出すと、全身が言い様の無い感情で粟立つのだ。


それが一体何なのか分からなかったが、疲れて気だるそうな美名が、彼らのステージの感想を語り出して、その感情が嫉妬なのだと確信した。




「凄かったね……昔は、ドラムとベースの人は違うメンバーだったの……あんな上手い人達がメンバーになるなんて……良かったねえ……」



美名の目がトロンとしている。
眠いのだろうか。



「しょう君……庵原、さんの演奏も歌も……昔と変わらない……素敵だったなあ」




胸に鋭い何かを打ち付けられた様な痛みを覚え、綾波は戸惑った。



美名が奴の名前を口にしただけでムカムカする。





「しょう君……ううん庵原さ……の演奏に負けない様に歌える……かな」




「……」




「綾波さん……しょう君は」




また奴の名前を出す美名の顎を乱暴に掴み唇を塞いだ。




「んん……」


美名が小さく呻く。


息が出来ない位にその唇を激しく犯す内に、腹の下の獣が暴れ出す。

早く美名が欲しいと、熱く硬く姿を変えていく。


「うっ……」



その強烈な欲に思わず声が漏れてしまった。




後ろのシートに沈み込んでしまう位に美名に深く口付けながらスカートの裾に手を差し入れた時、運転手がマンションに到着した事を告げた。




美名を抱き上げ抱えたままエレベーターに乗り込み、中でも何度も口付けを交わす。



美名は相当眠いのか、されるがままだ。



部屋へ入るといても立っても居られずに靴を脱ぎ捨て、美名のハイヒールも脱がしてその辺に放る。




「……もう……部屋?」



微睡んだ目で腕の中の美名は呟いた。



その甘い声は脳天を淫らに刺激する。




「美名……っ」




堪らずそのままベッドに倒れ込み、狂ったかの様にその唇を貪った。




「う……ん」


車中で口付けた時よりも美名は夢現(ゆめうつつ)から覚めたのだろうか。反応が敏感になっている。



綾波はネクタイを外しシャツを脱ぎ去った。



美名の頬が少し赤い。


恥ずかしいのか、身体が火照っているからなのか……



ワンピースのファスナーを外そうと、背中へ手を回すと、美名は身を捩った。




「待って……先に髪をほどいていい?」



「俺がやろうか……」





高く結わえられた髪をゆっくりとほどいて行き、そっと手で鋤いてやる。


「……可愛い髪型だけど、肩が凝っちゃって……」



美名が舌を出して笑った。



「そういうものか?」



「うん……」




編み込まれていた髪をほどくと美しい波になった。


長い髪は美名に良く似合う……


その艶々しい手触りを弄んでいると、甘く苦しい何かが湧いてくる。



美名は、そんな綾波をじっと見つめた。



「綾波さん……」



「ほら……またその呼び方か」



綾波は、長い指で彼女の鼻を摘まんだ。



「んがっ」



鼻を鳴らすリアクションに思わず吹き出してしまうが、美名は赤くなり睨んでいる。




「綾波さ……剛さん」




「ん?」



「……何か怒ってる?」



内心ギクリとしたが、平静を装う。




「何故そう思う」




「だって……キスが……乱暴で……」



美名は瞳に少し怯えた色を浮かべていて、綾波はハッとした。



「すまん……怖かったか」



美名は赤い顔で首を振った。



目が潤んでいて、その良く分からない反応に彼は戸惑う。





「強引なのは最初からだもん」



今度は拗ねた様に頬を膨らませる。



どんな風に受け答えをしたらいいのか戸惑っていると美名の唇から小さく呟きが漏れた。





「私……まだしょう君が好き」



その言葉で、綾波の喉が凍りついた。


髪を手にしたまま俺が何秒間か固まっていると、美名は突然吹き出した。



「アハハ……なんて嘘……本当だと思った?」



美名は無邪気に笑い転げて胸を軽く叩いてきたが、その細腕を彼が強く掴む。



「い、痛っ」




美名は小さく悲鳴を上げ、その瞳から涙が溢れているのを見て、綾波は我にかえる。




「……剛……さん」



怯えた目で見る美名の頬に触れて、涙を拭ってやった。



「すまん」




――自分のした事が信じられない。


ここまで美名にのめり込むなど、予想もしていなかった。


アパートで奴が現れた時も面白くなかった。


しかし、また庵原が現れるとは思わなかったのだ。



美名がステージの庵原を見つめる目を思い出すだけで胸がやけつく。



「剛さん……ごめんなさい!」



美名が胸にしがみついて来て甘い香りが鼻腔を擽った。




「私……剛さんがヤキモチ妬いてくれるのが嬉しくて……」



美名が声を詰まらせる。


「……何……?」



「調子に乗って剛さんの反応を見て楽しんだりしてごめんなさい!」




「美名……」




呆気に取られる綾波に、美名の方からキスした。



唇を離すと涙を溜め、綾波を見つめてくる。




「……お前な……わざわざ俺にハッパかけるとか……バカか?」



「はい……バカかも……」



「そんなに、俺が信じられないのかお前は」



「違……っ私は」



美名は激しく首を振ると、涙をポロポロ溢す。





子供の様に泣いている姿を見ていると、喉まで出かけた怒りの言葉は奥に引っ込み、刺々した感情が消えていく。


体裁だとか、取り繕うだとかそんな物はどうでも良くなってしまう。




涙に濡れた頬にそっとキスをすると、真っ赤な目で見上げてくるのが可愛い。




「俺は、激しく妬いたぞ」



「……!」



美名の瞳が輝いた。




「お前を誰にも見せたくないし、何処にも行かせたくない……」



「剛さ……ん」




「歌姫にする、とか言っておきながら矛盾してるが……
閉じ込めて置きたいくらいさ」



流石に、言ってて恥ずかしくなって来た。


だが美名が次の言葉を待っている。




「……そうだ。俺は妬いてるさ!あいつと仕事をさせるなんて……冗談じゃねえよ!
あいつが美名の姿を見て、声を聞くなんて……それだけでも嫌だ!」



「剛さん!」



美名がまた抱き着いて来たがその勢いで俺が押し倒されて、弾みでベッドの柵に後頭部をぶつけてしまった。



「がっ」



「キャー!剛さんっ」




「……おい……火花が散ったぞマジで」



旋毛の下辺りがジンジン痛む。
瘤が出来たかも知れないな。


美名が泪目になって額を撫でている。



――おい……
ぶつけたのは其処じゃないぞ……




「ごっごめんなさい……どうしよう……もし頭を打ってたら……」




綾波は吹き出しそうになるのを堪える。





――……だから、頭を打ったんだって……




綾波は、美名の身体を引き寄せ背中のファスナーを外した。



「悪いと思うなら……気持ち良くして貰おうか」



美名は真っ赤になり頷くと、身を屈め唇をそっと胸に押し当ててきた。


髪と柔らかな感触でこそばゆい。


ファスナーの外れた所から手を差し入れて撫でながら美名に身を任せる。


柔い唇は段々と下に降りて腹の近くで止まる。


美名の指が偶然猛りに触れると、刺激で身体が跳ねた。




「うっ……」



美名の頭を思わず掴むと、美名の身体がガクンと沈んで動かなくなった。



「?」




僅かに身体を起こして彼女を見ると、寝息を立て始めている。



「おい……マジか」



美名は腹の上に顔を埋め、気持ち良さそうだ。



「……冗談じゃないぞお前……こんな」



身体を揺すって起こそうかと手に力を込めたが、美名の頭をいとおしむ様に撫でた。


はち切れそうな獣は焦れているが、美名の眠った顔が可愛くて、そっとして置きたいと思ってしまった。



そっとベッドから降りて、美名の身体にシーツを掛けると、伸びをしてムニャムニャ何か呟いた。



やれやれ、と溜め息を吐いてベッドから離れ、隣の部屋へ行こうとドアノブに手をかけた時、小さな寝言が聞こえた。




「つよ……しさん」




それだけで、心が甘く満たされて、幸福な気持ちになった。



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