eyes to me~私を見て

ペコリーヌ☆パフェ

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別荘の二階のミシン部屋で桃子と由清は二人、翌日の衣装作りに余念がなかった。


意気込みは明らかに桃子の方が数段上だが。



白い着物に合わせる長襦袢を縫い上げて、桃子は達成感で万歳した。



「やった――!」

「……お疲れ様」


由清は眠そうに返事をしたが、桃子にハイタッチを強要されて、仕方なく両手を上げる。


ビターンと掌が合わさり、ビリビリ痛い位で由清は顔をしかめる。


だが桃子は手を離さずに、そのまま指を絡めて来て……
いわゆる"恋人繋ぎ"だ。

じっと瓶底眼鏡で見つめて来て、由清はぎょっとした。



由清は、ホストクラブの経験から女性の扱いは苦手ではなかったが、桃子の様なタイプは行動が読めない。


桃子の唇が何かを言いたそうにしている。


一体どう出てくるのか。
由清は身構えた。




「ねえ、アンソニー?」


突然愛らしい声を出す桃子に由清はドキリとする。



桃子は小さな手を由清の手に合わせたまま、揉むように指を動かした。



「……アンソニーて、メールは得意?」


「め、メール?
まあ、普通……じゃないかな、多分」


桃子は突然手をバッと離すと、部屋の隅までダダッと駆けていき、バッグを持って来た。


ガサゴソと中を探りスマホを出して由清に見せる。



「――これ、何て返事をしたらいいの?」


由清は画面を覗き込む。





『 桃子ちゃんへ☆


美名ちゃんの合宿に一緒に行くんだね。


確かに、男の中に美名ちゃん一人じゃ、心配だし美名ちゃんも心細いかも知れないよね……


でも、俺は正直桃子ちゃんの方が心配だよ。


絶対に、男と二人きりになっちゃダメだよ!
(*_*)危ないからね!



本当は、行くな、て言いたいけれど……


そういう訳にもいかないか。



根本 三広   』





「…………」


由清は目を丸くする。



「どんな風に返事したらいいのか、わかんなくて。私、男のひととメールするの初めてだし」


「え?マジで」


桃子は少し頬を染めて居る。

由清は感動を覚えていた。

こんな初(うぶ)な女の子が現代に居るなんて。これは素晴らしい事だ……!




「ん――ちなみに、これ、いつ来たメール?」


「合宿に行く前の日かな」

「え、ええ!?
そんなに放置してんの?」

桃子は頷く。

そして不安そうに呟いた。



「遅い……かな?今から返事じゃ」


「まあ、早くはないね……でも返事をしないよりは良いんじゃない?」


「でも、どうやって答えたらいいのかな……
行くな、て言われても私は来ちゃったし……
"来ちゃったけどごめんなさい"とか?」


由清はこめかみを押さえる。



(全然分かってないな、この子は。

この根本っていう奴がどんな思いでメールを打ったのか。

しかしまどろっこしい文章だな。

好きなら好きと言えば良いものを。

でもまあ……それが出来ればとっくに言ってるだろうしな)




「う――ん、今何時だっけ」


「9時35分」


「今の時間なら、寝てる事はないかもな……
じゃあ、今から俺が言う通りに打ってごらん」


「はいっ!師匠!お願い申し上げます!」


桃子は背筋を伸ばして敬礼した。

由清は思わず苦笑する。


(全く、何故俺がこんな事を……)



「今晩は」


「こ ん ば ん は」


桃子が画面を睨みながら指を動かす。



「返事遅くてごめんね。ここで何か絵文字」


「絵文字……」


桃子は何故か(-.-")凸
の絵文字を選ぶ。



「心配してくれて嬉しい。絵文字」



「しんぱいしてくれてうれしいo-_-)=○☆」



「戻ったら、何処かに連れてってね。
はい、ここでハートマーク」


桃子の動きが止まる。


「……連れてってって……私、何処に連れ去られるのっ?」


「いや、違うって」


桃子は赤くなったり青くなったりしながらスマホを持ったまま困惑している。




「えっと、桃子ちゃんはこの根本、て男を好きなんだよね?」


「す、すきぃ――!?」


甲高い叫びが夜の静かな別荘に響き渡る。


由清は桃子の口を塞ぐ。


「んが、んんんむ」


「し、静かに!誰か来る」

自分でそう言っておきながら、ん?と思った。

俺と桃子ちゃんは明日のイベントの準備をしているだけで、誰かがここに来ても困る事も疚しい事もない。

でも、誰にも今此処に踏み込んで欲しくない。

そう思っている。


何故?



「あ、あんしょに、わがっだがらばなしで……ぐるびい」


「あっ!ごめん」



由清が手を離すと、桃子はぷはーと息を吸い込んで、瓶底の眼鏡を外した。


「なんか、曇っちゃった~アンソニー、そこのティッシュ取って?」



眼鏡をかけていない桃子が由清を真っ直ぐに見る。



「――!」


由清は息を呑んだ。




由清はホストをしていて、綺麗な女性や洗練された女を数多く相手にしてきたが、桃子の様な剥き出しの美しい女を見たのは初めてだ。

桃子は化粧っ気もなく、いつもダボダボの乙女ゲーのキャラのシャツを着て引き摺る位に長い野暮ったいスカートを履いて、美名の妹だとは信じられないのだが、ある瞬間眩しく目に映る事がある。

食事を作っている時に味見をして、ふと見せる笑顔だとか、皆がスタジオで練習している時に、片隅で小さく座って見ているその姿だとか、上手く言えないが、何気ないふとした瞬間なのだ。


そして、今桃子の可憐な素顔を見た由清は間違いなく止めを刺されたのだ。





「アンソニー?」


由清は我に返って、ティッシュを差し出すが、手が触れあって心臓がウサギの様に跳ねた。



レンズを拭くと、桃子はまたいつもの瓶底眼鏡女になる。


だが、由清の目にはもう『可愛くてたまらない』
フィルターが装着された為、もはや眩しくて正面から見れない。



「あ――そうだ。せっかくメールするから写メにしよう!」


桃子ははしゃぐ。


(そんなに、そいつにメールするのが楽しいのか……)

由清は凹みながらも、楽しそうにする桃子に何も言えずに居た。



「写メも送るの初めてなんだ」


「そうなの?」


「アンソニー教えて?」


由清はスマホの画面を見て桃子に教える。



「ここを、こうしてこれを押せば撮れるよ」


「あ――成る程!
そうだ!流行りの自撮りしようかな!」


「ああ、確かに一部では流行りだね……」




「アンソニー、こっち寄って!」


「え?」


戸惑いながら、由清は桃子に顔を寄せて画面に向かってピースした。

もう条件反射みたいな物だ。



「え――と、ここで見るんだね。あ、撮れてる撮れてる!
アンソニー、カッコイ――」


無邪気に"カッコいい"と言われて、由清は内心浮かれた。



「この写真にさっきの文章をつけて――
送信――でゃあ――!」



「えっ?
今の写真を送ったの?」



由清は慌てたが桃子はキョトンとしている。



「え?うん。良く撮れてたし」


由清は絶句した。


……これは、まるでその男に俺が宣戦布告したみたいじゃないか……

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