eyes to me~私を見て

ペコリーヌ☆パフェ

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波乱のミュージックスタイル③

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「プリキーさん、お願いしま――す」



スタッフの声が飛ぶ。



「は――い!」
「はい!」
「おうっ!」



演奏スペースで、それぞれの立ち位置で三人が同時に返事をする。



美名は志村が贈ってくれた白がベースの、銀色の蝶がワンポイントで描かれたエレキを肩に下げ、軽くつま弾いた。


――いい音がする。
この形にしても、自分の腕の中でしっくりと収まる様な……

合宿の時に言った言葉通り、志村は美名の為に世界でただ一つの楽器を作ってくれていた。


たまらなく嬉しいし、勿体ないとも思う。


(このギターと、自分の声でこれから勝負していくんだ……)


美名は、唇を結びスタジオの天井のおびただしい数のライトを見上げた。


光を浴びて……正に脚光を浴びて、その中で演奏出来る。


なんて幸せな事だろうか。









一人のスタッフが台本を手にやって来て、テレビサイズで演奏される曲の流れを確認して行く。


「……カメラワークの関係がありますので、この辺からここら辺の間で動いて下さい」


「はあ―ん!?
そんなの関係ねぇ――!俺は動きたい様にバキバキやらせて貰うぜ――!ジャンプでも側転でもやってやらあ――!」


「真理……
スタッフさんを困らせるなよ」


「困らせてね――よ!
ただ自己の主張をだな」


「それが困らせてるって言うんだってば」



キャンキャン言い合って居ると、照明スタッフがやって来て、スタッフ同士で何やら二言三言、言葉をかわすと台本を丸めて溜め息混じりに言った。



「――すいません、ちょっと照明の方と演出の擦り合わせをしますので……五分位お待ち下さい」




「はあ――いよ――」


真理が元気に返事をした。







「ねえ……真理くん」



「うん?何だねっ?」



美名がチラリと見て呼び掛けると脱兎の如く駆け寄ってきた。



「この間提案した件だけど……あれ、やっぱりやりたいな……」



美名が遠慮がちに首を傾げて言うが、真理の目の色が変わり、ブンブンと首を振る。



「いやいやいや……
あの案はだな……
ちょっと……俺は」



「……ダメ?」



少し唇を尖らせて哀願する様に見つめられ、真理は一瞬グッと詰まるが、目をギュウと閉じて、やはり大きく首を振った。


「俺は……
俺はカッコいいロックのリズムを刻むベーシストなんだ――!
"キメ"のポーズやら、可愛らしいダンスなんて断じてやらねえ――!」



「真理……
見せる演出も視聴者を掴むのには必要な事だよ」



由清が冷静に言う。








真理はムッとして、由清に詰め寄る。



「……何だよ何だよっエラソーに!
お前はリーダーか何かかよっ」



「うん。
志村さんにリーダーに任命されたからね。
俺がリーダーだよ」



サラリという由清の言葉に真理は色を失う。



「なっ……な――んだって!?俺は何も聞いてないぜ――!」



「まあまあ」



噛みつかんばかりに顔を近付けて怒鳴る真理の口撃を、スティッキを構えて塞き止める。



「――まあまあ、じゃねーよ!
お前、最近随分と超然としてるじゃんかよー!
か――っ気に入らねえ――!」



「じゃあ、真理がリーダーやってくれるの?
……真理には向いてないと思うけどね、俺は」


「何だって――!?この――!」



真理は由清の頬を思いきり掴み引っ張るが、由清も負けじとやり返す。


二人は痛みに耐え睨み合い、つねり合う。





「ふ……二人とも……止めなさいよ……」



美名が困り果てていると、笑顔の西野が近付いて来た。



「……未菜……ちゃん?」


美名は思わず身構える。









「はい、どうぞ」



未菜はニッコリ笑って、強引に手を取るとその中に飴を握らせた。



手の中の小さな袋を呆然と見つめ、やっとの思いで


「ありがとう……」


と言うが、先程の志村の言葉が頭に響く。



『西野未菜の意地の悪さは業界では有名よ』



改めて西野の可愛らしく整った顔形を見るが、美名にはその中に悪どい物を見出だす事が出来ない。



「それね、良く声を使う人用の飴なのよ?
……あ、私、大阪のオバチャンじゃないからね?アハハ」



屈託なく笑う西野につられて美名も笑ってしまうが、胸の中は複雑だった。



東京に出てきて翔大に出会い別れた後、色んな男性と深い仲にはなったが、皆何かしら嘘をついていた。

芸能関係者と偽ったり、或いは他にも恋人が居たり……



(私には、そういう人を見抜くアンテナが備わって居ないのかもしれない……)








「スタッフさんの話、まだ終わらないみたいねぇ……私のリハも、こんな感じで長引いたわよ」


スタッフ達は難しい顔をして何やらまだ言い合っていた。

それを良い事に、西野は去る様子はない。

このまま、なしくずし的に会話を続けたらまた流されてしまう様な気がするが、拒否のしようもない。


困って真理達に視線を送るが、二人のつねり合いは首の絞め合いに発展していて、こちらの様子は全く目に入っていないようだ。



「……美名ちゃんのマネージャーさん……」



「――えっ?」



「凄く格好いい人だよね――?
クレッシェンドのマネージャーしてた人でしょ?」


「う……うん」



心臓がバクンと鳴る。

西野は、一体何を言おうとしているのか分かりかねた。

只の世間話なのか、それとも……









西野の可憐な唇が嬉しそうに両端が上がって何かを言おうとしているのがわかったが、何故か美名は恐ろしさを感じた。



(分からないけど……
聞きたくない……)



耳を思わず塞ぎそうになった時に、遠くから手を振る髑髏川達の姿が見え、一瞬安堵する。


気がつけば、志村もその中に居て、こちらを見守っていた。



それだけで、恐ろしさが大分和らいだ様な気がして、溜め息を付く。


しかし、目の前の西野の凍てつく様な眼差しが美名を刺し、息を呑んだ。








西野は一転、花の様に顔を綻ばせた。



「でも……
ちょっと耳に入ったんだけど……
今危ない……んですって?
大変ねえ……
デビューしたばかりの大事な時に……」




自分の心臓が嫌な音を立てる。



西野は、美名に同情の眼差しを向けて続けた。




「何でも……高い所から……落ちた人を助けた……とか……
無茶な事をするわよねえ……」



「――――!」



美名の身体がグラリと揺れ、その場にへたりこんでしまう。




「あらら、大丈夫?」



西野が身を屈めて上から見下ろしてくるが、美名は、その底の見えない瞳の色にゾッとしてしまった。




「――美名ちゃんっ!どうしたの?」




異変に気付いた志村と髑髏川達が駆けてくるのを見て、西野はフンと鼻を鳴らすと、華やかな笑みを浮かべて踵を反す。



志村が美名を抱き起こしながら、真理達に怒鳴った。



「こらぁ!
プリキーの男子!
美名ちゃんを放って何をじゃれてんの――!」








髪を掴み合って居た二人は、ギョッとして志村を見るが、ようやく不穏な空気を察したようだ。



「――美名ちゃんに、何か用事でしたか?」


由清が険のある声で呼び止めると、西野はゆっくり振り返り一同を見つめた。



「おいっ!
このぶりっ子女!
美名を苛めたらスカート捲って縛ってチューリップにしてお尻ペンペンするからな――っ!」



真理が鼻の穴前開で憤る。



「何?何?どしたの?」


暗黒が黒い顔をキョロキョロさせた。



西野の口が一瞬歪む。


「酷いわあ……
ただ、マネージャーさん、お大事にねってお見舞い申し上げただけですよう~!
……意識が戻っても、何か後遺症とか無いと良いですね……」



「――!」



志村に支えられた美名の身体がビクリと震える。








志村がそれを察すると、庇う様に強く胸に美名を引き寄せた。



「……あなた……
随分と縁起が宜しくない事を言うのねえ……
言葉には気を付けなさいよ?」



その静かな口調から、抑えた怒りが感じ取れた。



西野は、口を手で覆いあっと小さく叫ぶと、瞳を潤ませた。



「……私、ただ心配で……美名ちゃんを元気付けようとしただけなんです……
言葉が悪かったなら謝ります……っ」




「良く言うなあこのアマ――!」



真理が拳を固めて一歩踏み出した時、スタッフの声が飛ぶ。



「お待たせしました――!プリキーさん、リハ始めます――!」



西野は真理から顔を逸らし、ヒールの音を響かせて背を向けて歩き出すが、ふと振り返り一言美名に放つ。




「……大変だけど頑張ってね……?
私……応援してるから」



その言葉の裏に含まれた凄まじい黒い物を美名もまざまざと感じ取り、背中に冷たい物が走った。









「未菜ちゃ――ん!待ってよ――!」


暗黒が西野の後ろを追い掛けて行く。


「全く……暗黒は、ああいうタイプが好きなんです……
止めとけよ、ていつも俺は言うんですけどね……
美名ちゃん、大丈夫?」


髑髏川は走り去る暗黒を呆れて見ていたが、まだ震えている美名に声をかけた。



「プリキーさん?始めてくれませんか?」


「――はい!
すいません今!」



スタッフの声に、代わりに志村が返事をする。



真理と由清もスタンバイしながら、美名を心配して見ている。



美名は目を閉じて深呼吸を何回かすると、志村の胸から離れた。






「美名ちゃん……
大丈夫よ……
綾波くんはきっと大丈夫……」


志村の大きな掌が髪を撫でた。




「……はい……」



美名は、少し青ざめて居たが笑顔で頷くと、ギターを肩に下げてスタンドマイクの場所まで行き、真っ直ぐに顔を上げて凛とした声を出した。



「お待たせしてすいませんでした!始めて下さい!」









「美名ちゃん……」


志村が固唾を飲み見守る中、由清がカウントを叫び、リズミカルなドラムから演奏が始まった。



重なる様に真理のベース、美名のギターの音が加わり、キャッチーな愛らしい前奏がスタジオに響く。



髑髏川や、豚彦、瞬は曲に乗り足でリズムを取っている。




美名は片手でスタンドマイクを握り口元に引き寄せ最初の一節を歌おうとしたが、顔色が真っ白になり、喉を指で押さえた。



「――――」



真理と由清が怪訝な顔をして見る。



美名は、ギターを弾きながらメロディーを歌おうと口を開くが、ヒューヒューという空気が鳴るだけだった。



「美名ちゃん……!」



志村が拳を握り締める。


スタジオの中のスタッフや他出演者がざわめく中、プリキーは最後まで演奏をした。


だが、美名の歌声が響く事はなかった。










最後のフレーズを弾ききった時、美名はギターを抱き締めたままで座り込んだ。



真理と由清が駆け寄る。



「美名――!どうしたんだよ」


真理が腕を揺さぶるが、美名は真っ白い顔をして震えていた。



声を発しようと口を動かすが、ヒューヒューと虚しく息が漏れるだけだった。



美名は、自分の喉元を両手で触れて呆然と宙を見つめた。








(声が……
……声が出ない――!)





不穏なざわめきの中で、物影から西野が薄く笑って美名を見つめていた。




「いい気味だわ……
そのまま潰れてしまえばいいのよ……
ウフフフ……ハハハ」










―――――――――――

卵形の加湿器から象の鼻の様に伸びた太い管を握り、口を大きく開けて宛てがう。
シュワシュワとという音と共に、白い蒸気が天井に向かい立ち上っていく。


リハーサルで歌おうとした時から突然声が出なくなってしまった美名は、髑髏川が貸してくれた加湿器で喉のケアをしていた。



真理と由清は、どう声を掛けて良いのか分からずに、ひたすら喉の加湿をする美名の背中を見つめていた。



志村とペコと堺は自販機の休憩コーナーで難しい顔を付き合わせて居た。



「はあ……
まさか、こんな事になるなんて……」



志村は頭を抱えている。



「志村さんらしくないわ。諦めたらダメよ……
何か方法を考えましょうよ」



ペコは腕を組みながらコーヒーを啜る。



「方法……てまさか」



堺が優しい目元を曇らせせた。










「口パク……かしら……トークを無しにして貰って……」



志村が大きく溜め息を吐いた。




「そんな……」



堺が両手を組む力を込める。




「でも、声が出ない状態では止むを得ないわよね……
私、ヤモリさんに相談してくるわ」



志村は椅子から立ち上がると休憩室から出て行く。



残された二人は壁の時計を睨む。




「本番まで……2時間ね」


「やっぱり……
綾波さんの事がかなりショックなんですよね……」


堺が声を落とす。


あのパーティで、自分が異変に気づいていれば、とやはり考えずには居られなかった。


ペコの手が肩を叩いてくる。


「堺ちゃんが今考えてる事、よ――く分かるわよ。
それについては皆が責任を感じてる……
私も含めてね……
それに私が色んな事実をカミングアウトしちゃったから……
美名ちゃんには、やっぱりきつかったかしら……」










堺がペコを睨む。


「……そりゃあそうですよ……
天賦の才があるとは言っても、美名さんは普通の女の子なんです……
もし、このまま立ち直れなくなったら……」



「ああ……
堺ちゃんがそんな怖い顔をするなんて、年に一度位よね。
ハイハイ。私も悪かったわよ……
でも、いずれ本人の耳に入る事だしね。
……にしても西野未菜……胸くそ悪い小娘ね……あの娘、気に入らない者には色んな手を使って陥れようとするわよ……
これから何をしてくるか……」



ペコは空になった紙コップをくしゃりと手の中で潰す。



「……大室さんの次は、西野未菜……か」



堺はこめかみを押さえる。



「ねえ……堺ちゃん。
ちょっと、美名ちゃんの為に一仕事しましょうか」


ペコの眼鏡の中の目が悪い輝きを帯びている。



「ペコさんこそ珍しいですね。
本気でお怒りなようで」



堺が目尻を下げて笑うと、ペコとハイタッチした。



「何でもやりますよ。
……僕も同じ気持ちですから」




二人はニヤリと笑い合った。





――――――











志村はプリキーの楽屋の前で深い深い溜め息を吐いた。


中へ入ったら、溜め息など付いてはならない。


美名は、一時的に声は出なくなってしまったが、その瞳には力が宿っていた。


筆談で、「志村さん、心配しないで」
と書いて寄越したのだ。


そんな美名をボンバーダイアモンドのメンバーが心配して



「効けばいいけれど……」と、髑髏川が加湿器を持ってきてくれたが、それにも笑顔で応対していた。


心無い嫌がらせに傷ついただろうに、健気に笑顔を見せる美名に胸が痛くなった。








(あの子は、皆が自分に向ける優しさを良く分かっているんだわ……
今日の出演だって、重大なチャンスな事はプリキーの誰よりも理解してる……
何とかしよう頑張ってる……だから、私が溜め息をついたらダメよ)



ヤモリに事情を話した志村だが、ヤモリには一言

『口パクはダメだよ……
今からその辺の変更は悪いけど物理的に無理だねえ』


とはっきり言われたのだ。




『でも……そこを何とかなりませんか?』




『う――ん……
でもさ、あの子は口パクでやりたがってるのかい?』



『……』



『あの子も曲がりなりに歌い手なら、どんな状況でも自分の声で勝負したい筈だよ。
……大丈夫、予定通りでやるよ』



『大丈夫……て』



『いや、もし声が出ないなら出ないなりに俺が後でフォローする。
……それに、正直もしそうなったらなったで、話題になるじゃない』



ヤモリは平然と言った。










何十年と芸能界の第一線で活躍し、司会を極めてきたヤモリは、今夜の放送で何かが起こる事を予感していた。



これは勘としか言い様がない。


生放送、しかも音楽の演奏の生はただでさえチャレンジな所があるのだ。


どんなに入念なリハーサルをしていても、熟練した演奏者でも、突発的な機材トラブルはいつ襲うか予測不可能なのだ。


突然楽器の音が鳴らなくなったりもするし、特に美名の様に歌い手が不調で声が出なくなる等の事象は今までにも経験した事がある。



そして、その後の視聴者の反響は凄いものがある。

人々は、予め決められた筋書きのエンターテイメントを楽しんでくれるが、時には予定外のドラマを見たがる物なのだ。






――――――









「はあ~……て、また溜め息をついちゃったわ」



志村は苦笑した。

変更が無理ならそれはもう仕方がない。

どんな結果になっても、美名を支えてやらなくては。


深呼吸してドアノブに手をかけた時に、中から賑やかな笑い声が聞こえてきた。


そっと開けると、珍しく、由清が高笑いしている。



「おう!オッサン!
これ見てくれよ!」



楽屋の隅では、由清が息も絶え絶えに腹を抱えて悶絶している。


美名は喉にスカーフを巻いた姿で、真理を見てニコニコ笑っていた。



その顔を見て、志村は胸を撫で下ろす。



(良かった……美名ちゃんはうちひしがれては居ないわ)










真理が大真面目な顔でその場でコミカルなステップを踏み、ターンを決めた。



「ヒャーッハハハ!ダメだよ……もう止めて……」


由清が涙を流して壁に凭れながらバンバンと叩く。



「オイッ!澄ました面で
"演出は大切だよ"
とか言ったのはお前だろうが!
俺の本気ダンスを笑うとは何事だよ!」




真理は怒鳴りながら、尚も可愛い動きを続ける。


美名は手を叩いて喜んでいた。



由清は、息を必死に整えながら志村に説明する。


「せっかくテレビですから、動きがあった方がいいねって話になって……
キメのダンスをしながら演奏しようか、て案があったんですけど真理がなかなか"うん"て言ってくれなくて……ブブッ」



由清は真理と目が合い、また吹き出している。







「全く!失礼な奴だな――!真剣に取り組む人間を笑うたあ、お前の根性は峠の急カーブ位にひん曲がっているのではないのかい?えっ!?」



真理は最後にジャンプを決めると、美名の方にニカッと笑いかけた。



美名は言葉ではなく、拍手と笑顔で称賛をした。


真理の目尻が下がる。



「この調子でやったるぜ――!イェイ!」



高らかに叫ぶ真理の頭を志村はギュウと抱き締めた。




「んぎっ!……オッサン……離せ、離せ――!」



「真理くん――!
頼むわよ――!
……由清くんは、本番では笑いを堪えてね?」



「は……はいっ……ひっ」


由清は笑いで震えながら返事をした。










志村は真理の頭を掴んだまま、美名を見た。


美名はノート程の大きさのホワイトボードにペンで



「 最高のパフォーマンスをします!」



と書いて見せた。



志村はその強い決意を秘めた瞳を見て、今は何の激励の言葉をかけるより、ただ黙って笑顔で見守る事が一番大事だ、と思った。



真理を離すと、志村は美名を包み込む様に抱き締めた。



いきなり放り出された真理はバランスを崩しフラフラして由清の方へ倒れ込む。



「うわ――な、何だよ真理――っ」


「お前こそ何だよっその露骨な拒否反応は――!
人がふらついたらちょ――っと支える位してくれてもいいだろうが!」


「わ――!分かったから離して――」



ギャアギャア騒ぐ二人をよそに、美名は志村の目を見て力強く頷いた。



(……決めたの。
もう……何があっても、負けない……
剛さんの……とびきりの歌姫に私はなるんだから……)




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