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歌姫降臨②
しおりを挟むテレビ画面にプリキーの三人がステージに立つ姿が映った瞬間、由清のパワフルなドラムが鳴り、同時に美名が良く通る、何処から出しているのか?と思わせる、しかし決して不快で無い不思議な耳に馴染む長い長いシャウトを決めた。
一気に会場の客やスタッフ、出演者達はプリキーのステージに魂ごと引き込まれてしまう。
「キャアア――!お姉ちゃ――ん!」
「美名さ――ん!由清さ――ん!真理――!」
静岡では、慌てて風呂から出てきた桃子とマイカが、バスタオルを身体に巻いたままでテレビの前で跳び跳ねていた。
「キタ――!」
「美名ちゃ――ん」
病室でも、三広と亮介が狂喜して拳を振り上げる。
画面に美名の姿が映し出されてその声が響いた瞬間、綾波の身体中に鳥肌が立った。
(――これだ……
この感覚……
俺が代々木公園で初めて美名を見付けた時に感じた……)
長い髪を愛らしいツインテールに結わえ、可憐なミニドレスを纏う姿と、ギターを力強く掻き鳴らす勇ましさとのアンバランスが強烈に視聴者の興味を引くだろう。
綾波自身も画面の中の歌姫に見とれていた。
「全く……
どれだけ俺を惚れさせるんだお前は……」
思わず苦笑いをしてしまう。
眠そうにしていた野村も取り憑かれた様に見入って、祐樹も真剣な眼差しでプリキーのパフォーマンスを見て、いつの間にか指がピアノを奏でる様に踊っている。
これは、ノっている時の祐樹の癖だ。
菊野は嬉しそうに隣で覚えたてのメロディーを口ずさんでいる。
「美名……
最高だぞ……」
綾波はこれ以上は無い位の笑顔で呟いた。
『小さくて 真ん丸な
紅い一粒の cherry
泡立つ PINKに放り投げた
ユラユラ ユラユラ
揺れて
翻弄されて 貴方の瞳の中
揺れて 』
美名は複雑なリードギターのフレーズを楽々と弾きながらポップに可愛らしく歌い上げ、ウインクをした。
会場の客達は、出だしのAメロで早くも総立ちとなり手拍子が起こる。
「揺れてっ♪」
後ろで見ているペコと堺もノリノリで腕を振り上げていた。
「最高じゃないですか――!」
「流石は堺ちゃんの惚れ込んだ歌姫ね――!」
観覧客達やスタッフも皆目を輝かせてプリキーのステージを真っ直ぐに見ていた。
「うぁ――!美名ちゃ――ん!」
「スゲーぞー!」
ボンバーのメンバーが、スタジオの隅でマッチョなレスラー達と肩を組みながら歌い踊る姿がテレビで映し出される。
ヤモリも頬を綻ばせながら立ってダンスを始めた。
隣で困惑する水野アナの手を取り、一緒に踊り始めるとスタジオが湧いた。
「いや――楽しいね!
生放送やってこんなに楽しいのは久々だと思わない?水野ちゃん?」
「は、はい……そうですね……きゃあっ」
水野はヤモリに高々と抱えられてクルクル回される。
志村も負けじと身体中を揺らし踊っていた。
「んも――なにこれ!楽しすぎるわ――!」
出演者達までもが皆立ち上がり拍手と声援を送る中、西野は一人顔を強ばらせていた。
(……何よ……
皆して……
あんなの……ただ物珍しくてウケてるだけじゃない!)
歯を食い縛った時、カメラが向けられているのに気が付くとハッとして笑顔を作り手拍子をした。
その頃、翔大もマンションの明かりを消した部屋でテレビを見つめていた。
光り輝いている自分のかつての恋人に、心からの祝福を言いたかった。
だが、身勝手な欲望で美名を踏みにじり、その笑顔にヒビを入れてしまったのは他ならぬ自分なのだ。
(もう、俺には美名に何も言う資格はない――)
溜め息をついてビールを煽った時、スマホが鳴った。
「もしもし……
ああ、大室さんですか……はい……ええ。
例の話……受けさせて頂きます」
翔大の目は、遠い何処かを見据えていたが、強い光を放っていた。
――――
由清が変則的なリズムを鮮やかに刻みスティッキを回しながらスネアを叩くと会場から歓声が湧く。
真理は小難しい顔をしながら横に揺れる可愛いステップを踏み、手元は忙しく正確にベースラインをなぞる。
美名とぴったりな動きでファニーなダンスをする姿はお茶の間の笑いを誘っていた。
「何よこれ――!
真理……!すっごい怖い顔してこんな可愛いダンスとか!アハハハ」
「真理さん素敵――!……っくしゅん!」
桃子とマイカは、夢中になってまだ着替えていない事に気が付き、顔を見合わせて笑い転げた。
『シュワ シュワ
パチ パチ 弾けて飛んで
貴方の隙のない
真っ白なシャツを
PINKに染めてあげる』
プリキーが演奏する中、スタッフが
"終了一分半前です"
と書かれたカンペを出しているのを見て、美名は歌いながら出演者達の方へ走り寄り、一緒にステージへ来るように煽った。
「イェ――イ!皆さん一緒に踊りましょう――!」
「お――!」
髑髏川達が真っ先にステージに躍り出ると、ヤモリと水野アナも出ていった。
やがて他の出演者達もステージに勢揃いし、会場は熱狂する。
『何処かへ
行ってしまいそうな
その背中
憎たらしくて
(I miss you)
繋ぎ止めたくて
(I want you)
大好きなんだから 』
大サビでは、出演者達が皆肩を組んで笑顔で歌って、会場からも大合唱が起こっていた。
『sure! sure!
power! power!
弾けて飛んで
澄ました唇も
たちまち 夢中になる
もう離れられない
恋するcherry soda』
由清はスネアとシンバルを交互に高速で鳴らし、バスドラを唸らせ、真理はステージを縦横無尽に飛び回りながらクライマックスに向かいベースを鳴らす。
美名がギターをかき鳴らしながらの高い長いシャウトをして、ジャンプを決めた瞬間演奏は終わった。
一瞬静寂に包まれた会場は次の瞬間には轟音の様な歓声と拍手で一杯になった。
「はい、番組終了で――す!」
スタッフの声が飛ぶと、プリキーの三人は手を握りあい跳び跳ねた。
「やった――!」
「スゲーぞ!」
「最高だったな――!」
「美名ちゃ――ん!由清く――ん!真理――!」
志村が両手を広げて走り寄り、美名を抱き上げて三回転する。
「んも――!よかった、本当に良かったわ――!」
「あ、ありがとうございます……志村さんのお陰です」
「オッサン!どうだ今日の俺のダンスは?」
よろける美名を、真理が支えた。
「う――ん、八十五点くらいかしらねえ」
「何だよ――満点をくれよ――!」
「由清君はそうねえ、文句なしの花丸よ――!ブッチュウウ」
由清は志村に熱烈なキスをされて目を回した。
「いやいやお見事!」
ヤモリが手を叩きながらやって来る。
「ヤモリさん……
本当にありがとうございました……何て御礼を言ったら……」
美名が目を潤ませると、ヤモリはニッコリ笑い耳打ちする。
「御礼なら……今度ライヴに招待してね?」
「は、はい!
ありがとうございました!」
頭を深々と下げる美名に笑い、ヤモリはスタッフ達に労をねぎらいながら楽屋に引き上げて行った。
「ヤモリさ――ん!
今度お食事行きましょうね――!ワインも込みで!」
志村が後ろ姿に向かい叫ぶと、後ろ手を振って返す。
「いや――
男は黙ってナントカカントカだよな――!
かっちょえ――!」
真理がヤモリの後ろ姿に溜め息を付いた。
「そうね――!
真理君はもうちょっと黙ってた方がいいかもね――!ホホホ」
志村はようやく由清を解放する。
「ゲホッゲホッ……
と、とにかく、終わりましたね」
「いいえ!これからよ――!?オホホ」
ペコと堺がやって来てスマホを見せる。
「ツイッターではプリキー祭りですよ!見て下さい」
堺が興奮してツイートを読み上げる。
「 "princes & junky、期待以上!"
"初め出てきた時、女の子がおかしくなっちゃった?て心配になったけど
まさかのトリ!
あれは演出?(○_○)!!"
"ミュージックスタイルに天使が現れたかと思った"
"プリキー良かったから今から密林でCDポチってくるわ"
"プリキーのライヴ行きたい!"
"なんだあれ可愛すぎる!かっこよすぎ"
"今夜はプリキー祭り――!"
"歌姫降臨!\(^o^)/"
……まだまだありますね……」
三人は目を丸くして口をポカンと開けた。
「呆けてる場合じゃないわよ!
これからガンガン忙しくなるわよ――!」
志村が小躍りする。
「美名ちゃ――ん!皆――!」
髑髏川達が手を振りながらやって来た。
「撤収したら、出演者で打ち上げやるけど来ない?」
「あ……は、はい」
「さ――!行こう行こう――!
美名ちゃん、お酒得意かい――?」
暗黒が美名の手を握りしめて歩き出すと、真理のパンチが飛ぶ。
「アンコ――!
セクハラすんな!」
「セクハラなんて酷いっ!俺はただ親交を深めようと」
「その怪しい黒い顔がまず気に入らねえ――!
素顔を見せろってんだ――!」
「やだーん、えっち――!」
「なっ……何故そうなる――!」
「私……ちょっと楽屋に寄ってきます」
ワイワイ賑やかな中、美名は楽屋に戻り、スマホを見ると綾波からメールが来ていた。
美名の心臓が跳ねる。
逸る気持ちのままに、指で触れて文字を読む。
『最高に可愛くて綺麗な歌姫。
今すぐお前を抱き締めたい。
……なんてな。
冗談だ。
いや、本音は、これ以上の事を俺は思っているぞ。
よく頑張ったな、偉いぞ。
今夜はゆっくり休めよ』
途端に、涙が溢れて身体が熱く震え出した。
「美名――?
皆外で待ってるぞ」
真理が顔を出すと、美名は涙を拭った。
「真理くん……
私、今日は行けない……」
「えっ?」
「剛さんのところへ……行かなくちゃ」
「……」
美名の瞳には、もう不安定な危うさは微塵も無かった。
頬は薔薇色に染まり、唇も艶めいて、恋に燃える女の様その物だった。
(――ああ、やっぱ、俺は失恋確定だよな――)
真理は、フッと笑うと美名の手を握り締めて歩き出す。
「真理くん――?」
早足で強引に美名を引っ張り、スタジオを出て表通りで右手を上げて叫ぶ。
「タクシ――――!」
一台のタクシ―が目の前に停まり、後部座席が開いた。
真理は押し込む様に美名を乗せ、ドアを閉めた。
「行ってこい!
皆にはテキトーに言っておくから!」
「真理くん……」
美名が何か言いかけたが、タクシ―は走り出し、あっという間に闇の中へと消えた。
「は――っ。行っちまったよ」
真理がやれやれ、と肩を竦めると、後ろから暗黒が飛び付いてきた。
「真理――!こんな所にいた――!
さあ行こうぜ――!」
「オイッ!離れんか!俺は君のパパでもなんでもないんだぜ――!」
「パパ!?
いーなあそれ!真理がパパ――!ギャハハ」
「全く……野郎に抱きつかれても何にも楽しくねーよ!」
二人がスタジオの中へ入って行くのを、路肩に停めてある一台の黒い車の中から西野が見ていた。
「許せない……
美名……っ
……見てなさい……
今に尻尾を掴んでやる……」
強く噛んだ指から血が滲んだ。
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