Vの秘密

花柳 都子

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開かずの自動ドアの怪(仮)

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【八ツ森雫の備忘録②/お客様アンケートより】

 ◽️X県行方不明スポットの近く
 ◽️現在は地元密着のスーパー
 ◽️自動ドアが開かないことで有名
 ◽️蹴られるなどして月一回は破損
 ◽️お客様アンケートでの苦情が絶えない

 以下、スーパー店長のインタビュー文字起こし

 心霊現象なんて大げさですよ。
 確かに地元の若い子たちなんかは騒ぎますけどね。でも、うちは彼らの親、もっと言えばおじいちゃんおばあちゃんが主な客層です。若い子はほとんど帰り道の冷やかしみたいなもので、買い物なんて滅多にしません。メインターゲットのお客様がせいぜい子どもの間で流行ってる都市伝説か何かだと解釈してくれれば、実質無害なんですよ。
 ──って言っても、お客様アンケートではよく『自動ドアが開かない』だの『センサーが悪い』だの、『手動に変えろ』だのと、まぁ……厳しいお言葉をいただきます。
 え?対策はしてないか、って?
 そりゃしてますよ。でも、自動だろうが手動だろうが、んです。
 センサーだって業者に何度も点検してもらいましたよ、もちろん毎回異常なしです。
 自動でも手動でも変わらないなら、うちのメインターゲットであるご高齢の方が少しでもご苦労なく開けられる自動ドアにしてあるんです。
 ──まぁ、開かないんですけどね。自動なのに。
 原因ですか、さあ、私にはわかりません。
 先代から受け継いだのはつい最近のことで、実はそれまでもそういった類のクレーム──ご意見はありましたよ。でも、先代はそれには触れず、『何か言われても、対応しておきます、で乗り切れる』と断言するものですから、言いつけ通りそうしてます。
 大きな声では言えませんが、年々売り上げは落ちています。そりゃこんな小さな町で創業50年、いや、前身時代も含めればもう100年近くになりますから、これだけ保てば御の字ですよ。(※スーパーの前は個人店で、町の小さな売店だった)
 だから、思い切って私の代で全く別の店に変えるか、もっと立地のいいところを探して移転するか、考えてるんです。──あぁ、これはオフレコでお願いしますよ。村の人たちに知られると面倒なんで。
 どういうことかって?
 まぁ、村の人たちにとって歩いてでも買い物に来られるこの場所は、『なくなったら困る』というただそれだけの理由で生き残ってきたに過ぎません。
 ですが、今の時代、いくら高齢社会って言ったって、生活の中心は車を持っている30代から60代くらいまでです。ここより少し便利な町まで出るにはカーブ続きの道をしばらく行かないといけませんし、バスや電車だって重い荷物を持って何時間も待つのは効率が悪すぎる。高齢の方の為にあるようなこの店は、高齢の方=買い物する必要のない人になったらもはや用済みでしょう。
 ですから、店としてもこれ以上の収益が見込めない上、出費だけはどんどん増えて、もう維持するだけでも大変なんですよ。
 今だって、自動ドアが開かないのなんのって蹴られて壊されてしまうことだってあるくらいなんですから。
 犯人?さあねぇ……最初はご高齢の方かと思いましたが、そんなに蹴る力があるとも思えませんし。開かないから蹴るという方程式なら、店に入っていないお客様のはずですから、現行犯として確認するしか犯人を特定する方法はありません。だからといって、ずっと見張ってるわけにはいきませんし。監視カメラ?あぁ、あれはダミーです。録画もしてないし、監視すらしてません。自動ドアの修理費は少なくとも月一回以上です。監視カメラの維持費なんてその修理費に全部持っていかれてしまいますから。
 まぁ、別に誰でもいいんですよ、そんなことは。
 お客様アンケート?匿名ですし、参考にしていただく程度なら構いませんよ。そもそも年に何度かはお客様に公開しているものですし。
 自動ドアのことはその時必ずひとつは取り上げます。それもできるだけ過激なのを。先代からそうしろと言われたのもありますが、過激な意見に対応しておけば、『あんな言い分でも聞いてくれるんだ』と良い印象を与えられる気がしているので。
 ご高齢の方がメインターゲットな上に、入れない人がいるのに、なぜ存続できているのか?はは、確かに失礼なこと聞きますね。いやいや、ごもっともです。うちは商品の単価も安めに設定してありますし、立地も良いとは言えない。絶え間なくお客様がいらっしゃるような店では本来ないでしょうから、そんな雀の涙ほどの収益でやっていけるのか、というのは至極当然の疑問だと思います。
 先代からは「それでも続けていかにゃならん」と言われてるんですけど、私はそういう村のしがらみみたいなものは現代的じゃないと思っていますし、今後先細りする未来しか見えませんから、なんというか、義務感?使命感?というものはあまりなくて。
 どういうことか、って?詳しくは言えません。というか、私もよくは知りませんから。でも、少なくとも私たち店側の一存で撤退するかどうかを決めてはならないということらしいです。──馬鹿らしいですよね。
 はい?お店に入れない人がなぜアンケートを書けるか?あぁそれはですね、うち、見ての通りドアがふたつあるんです。風除室──都会の人は馴染みありませんよね──の扉は風が強かったり雪が降ったり、寒い日以外は開けっ放しにしてます。お客様アンケートのボックスは風除室に置いてあるので、自動ドアに阻まれたお客様が腹いせに書いていかれるんでしょう。
 自動ドアも開けておけばいい?そりゃ私だってそうしましたよ、でも閉まっちゃうんです。しかも割れそうな勢いで。蹴られるのと、割られるの、どちらも困りますけど、割れるほうが後始末が大変ですからね。試しはしましたけど、すぐにやめました。
 お客様アンケートで他に気になることですか?うーん、まぁいろいろありますけど……あぁそういえば、ずっと不思議に思ってたことがあるんです。
 ほら、こういうの。入れなかった人じゃなく、明らかにからのご意見です。
 『リウマチがひどくなった気がする』だの、『おばあちゃんの元気がない』だの、『寒くてたまらない』だのって。いや、知りませんよ。さっきも言いましたけど匿名ですから、この人たちが常連かどうかさえわかりません。
 ただ、この村や町に住んでいて、この店を知らないってことはないでしょう。この地に生まれたら、一生に一度くらいは来店するかもしれません。たとえ、その一回だけしか来なかったとしても、どうしてうちの店と因果関係が生まれるのか──。常連さんだとしたら尚更ですよ。何度も来ている人だっているのに、なんともない人もいれば、こうしてそのうちの一回を殊更に取り上げてなんだかんだと文句を──いや、文句をつける。僕だって意味がわかりませんよ!
 ……すみません。先代から継いだばかりで、毎日忙しいし、その、いろいろストレスも溜まってて。お客様アンケートだけじゃなく、世間話とかしてても、私は噂話の類はあまり好きじゃないので、お客様の話についていけない時があるんです。「店長なんだからしっかりしないといかん!」って叱られることも日常茶飯事ですよ。
 ──はは、店長、ね。ここは私の店になったはずなのに、たぶん私の知らないことってたくさんあるんですよ。でも、それを自ら解決しようとは思ってない時点で、この店を少なくとも今の形のまま存続させようとはしてないってことなんでしょうね。店長失格、ですかね。
 あぁ、あとね。これは忠告ですけど、この村のこと知るのはやめたほうがいいと思います。ずっと住んでる自分が言うのもなんですが、異常ですよここは。
 え?あなた方が調べてるのは村じゃなくて、心霊スポット?──同じことですよ。
 うちも心霊スポットだなんだって言われてますけどね、村や町の人が勝手に騒いでるだけです。盛り上がるとしてね。実を言うと、若い子たちだけではありません。あなたもそれを聞いてきたんでしょう?昨日井戸端会議で噂してたかと思えば、次の日には普通に店で買い物してる。僕が知らないとでも思ってるんでしょうかね……。
 噂話をする人たちは信用できません。あんまり鵜呑みにしないでくださいね。それから、のことは問答無用に嫌う傾向があります。あなた、女の人だし──っていうのは、このご時世失礼かもしれませんけど──危険なことはやめたほうがいいですよ。
 いえ、お礼を言われるようなことはしてません。もしルポとして書くなら本当に、気をつけてくださいね。

 ◽️この取材の後、店長とは連絡が取れない
 ◽️店は変わらず営業している
 ◽️周辺で聞き込みをすべきか?
 
 

 



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