深見小夜子のいかがお過ごしですか?

花柳 都子

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背中を押したのはあなたの優しい言葉

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。学生の方は春休みを満喫されていますか? 社会人の方も新しい出会いや別れにソワソワされているかもしれません。「新しい環境でも頑張って」なんて、送り合ったりしているでしょうか。そんなふうに毎日SNSや連絡ツールを使っていると忘れがちですが、言葉というのは本当に難しいものですよね。
 面と向かって話していても、こちらの意図や気持ちを100%相手に伝えるのはまず不可能です。それが文字だけのやりとりなら尚更。どれだけ言葉や言い回しに気を遣っても、いい意味で捉えられるか悪い意味で捉えられるかは、結局のところ私自身も含め受け取る側の精神状態によるのだと思います。
 だからこそ「いい意味で」なんて台詞を付け足したりするのでしょう。でも、その時点で「悪い意味にもとれる」と自ら宣言しているようにも聞こえます。本人にそのつもりが一切なくてもです。
 受け取る側にとって不快に感じる言葉を「この人はわかってて言っているのか、それともわからないで言っているのか」がわからないと、なんだかモヤモヤしますよね。どちらにしても自分は聞きたくないと受け取る側が思ったら、コミュニケーションはうまくいきません。
 自分が知らなかったり、悪いと思っていなかったりすることに対して、人はあまりにも無防備です。他人にどう思われるかという意識すら持たないので、知らずあなたの発言や行動にモヤっとしている人もいるかもしれませんよ。もちろん私を含めて。
 とはいえ、人間は主観でしか物事を見られないので、全ての人にとって不快にならない言葉を発し続けるのには無理があります。それ自体は意見の相違であって、きっと世の中からすれば日常茶飯事なのでしょう。
 でも、いざあなたの目の前に命のことで悩んでいる人がいたらどうしますか? あなたはなんと声をかけますか? 「好きにしろ」ですか? それとも「大丈夫」でしょうか? 私はどちらも言えないと思います。この言い回しに限らず、少なくとも言葉では突き放すことも寄り添うこともできないだろうという意味です。
 元気づけてあげるとか、励ましてあげるとか、そういう答えがおそらく大多数でしょう。でもね、これは私の持論ですが「~してあげる」という気持ちでは、きっと相手にはいつまで経ってもこちらの意図が正しく伝わらないと思います。どうにか救ってあげたい。その気持ちに嘘がなくても、相手によっては押し付けられていると感じるかもしれません。「それはあなたが幸せだから言えるのよ」そんなふうに思われるかもしれないし、「もう手遅れだから放っておいて」と言われるかもしれません。
 もっと言うと、「最期は幸せな気持ちでありたい」と思う人だっているかもしれませんよね。あなたのその気遣いや優しい言葉が、最終的に背中を押す可能性だって存分にあるのです。
 ほら、何も言えなくなるでしょう? 実際に命のことで悩んでいる人は、どんな言葉も受け付けない雰囲気を持っています。悩みの種が『仕事』や『恋愛』ではなく『命』だから、何を言っても届かないのではありません。きっともう誰が何と言おうと届かないところまで来たから、悩みの種が『命』になるのです。『命』というのは誰にも共感できません。なぜならあなたの命はあなただけのものだからです。その人が何に悩み、どんなことが積み重なって、そういう選択をせざるを得ないところまで来たのか、あなたは全て知ることができますか? そんなことはどんなに近しい人にもできません。親でも兄弟でも、子どもでもです。おそらく本人にも全てはわからないでしょう。赤の他人がどうこう言えるレベルではもはやないのです。
 芸能人の方の哀しいニュースがあった時、あるネットニュースのコメント欄を読んでいると「そんなのは関係ない」という意見を多く見た記事がありました。確かに突拍子もなく、証拠もない記事でした。でも「関係ない」と言い切れるのは本人だけです。そのことが関係ある証拠もありませんが、だからといって全く無関係という証拠もありません。絶望というのは人それぞれで、至極感覚的なものです。あなたには何ともないことでも、その人にとっては命を左右するとんでもないことかもしれませんよね。
 想像するのは簡単です。こういうことがあったから、原因はあれかもしれない、きっかけは誰それかもしれない。実際そうなのかもしれません。でも、そうではないかもしれません。あなたが原因だと思ったことは、本人にとってはむしろ何ともないことだったかもしれませんよね。理由がわからないのはスッキリしないものですが、他人の理由探しほど無粋なものはありません。『命』というのはそれだけ他人には計り知れない、あなただけの大切なものだということはわかると思います。あえて言うなら、理由探しはご本人と深く関わった人たちにだけ残された使命です。その事実も覚悟もない人が、コメント欄で軽く残せるような感覚で踏み込んでいい場所ではないと個人的には思っています。あなたが納得できる答えが見つかればそれでいいのではないでしょうか。誰かに共感してもらえなくて当たり前です。あなたが考えた、あなただけの理由ですから。あなたの心のうちで、その方の心と自分なりに向き合ってください。これが正解だと私は思う、けれどそうじゃないかもしれない。私には見えていないものが、引き金を引いたのかもしれない。でも、今の私はこう思う。それでいいのです。たとえ、あなたの答えが正解でなくとも、考える行為そのものに不正解はありません。
 そう、できるならせめて、あなたの周りの『命』のためにその答えを大切にしてください。
 確かに意見や感想を言うのは自由です。ネットニュースのコメント欄もそのために設けられているのでしょう。でも、そのコメントもまた見知らぬ誰かの引き金を引く可能性があることも、忘れないでください。ネットだけじゃありません。電車の中で友達と交わした会話が、隣の席の人を絶望させてしまうかもしれない。
 とはいえ、そんなのいちいち気にしていたら生活できませんよね。だから、ただ、知っていて欲しいだけなのです。あなたの言葉が誰かの背中を押す日が来るかもしれないことを。誰にでもその可能性があるのだということを。
 どうしてこんな話をしたかと言えば、出会いと別れの季節だからかもしれませんね。春に限らず、人生とは出会いと別れの繰り返しです。その中であなたはどうか『あなたの命』を大切にしてください。そうすれば自ずと失いたくないあなただけの『命』が、周りにあることを実感する日が来ると思います。そのうちの誰も失わないよう、何を言っても届かなくなる前に、いえ、そのずっとずっと前に「幸せ」だと思える世界を作ってください。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。










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