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6 パーティーの夜2
単独計画の相手は想定以上のイケメンだった。 この流れにこの波に乗るしかない! リスベスは心の中でガッツポーズをとる。
銀糸の刺繍とオニキスがちりばめられたスレート・グレイの襟なしコート。同色のベストは黒糸で同じ意匠の刺繍が見える。シャツとふんわりまとめられたタイはリスベスと同じマーメイド・ブルーだ。細身の黒いストレートズボンは足の長さを強調していて洗練された青年の美しさに花を添えていた。
彼は持っていたグラスをリスベスに渡すと一層微笑んだ。
「僕はコード。家名は勘弁してくれる?」
つられてリスベスも微笑み返す。
「私はスゥ。ではこちらも家名なしで」
「ありがとう、堅苦しいのは苦手でね」
コードが背中に手を当ててリスベスをエスコートして会場を後にする。このさりげない強引さが遊び慣れている証拠だけれど、緊張しているリスベスにはありがたかった。
コードが案内した部屋は、大きな応接セットとベットがある簡素な客間だった。サイドテーブルには薬箱が置かれており、気分が悪くなった人が休めるように配慮されている。応接セット近くにメイドが一人立っていてワインと数点のオードブルをセットして一礼して去っていった。さすが王宮メイド。そつがない。
二人並んでソファに座ると、同時に息を吐く。予期しないシンクロにお互い目を合わせ、微笑む。
「とりあえず、第二王子と王子妃に乾杯」
「乾杯」
金色の強いとろりとした貴腐ワインは重厚感があり甘さがクドくなく、独特の芳醇な味わいで、会場でふるまわれたワインより格段においしい。社交界デビューしてから数年のリスベスにとって滅多に口にする事の出来ない高級ワインだ。
「おいしい、初めて飲んだわ」
「ネメシ・ロトゥハダーシュは貴重だからね。普通のワインの十分の一も生産できないから、滅多にお目にかかることがないよ。王城はお祝いで惜しげもなくワイン庫を空けてくれたみたいだね」
「そうなの? この味覚えておくわ」
「そうするといい」
沈黙。空け放たれたポーチの窓から、遠くパーティーの喧騒が聞こえる。
目の前にいる恋愛上級者であろうコードなら、心地良い沈黙なのだろう。しかし、リスベスからすれば、緊張で叫びだしたくなる数秒間である。心臓の音が耳に響いて余計に考えをまとめられない。
思い余ったリスベスはストレートにコードに言ってしまった。
「私の処女をもらってください!」
コードは目を丸くした後、
吹き出した。
涙を浮かべて笑うコードに、リスベスは深く、深ーく傷ついた。
バカな自分を心の中で罵りながら居ても立っても居られず、涙ぐみながら逃げ出そうとして立ち上がったリスベスの片手を掴み、コードも立ち上がる。
「ごめんよ、あんまり突然でストレートだったから、びっくりした。 考えてもご覧よ、そういうことを想定してこの部屋は用意されているし、僕も君とそういう事になりたいと思ってここに連れて来たんだよ? ただ、君があんまりストレートだから……」
コードは本当に驚いたのだろう。同じことを二回言った。
「でも……」
「君がどうしてそんな風に思い詰める事になったの? 君に協力するのはやぶさかでないけれど、訳を教えてくれるかな? さあ、旨いワインは心と口を軽くしてくれるエッセンスだから、もう一杯飲むといいよ」
ここは素直になるしかない。もう色々考えることも疲れた。コードは協力してくれると言うし……。
リスベスは、ぽつぽつと話しだす。
婚約破棄された事、夜会の男性たちが噂していた事、自分のコンプレックスの事を。
◇◆◇◆◇◆
焦らしてすみません!次回、次回やっと18禁です。
ネメシ・ロトゥハダーシュはハンガリーに実在するブドウで造ったワインです。
20歳以上の方、飲んでみてね~。
どちらさんもどちらさんもお楽しみに!
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