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9 魔術師、時々占い師
コードと出会ってから三年の月日が流れた。
リスベスは二年間の学院生活を終え、研究者として王宮魔術師として独り立ちして一年経ったはず、だった。二十歳を過ぎて仕事に打ち込む彼女は立派に嫁き遅れになりましたそうな。
「ヴァートレン師~ 教授が逃げたんです~ もうすぐ出発なのに~」
半分べそをかきながらやってきたのは、エンマ・アルヴォネン伯爵令嬢。ふわふわしたウォルナット色の巻き毛を首元で一つにまとめたクローム・グリーンの瞳の背の低い小動物系学生だ。
昨日の魔力の液化実験データの突き合わせで数字とにらめっこしていたリスベスは小さく舌打ちをして、エンマに向き直る。
「なんで、別の研究室室長の私に別のブレンバリ研究室の教授の探索依頼が来るのかな? エンマ嬢?」
「生態本に載っている場所は皆で手分けして全部探したんですぅ~! でも見つからなくて~」生態本とはブレンバリ研究室学生に代々伝わるブレンバリ教授の生態を記したノートの事。
「トラップは?」
「いつもの場所にデメルのチョコレートとトラップをすぐ仕掛けましたが、まだ……」
「もう! 検証は集中したいのに! めんどうくさいわね……」
「すみません、ヘルマン先輩が学会の出発時間に間に合わないのでヴァートレン師に占ってもらえって……」
「仕方ないわね……教授の髪の毛は持っているの?」
「はい、ここに! 今朝採取しました!」
「あの人まだ毎朝髪の毛抜かれてるの? そのうち禿げるわね。というか禿げろ」リスベスは小さく呪いを吐きながら部屋を出て廊下の壁面に貼ってある学院構内図に髪の毛を当てて、探査の呪文を唱えると、イメージが浮かんでくるのでそれをエンマに伝える。
「第一図書館の司書準備室。二つある方の奥側。……何だか黄昏ているわね」
「ありがとうございます! 早速捕まえてきます!」エンマがペコリと頭を下げて走り出す。
「お礼は余ったデメルのチョコレートで良いわよ」
「はーーい! あとでお持ちしますねー!」
研究室に戻ったリスベスは冷めてしまった紅茶を入れ直し一息つく。
「そうか、デメルのチョコレートが来るなら、コーヒーの方が良いわね。久しぶりにモカエキスプレスをセットしましょう、そうしましょう♪」
焙煎の深いコーヒーをバスケットに詰めてモカエキスプレスにセットして弱火にかける。しばらくするとコーヒーのいい香りが部屋に充満して幸せな気分になる。コーヒーの香りはリラックスさせてくれるが万年人手不足なこの研究室ではそうそう用意できないものだ。
(教授になってあんなに学生がいて研究に集中できる環境になったというのに、何が不満なのかしらねぇ? 師匠は)
その原因の一つが自分であるとは全く気付かないまま、リスベスの日常は過ぎていく。
◇◆◇◆◇◆
後れ馳せながら、バレンタインネタを混ぜてみました。デメルは実在するオーストリアの菓子メーカーです。誰かに渡す事が無くなった年齢ですが、毎年自分用に猫ラベルを買ってちまちま食べています。
お気に入りがもうすぐ600件になりそうで、動悸が……。が、頑張ります。
次回、教授の奇行の原因とコードの手がかりが!
どちらさんも、どちらさんもお楽しみに!
2/17 文中 パーコレーターをモカエキスプレスに変更しました。
リスベスは二年間の学院生活を終え、研究者として王宮魔術師として独り立ちして一年経ったはず、だった。二十歳を過ぎて仕事に打ち込む彼女は立派に嫁き遅れになりましたそうな。
「ヴァートレン師~ 教授が逃げたんです~ もうすぐ出発なのに~」
半分べそをかきながらやってきたのは、エンマ・アルヴォネン伯爵令嬢。ふわふわしたウォルナット色の巻き毛を首元で一つにまとめたクローム・グリーンの瞳の背の低い小動物系学生だ。
昨日の魔力の液化実験データの突き合わせで数字とにらめっこしていたリスベスは小さく舌打ちをして、エンマに向き直る。
「なんで、別の研究室室長の私に別のブレンバリ研究室の教授の探索依頼が来るのかな? エンマ嬢?」
「生態本に載っている場所は皆で手分けして全部探したんですぅ~! でも見つからなくて~」生態本とはブレンバリ研究室学生に代々伝わるブレンバリ教授の生態を記したノートの事。
「トラップは?」
「いつもの場所にデメルのチョコレートとトラップをすぐ仕掛けましたが、まだ……」
「もう! 検証は集中したいのに! めんどうくさいわね……」
「すみません、ヘルマン先輩が学会の出発時間に間に合わないのでヴァートレン師に占ってもらえって……」
「仕方ないわね……教授の髪の毛は持っているの?」
「はい、ここに! 今朝採取しました!」
「あの人まだ毎朝髪の毛抜かれてるの? そのうち禿げるわね。というか禿げろ」リスベスは小さく呪いを吐きながら部屋を出て廊下の壁面に貼ってある学院構内図に髪の毛を当てて、探査の呪文を唱えると、イメージが浮かんでくるのでそれをエンマに伝える。
「第一図書館の司書準備室。二つある方の奥側。……何だか黄昏ているわね」
「ありがとうございます! 早速捕まえてきます!」エンマがペコリと頭を下げて走り出す。
「お礼は余ったデメルのチョコレートで良いわよ」
「はーーい! あとでお持ちしますねー!」
研究室に戻ったリスベスは冷めてしまった紅茶を入れ直し一息つく。
「そうか、デメルのチョコレートが来るなら、コーヒーの方が良いわね。久しぶりにモカエキスプレスをセットしましょう、そうしましょう♪」
焙煎の深いコーヒーをバスケットに詰めてモカエキスプレスにセットして弱火にかける。しばらくするとコーヒーのいい香りが部屋に充満して幸せな気分になる。コーヒーの香りはリラックスさせてくれるが万年人手不足なこの研究室ではそうそう用意できないものだ。
(教授になってあんなに学生がいて研究に集中できる環境になったというのに、何が不満なのかしらねぇ? 師匠は)
その原因の一つが自分であるとは全く気付かないまま、リスベスの日常は過ぎていく。
◇◆◇◆◇◆
後れ馳せながら、バレンタインネタを混ぜてみました。デメルは実在するオーストリアの菓子メーカーです。誰かに渡す事が無くなった年齢ですが、毎年自分用に猫ラベルを買ってちまちま食べています。
お気に入りがもうすぐ600件になりそうで、動悸が……。が、頑張ります。
次回、教授の奇行の原因とコードの手がかりが!
どちらさんも、どちらさんもお楽しみに!
2/17 文中 パーコレーターをモカエキスプレスに変更しました。
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