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領都フルネンディク
33 笑わない赤ちゃん
しおりを挟む人は皆、無垢な子供の頃があります。キラキラした見目麗しい芸能人も何考えてるか解らない政治家もそこいらのオヤジも無垢で純粋な赤ん坊の頃がありました。そんな歌もありますし。
そうは言っても人間の端くれ、赤ちゃんにも首が座る頃には生理的微笑反射が無くなって個性が出てきます。
良く寝る子、良く食べる子など世話をする者にプラス面が最初に出る子や逆に眠らない子、カンが強く抱っこしていないと寝ない子、食が細い子などもいます。友人の娘は一歳半になるまで母乳とミルクと子供用ヨーグルトしか食べないツワモノでした。どうして成長できるのか不思議でしたが私があの世を去る少し前に無事成人しましたので友人と一緒に人間の神秘で片付けることにしました。でも当時の友人の苦しみは如何程だったのか……泣ける。
気にするな、と言えば簡単だけど、悩みに大小も貴賤もありませんからね。
声を大にして言いたい。世の中のお母さんは大変なんだよ~! なりたくても母になれなかった私からすれば、そんな苦労も、すごく、切ないほどに羨ましかったけどね。
まぁ無理に出産することも可能な医学が進んだ世界でしたが、自分の誕生日が母の命日なんていう重荷を背負わす可能性もあったわけですし、生まれてきてくれた子供にもあの人にもそんな思いさせたくなかったので。
案内されて通された温泉施設入り口横のログハウスの客間。赤ちゃんが居る家特有の甘い匂いが幸せ。先におむつとお土産を家主であるドゥイリオに渡します。
客間には簡素な応接セットとバウンサーが並ぶようにセットされています。促されて応接セットに座ると、ドアがノックされエミーに似たキャラメル色の髪と青緑色の瞳をした若い女性がティーセットをワゴンに乗せて入って来ました。すぐ後ろには白っぽいおくるみを抱いたドゥイリオがいてマルシアちゃんをバウンサーに寝かせます。眠っているようなので、静かにお話しましょう。
「はじめまして、セレナと申します。こちらで生産している紅茶で等級はOPをご用意させていただきました。おもたせで恐縮ですが、頂いたケーキとこちらで用意させていただいた紅茶クッキーです。どうぞお召し上がりください」
おお完璧。美人さんですしパーラーメイドの経験アリと見ました。
「ありがとう、ご苦労様。ノルベルトだよ。こっちは妹のマリアンネ。あと、ドラゴンのトゥーナとファフニール。大変な時期に申し訳ないけれど、そんなに長居しないつもりだからよろしくね」
私は未成年なので以下略。
「色々お気遣いいただきありがとうございます。差し入れとおむつ助かります」
「エミーとウチのマリアンネの力作だから、遠慮しないで使ってね」
「お嬢様もおむつを縫って頂いたのですね。ありがとうございます」
「いえいえ、おむつ縫えて楽しかったです。セレナさんの赤ちゃんを見るのを楽しみにしてきましたし」
そんな話をしていると、大人しくケーキを食べているファフニールが念話をしてきました。
『おい、この人間の子供、お前と同じく魂が二つあるぞ』
『えっ、どういう事?』
『持って生まれた魂の色が二つに分かれて見えるんだ』
『二つの人格があるって事?』
『そうだな。まぁ、お前のはほとんど同化しているけどな』
『視力もない今の状態での覚醒は大変そうね』
『覚醒? よくわからないが、相当動揺してるぞ』
目が覚めたら、いきなり赤ん坊じゃ辛いでしょうね。可哀想に。私の時は七歳で、ある程度体も精神も安定していましたからね。
『ねぇ、二つの内、成熟した方を眠らせることは可能?』
『……可能だが、完全に眠らすことはできないぞ』
『それでいいわ! ある程度、体ともう一つの魂の自我が安定する位まででいいから』
『媒体になるお前の魔力が必要になるぞ』
『いいわよ! 使って!』
『よし、じゃあ子供の傍に行け』
『うん』
私はカップの紅茶を飲み干すと明るく問いかけます。
「セレナさん、起こさないようにするから、赤ちゃんの顔見ていい?」
「良いですよ。もうそろそろ、昼寝から起きる時間ですし」
「ありがとう」
バウンサー横に移動して膝立ちになり中を覗くと、赤ん坊特有の茶色かかった金髪とグリーンの瞳。セレナさん似でしょうか? マルシアちゃんが居ました。
「かわいーい!」
小さくつぶやくとマルシアちゃんが思うように動かない頭をゆっくり動かし目だけがきょろきょろしながら顔をこちらに向けてきました。
本当にカワイイ。小さな口も鼻も柔らかいほっぺも。あー! すりすりしたい! 小さい手も桜貝のような爪も綺麗。掌に指を充てたらぎゅってしてくれるかな?
うっとりしているとファフニールの念話が聞こえてきました。
『そのまま、子供の目を見てろ。子供から話しかけられても応えるなよ。乗っ取られるぞ』
『怖っ。うん、解った』
どういう魔法なのでしょうか、二,三拍置いて、マルシアちゃんの中の人の声が念話としてきこえてきます!
『私は! どうしてここにいるの! どうしてうっすらとしか見えないの?』
本当だ、可哀想に。パニックになっていますね。
頭を撫でてあげたい、大丈夫だよって声をかけてあげたい。でも、我慢。
すると、私の背中から何かを鷲掴みにされゴッソリと後ろに引き抜かれる感じがしてバウンサーの縁を握りマルシアちゃんの目を離さないように耐えます。ちょっと、聞いてないよ? これ酷くない?
魔力切れ前のような眩暈に耐えていると、マルシアちゃんが三回連続で瞬きをした後、さっきまでせわしなく動いていた目が一点を見て、ニコッと笑いました。
生理的微笑反射です! 成功のようです! ああ! カワイイ! 天使!
『成功のようね? ファフニール?』
『ああ』
『後で色々詳しく教えてくれる?』
『俺もお前に聞きたい事がある。それからノルベルトにも説明しろよ?』
見るとノート兄様が氷点下の笑みを浮かべながらこちらを見つめていました。
怖いです。寒いです。
表ファジャに戻ってから二時間ほどノート兄様に怒られたけれど、マルシアちゃんがセレナさんに笑いかけるようになったとエミーから報告を受けて一安心しました。
◇◆◇◆◇◆
よく聞くけどよくわからない小児科用語
生理的微笑反射;新生児期~生後2ヶ月頃に見られる赤ちゃんの本能的な行動。「自分が笑うことで周囲が優しくしてくれる」という、自己防衛手段の一種と考えられている。
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