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遭遇
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「……うん、問題無さそうね。行きましょう。」
高園が廊下の角から外を確認して、安全の確認をする。
所々で光っている常夜灯を除けば、ほぼ暗がりのこの状況でも黒い霧は判別出来るそうだ。
「こっちからだと、渡り廊下を通らないとダメだな。隠れられそうな場所も少ないし、慎重に行こう。」
「出来ればそのルートは通りたくないわね。あいつが何処にいるかわからないし。」
「気持ちは同じだけど、最短ルートは潰されたんだろ?」
理科準備室からの最短ルートは、黒い霧に覆われていたそうだ。
目の上のたんこぶである例の亡霊とは違う奴らしいが、あまり刺激したくはないという事で少々迂回している。
「窓には気を付けてね。どうしてもやばそうなら、一旦理科準備室に戻りましょう。」
「了解。」
窓から差し込む月明かりによって照らされた渡り廊下に差し掛かった時、一歩前を進んでいた高園が突然しゃがみ込む。
無言のまま、止まれのジェスチャーをする彼女の位置は丁度窓に位置。
彼女と同じようにしゃがみ、聞こえるか聞こえないかという程に小さな声で囁く。
「窓の外に何かいるのか?」
「あいつよ。」
「すぐ近くにいるのか?」
「かなり遠く。グラウンドをゆっくりと歩いていたわ。」
グラウンドはこの渡り廊下からかなり遠い。
寧ろ、校舎内いないと分かっただけ大きな収穫ではないだろうか。
そんな甘い考えが見抜かれたのか、軽く肩を叩かれる。
「あれを見ていないから、そんな緊張感のない顔を出来るのよ。試しに覗いてみたら?」
「良いのか?」
「良くは無いけど、今なら最悪見つかっても逃げ切れるわ。早めに危機感を共有しておいた方が、お互いの為よ。」
「だったら見てみる。」
「たとえ長沢君にあいつの姿が見えなくても、絶対に騒がないでね。」
騒ぐなと念を押されながら、ゆっくりと窓の端から顔を出す。
かなり暗いものの、見慣れた学校の光景が広がり、件のグラウンドに目を向ける。
一目見て、何もいないと安心したのも束の間、校舎の影から何かが出てきた。
それは人の形をしているいて、身長は二メートルを超え、3メートルに届くだろうか。
手足は細長く、髪の長さから女性を連想させる。
時々ガクガクと、まるでゲームでバグった時のような動きをするのがとても気持ち悪い。
ゆっくりとこちらを振り返る動作をして──
「見えた。怖い。」
「あいつは見えたのね。バレちゃった?」
「多分バレてない、と思う。」
顔までは見なかったし、たとえこちらを見たとしてもほんの僅かに出した頭から位置がバレるなんて事は無い…はずだ。
「…うん。特に変化は無いし大丈夫よね?このまま伏せながら渡り廊下を進みましょう。」
「めっちゃやばかった。」
「でしょ。」
本当に気が付かれていないのか確認したい気持ちをグッと堪えて渡り廊下を抜ける。
本当は今すぐにでも理科準備室に逃げ帰りたい気持ちだが、そうも言っていられない。
「さてと、ここが図書室で合ってる?」
「ああ、手早く見つけよう。」
「心配しなくても、急にワープしてくるような襲われ方はしないわよ。今グラウンドに居るのなら、暫くは余裕があるわ。」
「今は理科準備室が恋しくて仕方がないよ。」
「聖域だからね。」
高園による安全確認の後、図書室の本を調べていく。
彼女曰く、探すのはめちゃくちゃ古い本だそうだ。
たかだか一般高校の図書室とはいえ、図書室であることに代わりはなく、気が滅入る程の本がある。
部屋の電気を点ける訳にもいかず、スマホの僅かな光で確認していく。
グルッと一周回って、お互いに古そうな本をなんとか数冊程集められた。
「うわ、すっごい古いな~、これ。」
「タイトルは読み取れないけど……。」
崩れ落ちてしまいそうな程にボロボロな本を慎重に手に取った高園は、パラパラと流し読む。
「ちょっと抽象的な絵が多いけど、これっぽいわ。他は適当に置いといて、この本を持って帰りましょう。」
「了解。」
古い本を適当に本棚へ戻した後、来た道をそのままなぞる様に戻る。
静まり返った学校に響く二人分の足音が反響して、遠くから音が返ってくる。
音楽を奏でているような心地良さを感じながら、時々歩調を変える。
「遊んでるところ悪いけど、着いたわよ。」
「遊んでなんか…ないって。」
この状況で遊ぶなという無言の圧を感じる嫌味に後ろめたさを感じながらも、否定する。
極力静かに移動しても、どうしても僅かな音は発生してしまう。
どうせなら少しくらい、気を紛らわせたってバチは当たらないだろう。
そんな事を考えながら、理科準備室へ戻る。
「さて、まずは解読していくんだけど、長沢君に出来る?」
「これは……無理そう。」
高園が適当なページを開き、見せてくる。
そこには、殴り書きのような字で僅かな説明と、それに対応している謎のイラストが描かれていた。
まるで古文書だ。
「じゃあこれの解読は私がやるわ。長沢君には頼みたい事があるの。」
「頼みたい事?」
「ええ、難しい事じゃないと思うわ。」
そう言って、彼女は再び本を開く。
特定のページで捲るのを止め、こちらに見せる。
「ここを見て。多分、除霊か何かの儀式だと思うんだけど、亡霊が苦しんでるように見えるでしょ。」
「んーまあ言われてみれば見える気がするな。」
「そのためには色々と準備が必要そうなんだけど、絶対に必要になるのを先に探してきて欲しいの。」
「え、一人で?」
「危険だけど、手分けしないと時間がかかりすぎるからしょうがないわ。」
「……分かったよ。それで、欲しいものは?」
「短剣よ。」
高園が廊下の角から外を確認して、安全の確認をする。
所々で光っている常夜灯を除けば、ほぼ暗がりのこの状況でも黒い霧は判別出来るそうだ。
「こっちからだと、渡り廊下を通らないとダメだな。隠れられそうな場所も少ないし、慎重に行こう。」
「出来ればそのルートは通りたくないわね。あいつが何処にいるかわからないし。」
「気持ちは同じだけど、最短ルートは潰されたんだろ?」
理科準備室からの最短ルートは、黒い霧に覆われていたそうだ。
目の上のたんこぶである例の亡霊とは違う奴らしいが、あまり刺激したくはないという事で少々迂回している。
「窓には気を付けてね。どうしてもやばそうなら、一旦理科準備室に戻りましょう。」
「了解。」
窓から差し込む月明かりによって照らされた渡り廊下に差し掛かった時、一歩前を進んでいた高園が突然しゃがみ込む。
無言のまま、止まれのジェスチャーをする彼女の位置は丁度窓に位置。
彼女と同じようにしゃがみ、聞こえるか聞こえないかという程に小さな声で囁く。
「窓の外に何かいるのか?」
「あいつよ。」
「すぐ近くにいるのか?」
「かなり遠く。グラウンドをゆっくりと歩いていたわ。」
グラウンドはこの渡り廊下からかなり遠い。
寧ろ、校舎内いないと分かっただけ大きな収穫ではないだろうか。
そんな甘い考えが見抜かれたのか、軽く肩を叩かれる。
「あれを見ていないから、そんな緊張感のない顔を出来るのよ。試しに覗いてみたら?」
「良いのか?」
「良くは無いけど、今なら最悪見つかっても逃げ切れるわ。早めに危機感を共有しておいた方が、お互いの為よ。」
「だったら見てみる。」
「たとえ長沢君にあいつの姿が見えなくても、絶対に騒がないでね。」
騒ぐなと念を押されながら、ゆっくりと窓の端から顔を出す。
かなり暗いものの、見慣れた学校の光景が広がり、件のグラウンドに目を向ける。
一目見て、何もいないと安心したのも束の間、校舎の影から何かが出てきた。
それは人の形をしているいて、身長は二メートルを超え、3メートルに届くだろうか。
手足は細長く、髪の長さから女性を連想させる。
時々ガクガクと、まるでゲームでバグった時のような動きをするのがとても気持ち悪い。
ゆっくりとこちらを振り返る動作をして──
「見えた。怖い。」
「あいつは見えたのね。バレちゃった?」
「多分バレてない、と思う。」
顔までは見なかったし、たとえこちらを見たとしてもほんの僅かに出した頭から位置がバレるなんて事は無い…はずだ。
「…うん。特に変化は無いし大丈夫よね?このまま伏せながら渡り廊下を進みましょう。」
「めっちゃやばかった。」
「でしょ。」
本当に気が付かれていないのか確認したい気持ちをグッと堪えて渡り廊下を抜ける。
本当は今すぐにでも理科準備室に逃げ帰りたい気持ちだが、そうも言っていられない。
「さてと、ここが図書室で合ってる?」
「ああ、手早く見つけよう。」
「心配しなくても、急にワープしてくるような襲われ方はしないわよ。今グラウンドに居るのなら、暫くは余裕があるわ。」
「今は理科準備室が恋しくて仕方がないよ。」
「聖域だからね。」
高園による安全確認の後、図書室の本を調べていく。
彼女曰く、探すのはめちゃくちゃ古い本だそうだ。
たかだか一般高校の図書室とはいえ、図書室であることに代わりはなく、気が滅入る程の本がある。
部屋の電気を点ける訳にもいかず、スマホの僅かな光で確認していく。
グルッと一周回って、お互いに古そうな本をなんとか数冊程集められた。
「うわ、すっごい古いな~、これ。」
「タイトルは読み取れないけど……。」
崩れ落ちてしまいそうな程にボロボロな本を慎重に手に取った高園は、パラパラと流し読む。
「ちょっと抽象的な絵が多いけど、これっぽいわ。他は適当に置いといて、この本を持って帰りましょう。」
「了解。」
古い本を適当に本棚へ戻した後、来た道をそのままなぞる様に戻る。
静まり返った学校に響く二人分の足音が反響して、遠くから音が返ってくる。
音楽を奏でているような心地良さを感じながら、時々歩調を変える。
「遊んでるところ悪いけど、着いたわよ。」
「遊んでなんか…ないって。」
この状況で遊ぶなという無言の圧を感じる嫌味に後ろめたさを感じながらも、否定する。
極力静かに移動しても、どうしても僅かな音は発生してしまう。
どうせなら少しくらい、気を紛らわせたってバチは当たらないだろう。
そんな事を考えながら、理科準備室へ戻る。
「さて、まずは解読していくんだけど、長沢君に出来る?」
「これは……無理そう。」
高園が適当なページを開き、見せてくる。
そこには、殴り書きのような字で僅かな説明と、それに対応している謎のイラストが描かれていた。
まるで古文書だ。
「じゃあこれの解読は私がやるわ。長沢君には頼みたい事があるの。」
「頼みたい事?」
「ええ、難しい事じゃないと思うわ。」
そう言って、彼女は再び本を開く。
特定のページで捲るのを止め、こちらに見せる。
「ここを見て。多分、除霊か何かの儀式だと思うんだけど、亡霊が苦しんでるように見えるでしょ。」
「んーまあ言われてみれば見える気がするな。」
「そのためには色々と準備が必要そうなんだけど、絶対に必要になるのを先に探してきて欲しいの。」
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