33 / 51
2章
33話 エマのストーリー
しおりを挟む
俺たちは水の揺りかごを見ながら、座り込んでいた。休憩を始めた俺たちに、ブレイブバードも近くの水場に座り込んでいた。
エマが俺とケンジに薄汚れた手帳を見せる。
「これね、お父さんの物なんだ……」
そう言いながらエマは手帳の中身を見せる。そこには書きなぐったような文字が手帳のいたるところに書かれており、使い込まれていることが分かった。それ以外にも何らかの建造物の絵や俺たちが戦った魔物、見たこともない魔物、それにこの試練の崖の絵も描かれていた。
日本語ではない未知の文字が書かれているが、俺にはなぜか書いてある文字の意味が分かった。
「『試練の崖、冒険者たちに試練として剣の群れが待ち構えている崖。大半の冒険者はここで冒険を諦めてしまう場所であり、これを乗り越えた先に島の楽園が眠っている』」
試練の崖の説明文に加え、さっきのソードストライクの絵が描かれていた。
俺が内容を読んでいると、エマが呟いた。
「私のお父さん、この島の開拓で初めて来た冒険者なの。たまに戻ってきてくれて、新大陸のお話を沢山してくれたの」
ケンジがお父さんとの思い出を語るエマを見つめていた。
でもね、そうエマは続けて言った。
「何回目かの探索で、お父さん、行方不明になったんだ。仲間の人が言うにはその手帳しか見つからなかったの。だから、私はこの手帳を見て、そして、お父さんを連れて帰ろうとこの島に来たの」
「そう、か」
俺は何と言えばいいか分からず、言葉に詰まった。
「重い話をしてごめんね……。さて、気持ちを切り替えるわ!」
手帳を仕舞うと、エマはにっこりと笑った。
「ああ」
NPCにそんな思い過去が……、なんて思わない。ナナシだって、エマだって俺にとってはちゃんと生きているんだ。こんな空想のゲームの中でも。
ケンジはこの話を無言で聞いていた。
……
「俺はそろそろ帰ろう。子供がもうすぐ帰ってくるかもしれない」
「あら?ケンジは子持ちなの?」
風景を見ながら携帯食料を食べ、休憩しているとケンジはもう時間がないらしいことが分かった。
「1人、息子がいるんだ」
茂みの中で聞いた、一緒にVRゲームをやろうとケンジを誘った子のことだろう。
「へぇ、調査隊に派遣されているのに息子さんを連れてきているのね。あまりそういう人は調査隊にいなかったと思うから少しびっくりしちゃった」
「……あぁ、まあな」
多分この帰らなければというのは俺に伝えたものなんだろう。だって俺たちは冒険者ではなく、仮想現実に遊びに来ているだけの、ただのプレイヤーなのだから。
「でも、どうやって帰りましょうか」
俺は疑問点を口に出した。さっきの崖を下るしかないだろうか?抜け道があるならば最初からそこを通ればいいわけだし、多分そういうのはあってもすぐには発見できない。しかもソードストライクの妨害もあるだろうから今まさに行きはよいよい帰りは怖いという状況だ。
まぁ、行きも十二分に怖かったけど……。
この場所でログアウトもいいかもしれないが、ログアウト中は無防備となってしまうため死亡してしまう可能性は高い。また、何らかのデメリットがあるか分からない。
「ブレイブバードに乗せてもらうってのはどうだ?」
ケンジが提案した。確かにブレイブバードは俺たち三人を背負えるぐらい大きい。だが、果たして乗せてくれるだろうか?
水場でゆったりとくつろいでいるブレイブバードのほうを見ると、こちらにゆっくりと近づき、なんと足をまげて体を俺たちの前で屈めた。
それを乗っていいという肯定の証ととらえ、恐る恐るブレイブバードに乗ろうとする。
ブレイブバードの体に乗り、羽毛を掴む。
「うわっ、気持ちいい!乗り心地もすごい!」
ふかっとした羽毛におしりを乗せると柔らかな感触と体温の暖かさが伝わってくる。
気持ちよさに浸っていると、どうやら3人とも無事に載せてもらうことができたようだ。
「わぁ、気持ちいい」
エマも最初は手を振り払われていたのが悔しかったのだろう、今度は乗れてうれしそうだった。
3人が乗り込むとブレイブバードが小さく鳴く。
「ガァ」
その巨大な翼を広げ、風をあおり始める。土煙が舞い上がり、徐々に体が浮いていく。と、空に浮かんだ次の瞬間、ブレイブバードが加速し始めた。
「おおおお!?」
とっさに羽毛を力強くつかむ。羽毛は頑丈なのか俺の全体重の力が加わっても抜けることがなく、何とか振り落とされはしない。
ブレイブバードの加速はさらに高まり、雲海へと突っ込んでいく。
とっさに目をつぶる。が、瞼を開けるとそこには雲海ではなく子鬼の森が広がっていた。
「すげぇ」
崖に囲まれた子鬼の森をまるでブレイブバードは自分の住処であるかのように優雅に飛び続けていく。これぐらいの速さだと風が強すぎると思うのだが、不思議と風は俺たちを包み込むように優しかった。
「わぁ、すご……い」
エマははじめは興奮したような様子だったが、体を包み込むブレイブバードの羽毛や体を抜ける気持ちの良い風に少し眠ってしまったようだ。
俺が片手でエマの体を支えていると、ケンジの腕がエマに伸びる。
「……、いい子だな。息子に見習わせたいぐらいだ」
ケンジは眠ってしまったエマの頭をやさしく撫でた。
エマが俺とケンジに薄汚れた手帳を見せる。
「これね、お父さんの物なんだ……」
そう言いながらエマは手帳の中身を見せる。そこには書きなぐったような文字が手帳のいたるところに書かれており、使い込まれていることが分かった。それ以外にも何らかの建造物の絵や俺たちが戦った魔物、見たこともない魔物、それにこの試練の崖の絵も描かれていた。
日本語ではない未知の文字が書かれているが、俺にはなぜか書いてある文字の意味が分かった。
「『試練の崖、冒険者たちに試練として剣の群れが待ち構えている崖。大半の冒険者はここで冒険を諦めてしまう場所であり、これを乗り越えた先に島の楽園が眠っている』」
試練の崖の説明文に加え、さっきのソードストライクの絵が描かれていた。
俺が内容を読んでいると、エマが呟いた。
「私のお父さん、この島の開拓で初めて来た冒険者なの。たまに戻ってきてくれて、新大陸のお話を沢山してくれたの」
ケンジがお父さんとの思い出を語るエマを見つめていた。
でもね、そうエマは続けて言った。
「何回目かの探索で、お父さん、行方不明になったんだ。仲間の人が言うにはその手帳しか見つからなかったの。だから、私はこの手帳を見て、そして、お父さんを連れて帰ろうとこの島に来たの」
「そう、か」
俺は何と言えばいいか分からず、言葉に詰まった。
「重い話をしてごめんね……。さて、気持ちを切り替えるわ!」
手帳を仕舞うと、エマはにっこりと笑った。
「ああ」
NPCにそんな思い過去が……、なんて思わない。ナナシだって、エマだって俺にとってはちゃんと生きているんだ。こんな空想のゲームの中でも。
ケンジはこの話を無言で聞いていた。
……
「俺はそろそろ帰ろう。子供がもうすぐ帰ってくるかもしれない」
「あら?ケンジは子持ちなの?」
風景を見ながら携帯食料を食べ、休憩しているとケンジはもう時間がないらしいことが分かった。
「1人、息子がいるんだ」
茂みの中で聞いた、一緒にVRゲームをやろうとケンジを誘った子のことだろう。
「へぇ、調査隊に派遣されているのに息子さんを連れてきているのね。あまりそういう人は調査隊にいなかったと思うから少しびっくりしちゃった」
「……あぁ、まあな」
多分この帰らなければというのは俺に伝えたものなんだろう。だって俺たちは冒険者ではなく、仮想現実に遊びに来ているだけの、ただのプレイヤーなのだから。
「でも、どうやって帰りましょうか」
俺は疑問点を口に出した。さっきの崖を下るしかないだろうか?抜け道があるならば最初からそこを通ればいいわけだし、多分そういうのはあってもすぐには発見できない。しかもソードストライクの妨害もあるだろうから今まさに行きはよいよい帰りは怖いという状況だ。
まぁ、行きも十二分に怖かったけど……。
この場所でログアウトもいいかもしれないが、ログアウト中は無防備となってしまうため死亡してしまう可能性は高い。また、何らかのデメリットがあるか分からない。
「ブレイブバードに乗せてもらうってのはどうだ?」
ケンジが提案した。確かにブレイブバードは俺たち三人を背負えるぐらい大きい。だが、果たして乗せてくれるだろうか?
水場でゆったりとくつろいでいるブレイブバードのほうを見ると、こちらにゆっくりと近づき、なんと足をまげて体を俺たちの前で屈めた。
それを乗っていいという肯定の証ととらえ、恐る恐るブレイブバードに乗ろうとする。
ブレイブバードの体に乗り、羽毛を掴む。
「うわっ、気持ちいい!乗り心地もすごい!」
ふかっとした羽毛におしりを乗せると柔らかな感触と体温の暖かさが伝わってくる。
気持ちよさに浸っていると、どうやら3人とも無事に載せてもらうことができたようだ。
「わぁ、気持ちいい」
エマも最初は手を振り払われていたのが悔しかったのだろう、今度は乗れてうれしそうだった。
3人が乗り込むとブレイブバードが小さく鳴く。
「ガァ」
その巨大な翼を広げ、風をあおり始める。土煙が舞い上がり、徐々に体が浮いていく。と、空に浮かんだ次の瞬間、ブレイブバードが加速し始めた。
「おおおお!?」
とっさに羽毛を力強くつかむ。羽毛は頑丈なのか俺の全体重の力が加わっても抜けることがなく、何とか振り落とされはしない。
ブレイブバードの加速はさらに高まり、雲海へと突っ込んでいく。
とっさに目をつぶる。が、瞼を開けるとそこには雲海ではなく子鬼の森が広がっていた。
「すげぇ」
崖に囲まれた子鬼の森をまるでブレイブバードは自分の住処であるかのように優雅に飛び続けていく。これぐらいの速さだと風が強すぎると思うのだが、不思議と風は俺たちを包み込むように優しかった。
「わぁ、すご……い」
エマははじめは興奮したような様子だったが、体を包み込むブレイブバードの羽毛や体を抜ける気持ちの良い風に少し眠ってしまったようだ。
俺が片手でエマの体を支えていると、ケンジの腕がエマに伸びる。
「……、いい子だな。息子に見習わせたいぐらいだ」
ケンジは眠ってしまったエマの頭をやさしく撫でた。
0
あなたにおすすめの小説
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活
シン
ファンタジー
世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。
大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。
GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。
ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。
そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。
探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。
そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。
たまに有り得ない方向に話が飛びます。
一話短めです。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略
神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。
そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。
これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる