トラップって強いよねぇ?

TURE 8

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2章

49話 目覚めた先

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 驚愕する俺を他所にメーエルはアーツを発言する。

「『バットショット』」

 短剣の切っ先をこちらに向けると、その切っ先から黒い線が飛び出した。

「っ、やばい!」

 俺は咄嗟に横にからだを転がす。そして、自分が元居た場所を見ると、床が何かが貫いたかのように穴が開いていた。

 もう少し遅かったら……、そんな想像をしてしまい、体に悪寒が走る。そうやって気を向けていると奴がまたもアーツを発言した。

「『バットショット』」

「っ!」

 まだ全身が痛む体を抑えながら、飛び起きて高速で迫る黒い線から逃げる。

 この黒い線は早いが直線的な動きしかせず、まだ回避はできる。

 だが、俺に乱射するようにアーツを連続で発動させていくその様子に驚愕する。

「くそ、なんで、そっちはアーツを連続で、使えるんだよ」

 回避しながら頭の中で考える。

 アーツは連続使用はできない。同一のアーツを使用する場合はクールタイムを必要とするのだが、メーエルのあの乱射具合からはその制約が見えない。

 俺は思考をさらに加速させる。

 メーエルの動きはやはり不自然すぎる。ステータスは不自然であり、怪我をしても瞬時に回復しており、なぜか俺の痛覚を現実レベルに引き上げることもでき、アーツも連続発動できる。

 やはりこいつはバク的な存在で、ゲーム内でなんでもできるのか……。

 回避しながらも俺の思考はその結論で終わった。

 なら、こいつを倒すすべはないのか……。

 ログアウトで逃げることもできず、戦っても倒すことはできない。

 周囲を見渡してもドアなど一つもなく、やはり逃げる場所が見当たらない。

 またも俺の心に訪れた絶望は行動を鈍らせた。

「あっ、ぐぁあ!?」

 回避が遅れ、太ももに黒い線が貫通する。

 立っていられないほどの痛みに俺は前のめりに倒れ込んでしまう。

「ぐぅ、痛い……痛い」

 血の出る太ももを手で抑えて呻いていると、俺の体に影が差す。

「っ、やめ、やめろ」

 俺の前にメーエルが立っていた。うつろな目はそのままに、口だけが悦に浸っているように曲がっていた。

「さぁ、最後にしよう」

「……!?」

 そう言いながら短剣を離し、俺の首を両手で掴み、持ち上げた。

「っ……!?」

 息ができない。窒息する苦しさに、俺の首にかかるメーエルの手首を引き離そうとするが、万力のような力で全く引き離せない。

 息が苦しく、声が出ない。

 苦しい、苦しい。頭の中を苦しさと恐怖で埋め尽くされるが、エマとの約束がまたも頭によぎり、せめてもの抵抗のように再度首を絞める手を引き離そうと力を掛ける。だが、やはりその強力な力を持って絞められ、引き離すことはできない。

 もう……だめだ。

 もうすぐ俺はこのゲームで死ぬ。ただ、ここで死んだら、もう俺はこのゲームを一生することはないだろう。もう、エマやケンジとも会えない。

 自分を奮い立たせようとするが、やはり無理であった。

 薄れる意識の中、俺は心の中で独り言ちる。

 ああ、やっぱりだめだった。俺はいつもそうだ。親に期待されて、弟にも期待されてたのに。

 昔の記憶が思い起こされる。

 すると、急に万力のような力で締め上げていた腕から俺は解放された。

「っ……」

 声も発することができないまま、床に倒れる。

 霞み、わずかしか見えない視界からメーエルを見上げると、何やら俺の後ろ側をじっと見つめていた。そして、体を翻して何らかのアーツを発言した後、俺の目の前から奴は瞬時に消え去ってしまっていた。

 正常な思考のできない俺はその光景を見ても理由など考えられなかった。

「……?」

 そして、薄れゆく視界の中、俺が最後に見た光景はカメラレンズのようなモノアイを備えた球状の機械、このファンタジーの世界観に一つもあっていないようなそれに見つめられているというものだった。

 俺は意識を失った。


……


「ふぅ、はぁ、はぁ、はぁ」

 
 気が付くと、俺の視界は真っ暗になっており、勢いよくヘルメットを脱いだ。ベットで仰向けとなっている体をすぐに起こした。

 過呼吸のような断続的な息を上げながら、冷や汗がじっとりと濡れた全身を見る。体全体を見て、怪我や尻尾や耳が付いていないことで俺はやっとここが自分の現実の世界に戻ってきたことが分かった。

 一際、大きな安堵のため息を吐くと、自分の体が震えていることに気が付いた。

「……怖い」

 俺はさっきの出来事を思い出していた。あの狂気的な様子や今まで体感したことの無い痛み。自然と体が震え、体育座りの姿勢で体を丸めて、震えを抑えた。

 体を丸めてしばらくその状態でいると、玄関から物音が聞こえた。

 俺は玄関の方を振り向く。その時、いつもの自分の薄暗く、レトルト食品の空が無造作に置かれた不衛生な部屋の様子が見えた。

 俺の部屋は少し大きな一部屋と洗面室、それに玄関とそれらを繋ぐ小さな廊下のみ。自分の座っているベットからは玄関までは見えない。

「……誰か来た?」

 誰かが訪ねに来たのだろうか……?高校の先生や同級生などは一回もこちらに来たことは無い。宗教の勧誘ぐらいしかない。

 俺は引きこもりで、imagine worldの世界では自由に話せるが、現実ではうまく話すことができない。それに、今の精神状態では、来た人が用事があっても俺は話せそうになかった。

 俺は居留守をしようと、息を潜めていると、玄関からかちゃりとドアを開く音が聞こえた。

「え、え?」

 聞こえるはずの無いその音に俺は焦る。もしかして、泥棒なのか!?と慌てていると、入ってくる者の足音が近づいてくる。

「ひっ」

 小さな悲鳴を上げながら、体を硬直させるしかなかった。

 そして、俺はその入ってきた人を見た。

 綺麗な女性であった。

「こんにちわ、前にコンビニで会ったね」

 切れ長の目で僕を見つめ、短いショートヘアーを少し揺らしながら彼女はこちらに近づいてきた。

 俺がわけが分からず、彼女を見つめていると、もう俺のそばまで来ていた。

「ゲームでは勇ましかったね。加藤浩二くん、いやカジくん?」

 俺に向けて笑顔でそう言った彼女の目は一つも笑ってはいなかった。
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